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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜Jacob's Dreame〜[1-2]
その数日前――
それはエジンベアの侵略を止め、さらわれた真理奈が無事に返って来てから数日後の事である。

「プレナさん色々とありがとうございます。船までもらっちゃって…」
「いいのよ。気をつけて行ってらっしゃい」

そうなのだ。ついに一行は船を手に入れたのだ。
しかもポルトガ製の新品で一級品だ。
国単位の購入でないと買えないくらいの値段で、普通はとてもじゃないけど手が出ない。
さすがにそこまでは…と断ったのだが、この町を救ってくれたお礼だと言ってプレナは聞かなかった。
しかしこの船があれば、これからの旅が楽になる事は間違いなかった。
プレナの押しにも勝てそうにもないので、ありがたく受け取る事にしたのだ。
そしていよいよ出発の日。
港口に浮かぶ船の前で真理奈とジュードはプレナと話していた。
フィリアは船内の準備をしているのだが、パトリスの姿はどこにもない。

「あ、そうだ! その代わりって訳じゃないけど……はいコレ!」

真理奈が袋からイエローオーブを取り出し、プレナに差し出す。

「受け取って下さい! プレナさんにとって大事なものだったんでしょ?」
「でも……」
「いいんです! ついでにプレナさんを連合大使に任命しちゃいます!!
 私達と一緒にゾーマと戦いましょう!!」
「真理奈ちゃん……」

満面の笑顔で、そしてなお、力強い。
それを見れば勇気付けられるのはなぜだろうか。
そこに一片の迷いも無いからだろうか。
その向こうに未来を見れるからだろうか。
それに背中を押されたのか、プレナは手を差し出しオーブを受け取る。

プレナができた勇者への唯一の恩返しの証。
それが自分の所へと返ってきたのだ。
数日前に見た時は辛かった昔を思い出したが、今は違う。
こうして手にすると、勇者にありがとうと言われている気がした。
イエローオーブの輝きはあの頃とまったく変わらずそこにあったのだから。
思わず涙が溢れてくる。

「おいおい勝手に決めるなよ。プレナさんにだって都合があるんだからよ。
 だいたい、ついでってのは失礼だろ?」
「い〜のっ! ね〜プレナさん!」
「えぇ、もちろん。その役立派に果たしてみせましょう!」
「やった!」

涙を拭いながら返事をするプレナ。
嬉しそうな真理奈と、その後ろで「何がいーんだか」と呆れているジュードの対比が可笑しい。

「ええっと、連合はこの世界の平和の為に国同士の連携を図る目的で結成されています。
 連合参加にあたっては情報交換や武器・防具・アイテム類の交易、
 さらには人材派遣などを通して魔物との戦いを有利に進めていければ、と思います。
 あぁ、でもそういうのはプレナさん得意そうだから安心ですね」
「おぉ〜!!」

真理奈が一息付いたところで、ジュードが感嘆の声を上げる。
しかし少し小馬鹿にした感じも含まれている。

「…何よ」
「いや? お前がちゃんと仕事してるから凄いな〜って感心したんだよ」
「ふふ〜ん。まぁね」
「丸暗記だけどな」
「うっ…うるさいなー」
「ふふ。分かりました。この町はもちろん、スーの村の皆も協力は惜しまないでしょう」
「良かった。よろしくお願いしますね」
「……ところでその連合にはエジンベアは参加しているの?」
「まさか。そんな話をするどころじゃありませんでしたよ」
「ならその役目、私に任せてもらってもいいかしら?」
「それは願ってもない事じゃな」

これ以上無いタイミングでパトリスが突然現れる。
狙ってやがったな。

「おじいちゃん! どこ行ってたの?」
「ん、エジンベアじゃ」
「何してたんだよ。朝からいないと思ったら…」
「すまんのう。その代わりニュースを一つ。エジンベア王が生きておったわい」
「え?!」
「一命は取り留めたんじゃが、精神的にまいっているらしい。
 まぁやら命の石というアイテムのおかけで助かったようじゃな」
「へぇ〜よく分かんないけど」

持ってて良かった命の石。
とか言う標語は無いけど、レアアイテム収集がそんなところで功を奏すなんてな…

(元気になったら絶対ブッ飛ばしに行こっと)

とは、真理奈の心情。王様…ある意味可哀相だな。

「あの王はともかく、エジンベアの国力は魅力じゃ。
 連合の意向に同調してくれるならそれに越した事はないじゃろ」
「えぇ、良く話合えば分かり合えるでしょう」
「本来なら我々の仕事なんじゃがな……」
「いえ、どちらにせよエジンベアとは手を取り合いたいと願っていたのです。
 ましてやそれが世界の為となるのなら喜んで」
「ありがとうございます。
 あとの詳しい事はアリアハン、及び諸国と連絡を取っていただければと」
「分かりました。世界の平和、必ず我々の手で」
「おー!!」
「ピー!!」

腕を振り上げ、飛び上がる真理奈。ブルーも真理奈の肩で飛び跳ねる。

……

ブルーの事ずっと忘れてた……
この前の戦闘シーンでまったく出番なかったよね。ゴメンね…
激しい炎でも使えれば活躍出来るんだけどなぁ〜(それはドラクエ5です)
しかしこれでエジンベアの事はプレナに任せて、次の目的地へと出発できるね!

さっそく新しい船に乗りこもうとする真理奈をプレナが引き止めた。

「はい?」
「真理奈ちゃん、この世界の下にもう一つ世界があるって知ってる?」
「え?! 知りません…地下帝国ですか?」

何の影響ですかそれは。プレナも分からないようで苦笑する。

「かつて魔王ゾーマはその世界から全世界を支配しようとしたのよ。
 私も行った訳じゃないから実感なんて無いけど…
 けど勇者が行ったんだから、違う世界があるっていうのは信じてもいいみたい」
「ほぉ〜凄いですねぇ〜」
「うん。だから真理奈ちゃんの世界もどこかで繋がってるのかもしれないって思ったの。
 だとしたら、戻れる可能性はあるんじゃないかって。
 一方通行な訳無いと思うし。
 それに真理奈ちゃんが出会ったゾーマを名乗ったその人もその世界の人なら、
 もしかしたら何か知ってるかもしれないよ」
「お〜なるほど! さすがプレナさん。考えもしませんでしたー。聞いてみますね!」
「うん!」

真理奈の元気な声を聞いて安心するプレナ。もうすっかり大丈夫みたいだ。
しかし聞いてみますってアンタ…
魔王と話し合いをするっていうのも、ちょっと考えると何だかシュールな気がするよね。

「じゃあ行きますね。色々とありがとうございました」

一人ひとりプレナと握手を交わして、一行は出発する。
やはりパーティーというのは良いものだとプレナは改めて思う。
ほんの少しだけあの頃に戻ったような感覚に陥り、勇者と別れた日の事を思い出す。

「勇者……会いたいな。うん、今度会いに行こう」

プレナは船が見えなくなってもしばらく海を眺めていた。
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