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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜Jacob's Dreame〜[1-1]
――――1――――

夢から唐突に目覚めた朝の現実感の無さは何なのだろうか。
起きているのは分かっているのに未だに夢の中にいるような、ごちゃ混ぜの感覚。
フィリアはその虚ろな時をベッドの中でしばし過ごす。
夢の内容を思い返そうとしていると、逆にどんどんと現実が意識を支配していった。
毎日の習慣がそうさせたのだろうか。

寝床から抜け出し、身だしなみを整える。
当然誰も起きてはいない。
しかしそのような時間に起きるのがフィリアの普通である。
早朝のお祈りをするためだ。
それは小さい頃から欠かした事はない。
場所自体は特に選ばないが、太陽の当たる所が良い。
だから大抵は外に出る事になる。

ふと隣のベッドを見ると、今日も真理奈の寝相が悪いのに気付く。
最近はその寝相を正してやるのも習慣になってきた。
変な体制なのを直そうと体を動かすと、「むー」と眉をひそめるのも何だか楽しい。
真理奈がちゃんとあお向けになったのを確認して、フィリアは部屋を出る。

夜明け前は静かだ。
特に日が昇り、その光が大地や海を照らし始める瞬間は全ての音が消え去ってしまう。
フィリアはその時が何となく好きだった。
その時に神を見出しているのかもしれない。
船首に向かい、適当な所でひざまずき祈る。
目を閉じ、自分の心の奥に向かっていく。
やがて日の光が自分の体を包み込むまで。

その時のフィリアはまさしく僧侶の名にふさわしく、美しささえ覚えるようだ。
真理奈のより若いフィリアの顔立ちは、幼さを残しつつも、整えられている。
髪は背中の真ん中辺りまで伸ばされ、一部の隙もない程ストレートだ。
しかし、真理奈と並べて見てみるとどうしても冷たい印象を受けてしまう。
と言うか、真理奈が明るすぎなのかもしんないけどさ。
ところで何を祈っているんだろう。
フィリアに聞いてみたいんだが、邪魔しては悪いしなぁ。

「お〜フィリアちゃん、めっけ!」

と言ってる側から、突然誰かがフィリアに抱きつく。
その言動からして真理奈しかいないんだけどね。
祈りの邪魔をされたフィリアだったが、動じる事はなかった。
顔を寄せてくるリーダーを若干鬱陶しいとは思っているようだが。
やはりまだ空は暗い。まだ目を開ける時間では無い。
ましてや真理奈が起きてくるなんて事は奇跡に近い。
「んわ〜」とか意味不明な事を口にしているのを見ると凄く眠そうだが、一応起きてはいるようだ。

「早いね」
「ん〜? 何か変な夢見ちゃってさぁ…」

そう言いながらワワワ〜とあくびをする真理奈。

「夢…」

フィリアは今朝の夢の事を思い出す。
やけに生々しく、記憶に残る夢だった。
何だかとても悲しかったような…
……
しかしまたしてもフィリアの思考は妨げられる。
そりゃ頭をスリスリと寄せられれば気にもなるというものだ。

「どうして抱きつくの?」
「え〜? だってフィリアちゃんあったかいんだも〜ん。一人は寒いよ」

ならその格好をまずどうにかしろと言いたいところだが…
毛皮のコートを羽織ってはいるが、丈が足りておらず下半身は相変わらずあらわになっている。

「寒かったら抱きついてもいいの?」
「そうだよ〜」
「……」

そんな寝ぼけ眼の人に説得力も何も無いんだけどなぁ…
けれどフィリアは抱きつかれてるのに悪い気はしなかった。
その感触が心地よかったから。

「スースー……」

黙り込んだと思ったら、真理奈は抱きついたまま再び夢の中へ行ってしまったようだ。
フィリアはその背中にそっと手を回してみる。

「あったかい」

そして朝日が二人を包む。
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