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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜Tower of Babel〜[9-1]
―――9―――

  「プレナさん…」
  「あ、真理奈ちゃん。起きたの?」

その声は周りの雑音にかき消されるくらいに小さいものだった。
が、プレナはそれに気付き、自分のテーブルに来るように手招きする。
プレナが置き手紙をして、真理奈を呼び出したのだ。
真理奈が席に着くと、飲み物が運ばれてきた。

  「それにしても無事で良かったわ」
  「こっちも、大丈夫だったんですね」
  「パトリスさんがエジンベアの人達を足止めしてくれたの。
   私も怪我しちゃったけど、フィリアちゃんが治してくれたし。
   ジュード君は私の事を守ろうとしてくれたみたい…後から聞いたんだけどね」
  「ふ〜ん、アイツが」
  「感謝しなくちゃね。
   ……そっちはどうだったのか、聞かない方がいいのかな?」

真理奈が黙ってしまう事で、他のテーブルの音が耳に入ってくる。
チラリとプレナを見ると、プレナは優しい顔で真理奈を待ってくれていた。

  「私…会ったんです」
  「誰に?」
  「魔王」
  「ま、おう…?」
  「ゾーマだって。モンスター連れてて…王様殺しちゃった…」
  「そう……怖かったね」
  「違うんです! そんな事じゃなくて…」
  「じゃなくて?」
  「その人…わ、私の世界の人だった」
  「――!!」

プレナは絶句する。
最近モンスターの活動が再び活発になっている事。
そして魔王が復活したのだという噂も聞いた事がある。
この世界が平和になった後も、モンスターは消滅する事は無かった。
プレナはその中から力を持ったものが現れただけだと思っていた。
それが魔王と呼ばれるようになっただけだと。
しかし真理奈の言った事が本当なら……

  「今まで…私は夢を見ているんだって思ってたのかもしれない。
   だって突然違う世界で生きることになったなんて信じられます?
   ほら、夢の中で冒険したり、何か大変な事に巻き込まれちゃう事あるでしょ?
   そういう時って何だが知らないけど自分は一生懸命生きようとするでしょ?
   あれと同じ感覚かなぁ…
   人が怪物と同じところで生きている世界。
   その中でボスを倒せば私は私の世界に帰れるんだと思ってた。
   夢から覚めれると思ってた。
   けど……そのボスが私の世界の人だったなんて、信じられなくて…
   でもそれ以上に……何で私なの、って……やっぱり思っちゃいます」

うつむいてしまう真理奈。
普段は明るく振舞っていても、その中では自分の問題にしっかりと向き合っているのだ。
けれど普段の性格から、それを他人に話すという事があまり出来ない。
それに、そんな相談は他人にとっては迷惑だという思いもあるのかもしれない。
当人を心配する人にとっては、むしろ話してくれた方が嬉しいのだが…

  「…真理奈ちゃんはさ、勇者ロトの話、聞いた事ある?」
  「詳しくは、知りません」
  「私ね、勇者と一緒に旅した事あるのよ」
  「え?!」
  「凄いでしょ?」
少し自慢するかのようにプレナは笑う。

  「アリアハンで勇者に誘われた時、私はまだ見習いの商人だったわ。
   知識を少し齧っただけの初心者。

   それなのにいきなり『ここに町を造ってほしい』って頼まれたのよ。
   普通に考えれば、無理な話だわ。
   正直不安だったし。

   けどその時は『やってやる!!』って気持ちの方が大きかったの。
   このチャンスを逃す手は無いと思って頑張った。

   その甲斐もあってか、町はどんどんと発展していった。
   どんどんと新しい建物が建って、新商品の入荷、そしてたくさんの人が移住して来たわ。

   凄く、嬉しかった。

   勇者も旅の合間に見に来てくれて、褒めてくれたし。


   けれど、町が大きくなると同時に、私の心にも慢心が広がっていったのね。
   ある日私は町人のリコールで牢屋に入れられてしまったの。
   当たり前よね。毎日毎日何時間も働かせちゃったし……
   町の事ばかり考えて、そこに住む人の事は考えてなかったんだわ。

   勇者にその事を怒られちゃった。
   その倍くらい励ましてくれたんだけどね。
   私は反省したわ。

   それからは人の気持ちを第一に考えるようになった」

  「でもそんな私がそれ以上に知りたかったのは、勇者の心の中。
   だって私が立ち直れたのは勇者のおかげなんだもん。
   それである時、聞いたの。

   『勇者はどうして世界を救おうとしてるの?』って。

   もう十分だと思ったの。
   その頃の勇者はバラモスを倒していたんだから。
   この世界はいったん平和になったわ。

   でも勇者はまだ行かなくちゃいけないところがあるって言ってた。

   だから…私はすがりついて泣いたわ。
   『もう旅は忘れて、世界の事なんか忘れて、この町で一緒に暮らそう?』って。
   そしたら勇者は何て言ったと思う?
   何も言わなかったわ。
   ただ笑って…『またね』 だってさ。


   私、今でもずっと考えてる。
   世界を救わないといけない人があの勇者だった理由なんて無いって。
   でも勇者は世界を救ったわ。
   そうしたのは、大切な人を守りたいって思ったからなんじゃないかって私は思う。
   彼の隣にはいつも、幸せそうにしている人がいたから…
   きっとその気持ちを貫く事と、世界を救うって事が同じ意味だっただけなんだって思う。


   彼はそれきり姿を現さなかったけど、きっとその人と幸せに過ごしてるんだわ。
   でも案外ひょっこり現れるんじゃないかって思ってる。
   だって勇者の事を思っている人がこの世界にはいっぱいいるんですもの。
   もちろん私もその中の一人」
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