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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜Tower of Babel〜[8-2]
  「ゾ……」

ゾーマ??

  「いや、先程まで侵攻に忙しかったんですよ。しかしその甲斐あってダーマを滅ぼす事が出来ました」  
  「ダーマを……?」

もはや青年の言う事を繰り返すしか出来ないエジンベア王。それは理解が追いつかない証拠だろうか。

  「しかしせっかく僕自ら出向いたっていうのにさ、防衛がこんなもんだったとはね。正直がっかりさ」
  「こらー! てめー!!」

そこに体を侵していた毒から復活した真理奈が、先程の危害について言及しようと立ち上がる。
そして青年と初めて対顔する。

  ―――――――― ドクンッ ――――――――

瞬間、湧き上がる違和感と懐古。
本来この世界の中では明らかにあってはならないものが、そこにはあった。
なおかつ真理奈にとっては懐かしいニオイのするものが。

  「え――?」
  「君は――」

彼の目には、赤を特徴とした制服を身にまとった彼女の姿。
彼女の目には、青を基調としたブレザーを一寸の隙もなく着こなしている彼の姿。

それは元の世界ではどこでも見かけるもの。
しかしこの世界では唯一無二だと思っていたもの。

故にこの出会いは、二人共予想しなかった事態。
数秒の沈黙の中、ただお互いを見つめる。

  「そうか。君も同じか」
  「え? 同じって……?」

青年の方から時を進める。
もう回答を見つけ出したかのようなその口ぶり。頭の回転が速い。
そこに追いつこうと真理奈も脳をフル回転させる。
ドラクエ世界ではない元の世界の服を着た相手が今、ドラクエ世界に、そして真理奈の前にいるという事。
そう、そこから導き出される答えは――

  「あんたもブレザー取られそうになったの?」

…………
いやいや! 違うから!! 
そこは 「あなたも私の世界からいらっしゃったの?」 とかでしょ!?
真理奈の言う事が本当だったらエジンベア王は変態だよ!?
いや、変態かもしんないけどさ……
まったく……
しかし青年はその言葉で、王と真理奈の関係を把握したようだった。

  「…? あぁなるほど、ね。残念だがそれでは0点だ」
  「むっ! じゃあ答え教えろよー!!」
  「もう言った。君はもう少し勉強した方がいい」
  「……友達いないでしょ?」
  「友達か……」

青年は遠くを見るかのように目を細める。
なぜか、憐れむような笑顔…
しかしそれも一瞬の事。

  「まぁいいさ。答えは、君も僕と同じように日本から来たという事さ」

青年の答えを貰い、真理奈の中でようやく目の前の出来事が少しずつ整理されていく。

  「あーあーあーあー、なるほどね〜うんうん。
   って事はあんたも世界を救うために? だったら私と一緒に……
   あれ? でもそしたら何で?」

モンスターが悪だとされているこの世界を救うのに、人を攻撃するヤツはいないだろう。
だから青年の先程の行動が、世界を救う為にしたものだとする事には矛盾が生じる。
それが真理奈の疑問。

  「世界を? ……なるほどね。ありがちな設定だ」

少しバカにしたような言い方。
そりゃそうだけどさ。王道と言ってもらいたいな、王道と。

  「設定?」
  「三つだけいいかな?」
  「むっ!」

さっきから軽く無視されているような感覚に、真理奈は少しイラッとする。

  「まず一つ。僕はこの世界が気に入っている。
   だから僕は別に帰りたいとは思っていない。
   だから君とは一緒には行かない」

指を実際に一つ立てながら説明する。いちいちカッコつけだな……

  「二つ。仮に君と一緒に世界を救っても、僕は帰れないだろう」

二つ目を立てながら、彼は真理奈から視線を逸らし、エジンベア王の元へ静かに歩み寄って行く。

  「え? どうして?」

それを目で追う真理奈。エジンベア王がこっそりと逃げ出そうとしているのが見えた。

  「ひっ!!」

しかし、入り口へ向かう王の前に立ちはだかる者……いや、あれはモンスターだ。
地獄の鎧、キラーエイプ、魔女。
その剣に、その拳に、その衣に、人の血と体の焼けた匂いが染み込んでいる。
城に残っていた兵士を殺して来たのだろうか……
地獄の鎧が目の前に這いつくばっている王をも殺そうと、武器を振り上げる。

  「やめろ」

青年はそれを制するように、地獄の鎧に言葉を投げる。
すると地獄の鎧は、それに素直に従った。
興奮して落ち着きの無かった他の二匹も、動きを止めて待機する。
その一連の流れは、青年が真実魔王である証拠なのだろうか。
そして自分の命がこの青年の肩にかかっている事を理解した王は、モンスターから後ずさりして逃げ、
青年の足にみっとも無くすがり付く。

  「た、助けてくれ!!  いくら欲しいんだ? ん?
   アイテムか?! なら地下の倉庫に――」
  「僕が欲しいのはあなたの命ですよ、閣下」

その物騒な言葉とは裏腹に青年がにっこりと笑い、王の目の前に手をかざす。
そして述べる死の呪文は――

  「ザキ」

それは心を殺す言葉。それに耐え得る精神力だけが、唯一の防御となる。
しかし、王の目は静かに閉じられた。
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