暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語
〜Tower of Babel〜[8-1]
―――8―――
「アルドゥス王!! あっ……」
城のどこかに待機していた兵士だろうか。ひどく慌てた様子で入って来た。
もっとも入って来るなり王の見てはいけない行為を見てしまい、余計に慌ててしまう。
「……どうした?」
一度高まった気分に水を差され、明らかに不機嫌なのが見てとれる。
しかし、普通なら動揺しそうなもんだが…
「は、はい! し、侵入者が――」
そこで言葉が途切れる。
真理奈からは部屋の入り口は死角なので事態の推移を見る事が出来ないが、
王の体がビクリを反応した事で、何かがあった事だけは悟る。
では王は何を見たのだろうか。
それは炎に包まれ、一瞬にして炭と化した兵士の姿だった。
ただの黒と成り下がった兵士が倒れ、絨毯に触れた部分からさぁーっと人の形が崩れていった。
「やぁ、エジンベア王。久し振りだね」
人であったものを踏みつけ、新たな人間が入ってくる。
王から見れば、まだ若い。青年。
「だ、誰じゃお前は!」
間の抜けた質問。 兵士は侵入者が、と言ったではないか。
そしてその兵士を殺したのは後ろから入ってきたこの青年に間違いがない。
とすれば、この少年が侵入者であろう。
まぁ王が期待したのはそのような答えではないだろうが…
「ふん…下の者を働かせて、自分はお楽しみタイムって訳ですか」
青年は2人を一瞥して笑う。
そして右手をかざして――
「イオ」
呪文を唱えた。
爆発は2人の手前で起こり、彼らを引き離すかのように吹き飛ばした。
「ぐはっ!!」 「いったぁ〜!!」
王は部屋の横壁に叩きつけられ、真理奈は王座の側に転がった。
(何なんだよー、一体……)
未だに侵入者の姿は確認できない。
目を開けると目の前には自分のバッグが横たわっていた。
(や、薬草!じゃないか… 毒消し草…あるっけ?
草臭くなるからいつもいらないって言っちゃうんだけど……)
震える手を伸ばす。 幸いな事に腕までは何とか動かせるようになったようだ。
力も徐々に戻り始めている。
真理奈はバッグの中に入っているもう一つの皮袋を取り出す。
匂いがイヤできつく縛っておいたのが仇となった。なかなか解けない。
が、絶対に無理ではなかった。確実に真理奈の中の毒の効果は薄れている。
何とか結び目を解き、中身を見る。
(あった! ラッキー!! おじいちゃんサンキュー!!)
渡された時は閉口したものだが、今は喜んで口を開いて食べるしかない。
「どこの世界でもやる事は一緒か。まいったな」
本当に困ったとは思えない明るい口調で青年がつぶやく。
「ま、人が作り出す社会なんてそんなものか」
一人で納得した後、青年は王の所へ静かに足を進める。
「お…お前は……」
息も絶え絶えに王は繰り返す。
「あなたもよく知っている者ですよ。会った事はありませんがね」
しかし彼は"久し振りだ"と言ったはずだ。一体……?
「では自己紹介しましょう。僕の名前はゾーマです」
ゾーマ
この世界でその名を冠する事が許されたのは、ただ一匹の魔物だけだった
それは圧倒的強者であり、魔物達の王
かつてこの世界を恐怖の内に陥れた張本人
勇者ロトによって倒されたのは、まだ人々の記憶に新しい
しかしそれ故に最強
まさに魔王と呼ぶべき者
その名は自身が滅び去った今でも人々の間で悪の象徴として語られる
そして今、再びその名を語る者が現れた
果たして彼は一体何者なのか
我々の物語はまだ、それを知るには早すぎるのかもしれない
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