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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜Tower of Babel〜[5]
―――5―――

商人の町。この世界では一番新しい町である。
数年で一大商業都市へと発展し、『世界中のものはここに集まる』とか
『ここで手に入らないものはない』などと噂されるようになった。
実際に訪れてみれば、それが本当かもしれない事を実感するだろう。
そしてもう一つの特徴が、移民の受け入れである。
人種を問わず誰でも受け入れ、しかもやり直しがきく町として有名でもあるのだ。
そんな町であるから、原住民であるスー民族との交友も良い。

普段は新しい町に入れば、真理奈が騒ぎ、ジュードがそれをたしなめようとし、
それをフィリアがじーっと眺め、その脇でパトリスが町の解説をしてくれるのだが、
そんな様子は今日も見られないようだ。
言わずもがな、あの2人の雰囲気が悪いからだ。
いつもと違っても仕方の無い事なのかもしれない。
さらにはあの兵士長もいるのだ。警戒心も相まって、沈黙のまま足を運ぶ。
対して町は喧騒に包まれつつも、独特の空気を作り出していた。

  「おい!いくらなんでもその値段は無いだろう?!」

一際大騒ぎになっている一角に通りかかる。

  「いや、ここに傷が付いている。これでは少し値が下がるくらい承知だろう?」
  「このくらい何だっ!使う分には変わらんだろうがっ!!」
  「確かにそうだ。しかし、商品として店に出す為には修理しなくてはならない。
   これだけの傷でもね。安くなるのは、その修理代だ」
  「ふざけんなっ!!そんなのこっちの知った事じゃねぇ!!」

金がやり取りされる社会では金銭トラブルは付き物だ。
やれやれと、パトリスが仲裁しようと足を踏み出そうとした時、一つの声が辺りに響き渡った。

  「まったくうるさいわね〜どうしたの?!」

  「なるほどね、だいたい状況は分かったわ」
  「何なんだよお前!」

それには答えず、女性はその客をキッと睨みつける。

  「あなた、泥棒したわね?」
  「あ?何言ってやがる!」
  「こんな新品を売りに来る客なんて、まずいないわ」
  「どうしてこれが新品だって言えるんだよっ!」
  「はぁ…しょうがないわね〜いい?
   これを作ったマヌ爺さんは自分の作品に日付を入れてるのよ?
   それを見れば一目瞭然じゃない」

盾を突き出し、これでもかと相手にしっかりと見せ付ける。

  「うっ……」
  「この傷はどうせ盗った時に付けちゃったんでしょ。
   まったく…盗るならもっと上手くやりなさいよね〜」
  「……」

どうやら盗賊らしいそいつはタジタジになって何も言えない。

  「で?」
  「……?」
  「いくら欲しいの?!」

少し怒気を込めて問いただす。

  「う…あ……3000」
  「3000ね。はい、毎度あり〜」

盗賊の手に3000Gを握らせ、そのまま顔を近づけてつぶやく。

  「もし次やったら黙ってないからね?」

盗賊はその言葉から逃げるように去って行った。っていうか逃げた。

  「ふぅ!」

わあっ!!っと店の周りの見物人達が声を上げ、皆その中心にいる女性に一声かけていった。

  「いや、すまねぇなプレナ…」
店主もその女性に礼を述べる。
  「いいのよ。あぁいうのもいるから気をつけなきゃね」

にこやかに笑いつつ、相手に少しの反省を促すやり方。
その意図を店主はしっかりと汲む。
  「あぁ、悪かった。そうだ、お代を――」

その申し出を軽く手で制する女性。

  「それにしてもマヌ爺さんのトコは夫婦揃って隙だらけなんだから。困ったものね」

そんな事を言いながら店主に手を振り、その場を後にしようとする。
その目が真理奈達のところで止まる。

  「あっ!」

嬉しそうな声を上げて真理奈の前まで走って来て、こう言った。

  「あなた達アリアハンから来たの?!」

興奮気味にそう言った女性は真理奈の手を握り、ブンブンと上下に振る。

  「私の家に寄って行かない?話聞かせてよ!」」

そして真理奈達の返事も聞かず、その手を引っ張っていく。

  「…どうするよ?」
  「まぁ話を聞くぐらい、いいじゃろ。ここの住民にも信頼されておるようじゃし。
   …お主はどうするんじゃ?」
  「…俺にはやる事がある」

パトリスがキャビン兵士長にたずねるが、兵士長はそう言い残し、人ごみに消えて行った。

  「何なんだ、アイツ。俺達の見張りじゃないのかよ」
  「分からん。が、ワシらにもやる事がある。彼がいない方が事を運びやすい」

パトリスはそう言って真理奈に着いていく。
ジュードはどこか腑に落ちないままそれに続いた。

  「ようプレナ!景気はどうだい?」
  「皆の税金でウハウハよ」
  「ケケケッ…」


  「お、プレナじゃん!今度また勝負しろよな〜新しい必殺技覚えたんだぜ!」
  「どうだかね〜生意気言ってるとまた返り討ちよ」
  「む〜今度のはホントに凄いんだからな〜!!」


  「プレナちゃ〜ん、お手手繋いじゃって新しい彼女?」
  「バカ言ってるんじゃないわよ。私はちゃんと男の人が好きなのw
   少なくともあなたじゃないけどね」
  「そりゃないぜ〜」


  「フヒヒ…プレナちゃん……今日も可愛いね」
  「ありがと。でもこの2人も可愛いでしょ?」
  「も、萌え〜!!」


 ………… ……… …… … 

  「はい、楽にしてね。今飲み物用意するから」
  「すみません。それにしても凄いですね…一体何者なんですか?」
  「あれ?自己紹介してなかったか。ゴメンね。私は商人のプレナ。よろしくね」

プレナは紹介にもならない事を言って皆と握手を交わす。

  「思い出した…商人プレナと言えばこの町の創設者じゃ」
  「「え?!」」
  「バレたかw」

そう言ってプレナは台所へ消える。

  「この町は数年前に作られたばかりなんじゃが、見てきた様に急成長を遂げ、
   今に至っている。それはひとえにプレナの手腕による、と聞いておる」
  「プレナさん凄いんだ」
  「ふふ、ありがとうございます。でもここまで町が大きくなったのは皆で頑張ったからよ。
   私一人の力じゃないわ」

プレナは皆に飲み物を配り、一息付ける。

  「プレナ、だれか きたか?」
  「あ、ゲノ。ただいま」

階段から一人の老人が降りてくる。
羽やら骨やらを身に着けていて、その装飾品からインディアンっぽいな、と真理奈は思う。

  「紹介するわ、スー民族のゲノ。彼が私にこの町を作ろうと提案してくれたのよ。
   ゲノ、こちらアリアハンから来られたお客さんよ」

よろしく、と一通り挨拶を済ませ、ゲノも含めてお茶をすする。

  「あれ?でもどうしてアリアハンから来たって分かったんですか?言いましたっけ?」
  「だってその紋章アリアハンの伝統工芸じゃない。私もアリアハン出身だから分かるの」

プレナが真理奈の制服を指し示しながら、懐かしそうな目でそれを眺める。

  「そうだったんですか〜」

しかし普段敬語を使わない真理奈がプレナには敬語を使っている。国王にもタメ語なのに…
変なヤツだ。

  「そうそう!だからアリアハンの話が聞きたかったのよ!最近何か変わった?」

そんなプレナの勢いに引き込まれて、しばらくアリアハン談議に花を咲かせる。
……皆、何しに来たか忘れてるんじゃないの?日が暮れちゃうよ…


  「それで?どうしてこの町に?」
  「おう、そうじゃった。忘れるところでした。実はですね……」

かくかくしかじか、とパトリスの説明を作者は華麗に回避した!

  「そんな…ひどい……」
  「……ひがしのくには わるいやつ。たからを もっていった」 
  「昔、この町が出来る前ね。エジンベアはスーに兵隊を送って貴重な宝を奪ったのよ」
  「それで今度はこの町が狙われたって事か。この町に何か凄い宝があるんですか?」
  「さすがに町の全ての物を把握するなんて出来ないから…
   私は王様じゃないから宝が私の所に集まってくる訳でもないし」
  「しかし今やこの町の流通具合は素晴らしいものになっています。
   エジンベア王は何か情報を掴んだのかもしれませんな」

そこでパトリスは茶に一口つける。もう建物の外は暗くなり始めていた。

  「しかし気になるのはエジンベア王が"戦争"だと言った事じゃ。しかも今回は
   ポルトガも絡んでおるからの。別の目的があるのかもしれん」
  「だったら悪いのはエジンベアじゃない。なのにどうしてあんな事言ったの?
   エジンベアを倒しちゃえばいいじゃん」

  「あの時エジンベアはすぐにでも出兵しそうな雰囲気じゃった。だから時間を稼ぐ必要が
   あると思っての。あぁしておけばワシらが帰るまでは動かんじゃろ。
   まぁそれでも少しの足止めにしかなっていない事に変わりはないがな」
  「ふ〜ん」

真理奈は分かった様な、そうでない様な返事をする。

  「でも私達は戦争をする気はないわ。確かにここにはたくさんの物がある。武器防具もね。
   けれどそれは人の血を流す為に使う物じゃないわ」
  「もちろんその通りです。だから何か解決策があるのではないかと、相談しに来たのです」
  「解決…策……」

さすがのプレナも初めての出来事に戸惑いを隠せないようだった。

  「プレナさん、こうしてはどうでしょうか。
   何と言ってもエジンベア王の発言力とアイテムに対する執着は見逃せないポイントです。
   そこでこちらから王の食いつきそうなアイテムを差し出し、それをエサにエジンベアと
   同盟、もしくは最低でも休戦協定の様なものを結ばれてはいかがでしょう」

  「でもエジンベア王にはイエローオーブを差し上げましょうとか何とか言っちまったじゃ
   ねーか。それ以外にまだやれるもんあんのかよ」
  「イエローオーブ……」

ジュードの疑問に重なるようにプレナがつぶやく。

  「だからあれは時間稼ぎじゃと――」
  「でもきっと向こうはそう取っちゃくれねーぜ」

  「むむむ…ではその時はまたワシの巧みな話術で――」
  「どうだかな〜船を大量に造らせてる時点で攻める気マンマンだって言ってたじゃねーか。
   約束果たせなかったと知ったらどうなる事やら……
   支配しちまえばその土地のアイテムだって集め放題になる訳だろ?」

ジュードに反論されパトリスはシュン、と小さくなってしまう。
いやパトリス、あんたは悪くないよ。そんな事言わせた俺が悪いんだよ……
沈黙に伴う息詰まった空気が続いた後、プレナがそっと口を開く。

  「イエローオーブ、今持ってるの?」
  「?? ありますよ?」

真理奈がバッグからオーブを取り出し、プレナの方へ差し出す。
プレナはすぐには受け取らず、少しの間見つめた後、それに触れた。
その手は微かに震えていた。

  「イエローオーブ……またこれに会えるなんて……」

両手でオーブを包み、感慨に耽る様に目を閉じた。

  「プレナさん、またって?」

その問いには答えず、皆の疑問が目線で交わされる。
ゲノだけは微笑み、その答えを知っている様だった。

  「うん、分かった」

そう言うプレナの顔は生き生きと輝いて見えた。

  「エジンベアに服従なんてしない。媚びもしない。けど抵抗もしないわ。
   私はもう町の皆を苦しめる様な事はしないって決めたんだもの」

  「プレナ……」

ゲノが感動と心配を込めた声で彼女の名前をつぶやく。

  「それに今は人同士で争ってる場合じゃないわ。だから私、王と話し合いに行くわ」
  「…ホントにそれで解決すると思ってんのかよ」
  「やってみなくちゃ分からないわ。それとも何か良い策があるの?」

しかしジュードには返事が返せない。

  「王だって同じ人間でしょ。モンスターじゃないんだからきっと分かり合えるわ」
  「ピーッ!!」

そこで真理奈のふとももで大人しくしていたブルーが跳ねて叫ぶ。

  「あははwブルー君も大丈夫だってw」

そう言って笑うプレナの笑顔は、何とも言えず魅力的だった。

  「も〜めんどくさいな〜こういう時携帯があれば便利なのにな〜」

話合いが終わったのが夜に差し掛かった頃だったので、出発は明日の朝という事になった。
ありがたい事にプレナの家に泊めてくれるという事になったのだが、
兵士長の事をほったらかしにしていたのを忘れていたのだ。

"探して来い"と言われて嫌々出てきた真理奈だが、
正直、別にあんなヤツいいじゃん、と思っている。
ちなみにブルーは眠たそうだったのでお留守番だ。
あと少し適当にフラフラしたら帰ろうとか考えていると、兵士長の後姿が目に入る。
兵士長は背が高いのですぐに分かる。

  「おーい、兵士ちょ〜」

相手に届くような声量で声をかけながら兵士長の所へ走っていく。
その真理奈の声に気付き、兵士長が振り返る。
と同時に、その右手が振り上げられる。
その行動に真理奈は不思議に思うが、体は近づくのを止めなかった。

一瞬後、チクッとした痛みと共に体の力が抜けていくのを真理奈は感じた。
崩れ落ちていく真理奈を涼しい目で兵士長が見下す。
その右手には毒針が握られていた。
急所に入れればモンスターでさえ一撃で仕留められる武器だ。
刺す時間と毒の種類・量を間違えなければ、人間相手でも上手く戦闘不能に出来る。

  「あ…あ……」

声も満足に出せなくなった真理奈を兵士長は片手で抱き上げる
そして懐から取り出したキメラの翼を放り投げた。
2人の姿は夜の闇に紛れるように消え去った。
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