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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜Tower of Babel〜[3]
―――3―――

甲板に立つ真理奈の髪が海風にサラサラとなびく。
何も考えなければ、それはとても気持ちの良いものだ。
しかしそれとて真理奈の憂鬱な気持ちを吹き飛ばしはしなかった。

  「おい」

ジュードのその声も同様だった。
むしろその声色から、自分にとっては良い話では無い事を直感する。

  「何よ」
  「最近気合は入らな過ぎだぞ」
  「またその話ー?」

真理奈はうんざりといった表情で顔を背け、両手を後頭部に回し、ジュードに背を向けて喋る。
心の中には、仲間に悪いという気持ちがあるのかもしれない。

  「いいじゃん。実際私がいなくても上手くいってるじゃん」
  「いってねーから言ってるんだろ。
   一応リーダーなんだからしっかりしてくんないと困るんだよ」
  「え?私ってリーダーだったの?」

純粋に不思議だといった顔をしてジュードの方に振り向き、聞き返す。

  「一応、な。まぁ盛り上げ役とも言うが」
  「バカにしてるでしょ?」
  「してねーよ。お前がそんなんだとだな〜、その……」

口ごもるジュードに真理奈は痺れを切らす。

  「もういいわよ。じゃあリーダー役はジュードに譲ってあげる。
   それでいいでしょ?」
  「俺が?」
  「そう。新リーダー頑張ってね。はい、一件落着」

真理奈は早く会話を終わらせたくてそんな事を言ったようだった。

  「……俺がリーダー、か…」

船首に向かう真理奈を見ながら、一人つぶやく。

  「良い響きだ」

エジンベアへ向かう道中。
その船を進ませる海風は、ジュードの方に良く働いたようだ。

『世界の中心であり、最も品の高い国』を自称する国、エジンベア。
国民達にとっては、それは真実そのように信じられている。
いつの時代も貴族としての精神を忘れぬよう、教育を施されていた。
故にそれは他国を軽視する思想を生む土壌ともなった。

エジンベアにおいて最も特記すべきは、その軍事力にある。
鍛えられた兵達の戦闘能力と統一力は世界一で有名である。

そしてもう一つ、この国を語る上で外せないものがある。
王のコレクション趣味である。
お宝専用の部屋があり、仕掛けを作って何百という宝を保存しているらしい。
時にコレクション収集の為だけに出兵する事もあるようだ。
何にせよ、自分達がやっている事に疑問を持つという事は無いのかもしれない。

  「駄目だ。許可証が無い者は中には入れぬ」

ポルトガから出航した船に乗り、たどり着いた一向は城に入ろうとしたところで止められてしまった。

  「しかし、アリアハンからの使者であるし、ロマリア・ポルトガからの――」
  「駄目なものは駄目だ」

ニヤリと不気味な笑みを浮かべて、真理奈達の前に立ちはだかる門番兵士。

  「どうあっても通してはくれんのかの?」
  「まぁ、無理だな」

顔は笑っているが、目だけは威嚇するようなキツイ印象だ。

  「それでは仕方ありません。実はそれとは別にもう一件、
   エジンベア王に献上したい一品があったのですが……止むを得ませんな」

いかにも残念だという振りをして、パトリスは踵を返す。

  「ほう……それは何だ」

パトリスの狙いに気付いているのかいないのか、兵士が呼び止める。

  「伝説の……オーブにございます」

一瞬驚いた表情に変わったが、すぐに笑みを取り戻す。

  「そうか。では特別に許可証を出してやろう」

一枚の紙に何かをサラサラと書き付け、折りたたんでからパトリスに手渡した。

  「いいか?これをしっかりと王に見せるのだぞ」

そう念を押してから兵士は城内に入れてくれた。

  「何アレ?」
  「兵が功績を求めない事は無い、という事じゃな」

パトリスのその説明にも真理奈は首を傾げるばかりだった。

こうして真理奈達はエジンベア王と接見する事に成功した。
新リーダーとなり、張り切るジュードに無理矢理連れてこられた真理奈は多少むくれていたが…

  「はじめましてエジンベア王、私達はアリアハンの使者でございます。
   アルドゥス陛下のお声は我らアリアハンにも聞こえております」
  「おぉ、アリアハンのような田舎にも私の名前が届いておるのか。結構結構」

王は満更でもなくパトリスの世辞に満足したようだった。

  「本日はポルトガからの船の第一陣が届いた事をお知らせにあがりました」
  「そうか、ご苦労だったな。用はそれだけか?」
  「いえ……」

パトリスは、いかにも言いにくい事だという雰囲気を出してから喋り出した。

  「実は私達は世界連合結成に向けて旅をしているのですが、船が無いとやはり不便だと感じました。
   そこで船を一隻頂けないかと申し出たのですが、ポルトガ王に断られましての。
   しかしエジンベア王が許可すればいい、とおっしゃられたのでこうして参った次第です」
  「ふん。ナヴィアスめ、余計な事を……」

アルドゥスは少し考えるようにした。

  「しかしな、今は船の一隻も無駄にはできんな」
  「と、おっしゃいますと…?」
  「今我が国は戦争の準備中なのだ。西に新たな、良い町があると聞いての。
   やがて世界を制する我らの支配下に、まずそこから加えてやろうと思っておるのじゃ」

その言葉にさすがのパトリスも黙ってしまう。

  「お前ッ!今の状況分かってんのかよ!こんな時に戦争なんてなぁ!!」

ジュードが堪らず前に出て、怒鳴りつけてしまう。
失言。本来ならその発言だけでこの場には居られなくなる。
間を置かずにパトリスが繕う。

  「申し訳ありません陛下……何分若いものですから……」
  「ふん。やはり東の国は野蛮らしいな」

殺気立つ控えの兵士達を下がらせるアルドゥス。
パトリスもジュードに目をやり、黙らせる。

  「確かに陛下のおっしゃる通りですな。この国は気高く上品で貴賓に溢れています。
   西の大陸など植民地にしてしまえばいいのです」
  「そうじゃろそうじゃろ」

突然の発言内容に驚く真理奈達を気にもせず、パトリスは続ける。

  「しかし陛下とて戦争などという野蛮な行為を、出来るならばなさりたくないはず。
   それでは東の国と変わりませぬ。
   そこでです。
   一度向こうに使者を出し、降伏を勧めてみてはいかがでしょう?」

東の国と同じ呼ばわりされた事に顔をしかめはしたが、王は冷静に聞いていた。

  「なるほど…成功すれば血を流さずに済むな。ではさっそく使者を出す事にしよう。誰か――」
  「いえ、それには及びません」

間髪入れなかった事と、それが意図の読めない返事だった為、王は少し戸惑う。

  「……?」
  「我々がその役目を負いたく存じます」
  「そなたらが?しかしな…」

発せられる事の無い王の言葉の続きをパトリスは敢えて待ってから発言した。

  「…陛下はこの方をご存知ではないのですか?」

そう言ってパトリスは真理奈を王の前に連れ出す。
困惑する真理奈。それを見、王は記憶を探る。

  「……?知らぬが」
  「かのロトの子孫でございますぞ」
  「「え?!」」

予想だにしない答えに驚いた真理奈と王は、共に間抜けな声を出してしまう。
そして互いに、その場を繕おうと咳払いをする。

  「真理奈、オーブを」
  「?う、うん」

取り出したそれは、誰の目をもその光の中に取り込み、心を解放に導こうとしているかのようだった。
この実物を見て、これが偽物だと言う人は誰一人存在しないだろう。

  「胸に輝くロトの紋章。そして伝説のオーブを持つ者。
   ロトの末裔だと信じるに足りない事はないでしょう」
  「そう言われれば…そんな気も…」

真理奈をジロジロと見つめる王。あんまりオヤジに見つめられるのは良いモンではない。
真理奈は少しげんなりとする。

  「もし我らの役目が無事に果たせましたら、このイエローオーブを差し上げましょう」
  「本当か?!」

一瞬にして王の表情が変わる。
そこでパトリスは勝利を確信した。

  「ルビス様に誓って」
  「そうかそうか。ではお願いする事にしよう」
  「ありがとうございます」

パトリスは上手くいった、という感じで王に礼を言う。

  「その代わりと言っては何ですが……」
  「ん?あぁ、よいよい。分かっておる。安心して事を運ぶが良い」

すっかり上機嫌となった王にパトリスは再度礼を言い、真理奈達はその場を後にした。
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