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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜Tower of Babel〜[2]
―――2―――

造船都市ポルトガ。
ロマリアの西に位置するこの国は、勇者ロトに船を与えた事で一躍有名になった都市である。
それまでは特に特徴の無かったのだが、以来は本格的に船の生産に乗り出し今に至る。
海岸沿いには造船所が立ち並び、町の男達が毎日忙しく腕を振るっている。
その甲斐あってか、今やポルトガの船と言えば「世界を渡る事の出来る船」として
評判を喫しており、多くの国や金持ちの一種のステータスとなっていた。

  「こりゃあ何とも…忙しそうな町だな」
ロマリア王の手紙を持つ真理奈達は、途中の関所も難なく通る事ができた。
ポルトガの町に入ると、住民達は脇目も振らずに早足で歩いている。
  「今が最も稼ぎ時じゃからの。他国からも働きに来るらしい」
  「そりゃ凄い。でもまぁこれなら船の一隻くらい簡単に手に入りそうだな」
ジュードがそう言うのも、海岸の方に船の帆がたくさん並んでいるのが見えるからだ。
  「んじゃあさっそく催促に行こうぜ」
ジュードが踏み出そうとした時、真理奈がそっぽを向いてポツリとつぶやいた。
  「私、行かない」
  「…何でだよ」
  「何だっていいでしょ。紹介状だってあるんだし。
   それに私よりおじいちゃんの方がエラい人には気に入られるよ」
  「お前っ…!!」
思わず怒鳴ってしまう。すかさずパトリスが間に入り、なだめる。

  「まぁいいわい。真理奈はフィリアと一緒にいなさい。ジュード、行くぞ」
  「……ちっ」
ジュードが舌打ちをしてパトリスについて行く。
それすら真理奈にはわずらわしく思えた。
悪い事をしてるとは分かっているのだが……

  「お目にかかれて光栄です、ポルトガ王。
   私はアリアハンの使者、パトリス。こちらはジュードと申します」
  「あぁ、それで、何用かな?」

王との会見が実現したのは、パトリス達が城を訪ねてから2時間もしてからだった。
それにもかかわらず王は自分の事については何も言わず、すぐさま用件を聞こうとした。
しかしパトリスはその事には触れず、話を進める。

  「…はい。実は私達は世界連合結成の為、世界を回らなければならないのです。
   貴国の船が立派なのは、遠くアリアハンにも聞こえております。
   そこで世界の平和の為にも、私達に船を分け与えてくださらないかと参った次第です」

王は静かに聞いていたが、最後の方には興味無いというような目になっていた。

  「世界の平和、ね…」

いかにもくだらない、といった感じで言葉を発する。

  「結論だけ言う。無理だ」
  「…なぜです、ポルトガ王」
  「今我が国は、自国とエジンベアの為だけに船を造っているのだ。
   そなた達の為にやれる船は一隻も無いわい」
  「しかし、こうしてロマリア王の紹介を受けている訳ですから……」
  「ロマリアか……」

王は考えるように、少し天井を見上げるようにした。

  「しかし、我が国だけの一存では決められない。
   エジンベア王に船の納品が遅れる事を承認してもらえれば、考えない事もないがな…」
  「それが世界平和に繋がるとしても?」

王は、一呼吸置いてから答えた。

  「私から言えるのはそこまでだ」
  「そうですか。ではその後、またお伺いいたします」

王はそれには答えず立ち上がり、席を外してしまった。

  「散々待たせといてあれかよ……じいさん、いいのか?」

小声で愚痴る。
会見に居合わせた者達に目をやると、あからさまに視線を逸らされた。

  「仕方あるまい。今の王には、我々に向ける余裕は無いようじゃからの」
  「くそっ…それにしたってエジンベアまでどうやって行くんだよ。
   あそこ行くのだって船がいるってのに」
  「泳いで行くか?」
  「そしたらモンスターに食われてこの旅も終わりだな」

2人が退出しようとすると、王座の横で控えていた大臣が独り言のようにつぶやいた。

  「あぁ、そうだ。今日の午後にエジンベアに納品の為、船が出発するんだったな」

パトリスは声に出さず礼をして、その場を下がった。
そして城を出た所で目を細めてこう言った。

  「ま、エサにはならずに済みそうじゃな」

真理奈は海岸の砂浜に寝そべって、空を見上げていた。
ここは町の外れの方で、船を造る音よりもさざ波の音の方が良く聞こえた。
真理奈は流れる雲の一つを見続ける。
そしてそれが視界から消える度に、右手に持った携帯を開いてはため息をつくのだった。

隣にはフィリアが座っているが、そんな真理奈には関心が無いようだった。
体育座りをし、ブルーを両手で持ちじっと見つめている。
ブルーもフィリアを見つめ返しては、時々意味無く「ピー」と鳴いている。

  「はぁ……」

この頃の真理奈は携帯を見るのが癖になっていた。 
1日に何回も。
それくらい普通だと思われるかもしれない。
しかし、真理奈のそれは少し違う。 
黒くなった画面を見るだけなのだ。
そこに自分の顔が映るのが見えると、途方も無く虚しくなった。
そして、閉じる。 
その繰り返し。 
何の操作も出来ない。
真理奈をこの世界に運んだのは、ルビスとこの携帯だと彼女は思っていた。
その一つが使えなくなった今、この世界を平和にする事にどんな意味があるのだろうか。
ましてや、もう一つの要素であるルビスとの連絡手段がこの携帯なのだ。
その両方を失った事に等しいだろう。

だから真理奈はやる気を無くした。

  「……ねぇ、フィリアちゃん。元の世界に戻る呪文って無いの?」

真理奈は、ごろっと体をフィリアの方に向けた。
そしてフィリアの幼く可愛い顔を見る。

  「…そんな呪文知らない」

しかしフィリアは真理奈の方を見もせず、答えた。

  「そうだよね〜…あぁ〜……」

無意味にフィリアの体の脇をつついてみる。
ちょっとビクっとしたフィリアはそこで初めて真理奈の方を向いた。

  「……ブルーが、可哀相だと思う」

そう言ってフィリアはブルーを真理奈のお腹に乗せる。
そして立ち上がり、どこかに歩いて行ってしまった。

  「……んん〜意味分かんないよぉ〜フィリアちゃあ〜ん……」

手足を伸ばしバタバタと暴れてみる。
ブルーは分かっているのかいないのか、真理奈のお腹で跳ね、「ピー!」と元気に鳴いた。
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