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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜Tower of Babel〜[1]
―――1―――

結婚式に初の同盟成立とめでたい日が終わり、使者一行は早々に出発する事にした。
見送りにフィリーとプエラが出向いてくれていた。
  「皆さん、次はどちらに向かわれるんですか?」
  「ポルトガですな。我々もそろそろ船での移動を、と考えまして」
  「なるほど。海を渡るというのはさぞかし気持ちの良いものなんでしょうね」
プエラが遠い目で、少し間の抜けた返答をする。
  「しかしそれならば私の国の船を使えばいいのでは…父に頼みましょうか?」
  「いえ、既にロマリア王にも頼んだのですが、
   息子夫婦に会えなくなるのは困る、と言われましての」
少し芝居がかったその発言にフィリーは赤面し、他の面々は声を上げて笑った。
  「すいません…」
  「いやいや大丈夫ですぞ。こうしてロマリアまでは送ってもらえますから。
  それに紹介状も頂きました」
これからロマリア王の船で帰るところなのだ。
そしてパトリスの手にはロマリア王からポルトガ王に宛てた手紙が握られている。
  「フィリーのお父様は家族想いの良い方ですわね」
プエラが目を細めて笑う。
その笑顔には、ほんの少しの悲しみが交じっていた。
それに気付く人がいるのは年を重ねた人のなせる業なのか、
それともただ単にプエラが若いからだろうか。
  「…姫」
今度は真面目な口調で、優しく語りかける。
  「あなたの母上も姫の事を愛しておられます。このパトリスが保証致しましょう」
  「……はい」
皆がその本当の意味を理解していない中で、
プエラは心底嬉しそうにして、ありがとうございますと頭を下げた。

真理奈はその輪の中から一人外れ、出発の時を待っていた。
ブルーをボール代わりに、一人キャッチボールをして遊んでいる。
右手から左手へ、左手から右手へ…
弾むスライムの体の感触は、何とも言えず心地良い。
回転をかけたりするとブルーの表情が苦しそうで、今の真理奈には面白く思えた。
  「真理奈さん、本当によろしいのですか?」
一人なのに気付いたプエラが声をかける。
昨日もその話をしたのだが断られてしまっていた。
  「ん……?あぁ、いいのいいの」
真理奈はプエラに背を向け、その話題にはさも興味無いようにブルーで遊ぶ。
  「ですが……」
  「だってそれは2人の宝物なんだから。それに金色なんて趣味悪いし。
   ……じゃあね」
そっけなくそう言って真理奈は会話の中から抜け出した。
プエラがそれを心配そうな目で追いかける。
  「悪いな。アイツ、今朝からおかしいんだよ」
  「どうされたんでしょう…いつもならもっとこう…うりゃあー!
   という感じで元気ですのに…」
そう言いながら腕を振り上げる姫。可愛い…
  「案外フィリーと別れるのが嫌なんだったりして」
  「そんなのダメですっ!」
そう言いながら顔を真っ赤にする姫。可愛い…
  「冗談だよ、冗談」
  「もう!……あの、ジュードさん。代わりに黄金の爪預かって下さいませんか?」
ジュードは真理奈の後姿に目をやり、少し考えてから答えた。
  「アイツがいらねぇって言ったんだ。俺が持っててもしょうがねぇしな」
  「……」
  「アイツがそれを必要とした時に渡してやってくれよ」
  「…はい」
返事はしたものの、やはり寂しそうなプエラだった。

  「ほんじゃ、そろそろ行くとするかの」 「じゃあな」
  「お気をつけていってらっしゃいませ」
  「あなた方にルビス様のご加護がありますように。世界の平和の為に…」
  「……」
最後のはフィリア。王子と姫に挨拶するでもなくじっと見つめた後、
皆の後を追って船に乗り込んで行った。

  「ロマリアか…久し振りな気がするな」
船の自室で、遠ざかるイシスの大陸を見ながら一人思いにふける。
やる事が出来たストゥルーストはいったん自国へ帰る事にしたのだ。
アリアハン王に連絡しなければならないし、イシスとの交流を深めなくてはならない。
そして息子のアッサラーム奪還の手伝いもしなくてはならない。
しかし王はわずらわしいとは感じなかった。
それはそれらに勝る程の嬉しさが心の中にあるからだろう。
後は孫でも見られれば、言う事はなくなるのかもしれない。
が、それはまだ先の事だ。当分は遊ぶ事も出来ないだろう。
しかしそれは前魔王の時代に遊んでいた事のツケが回ってきたのだ、と思う事にした。
  「しかし連合とは面白い事を考えたものだ」
やがて景色は青と白だけになる。
  「魔法使いパトリス、か…食えない爺さんだ」
今朝も早くに自分を訪ねた者の事を考える。
彼の幸せがあるのは確かに彼らのおかげだ。
その為にさずがに船はやれなかったが、その代わりを要求してくるとは……
  「ふふふ、まぁいいだろう。今は連合に尽くしてやるか」
昔はよく城を抜け出しモンスターと戯れたものだ、と思い出す。
晴れた海の景色と同じように王の心も晴れていた。
幸せとはこうも人を活き活きとさせるものだろうか。
このような幸せを世界中の人が感じられるようになるならば、
魔王を倒す事に異論のあるヤツはいないだろう。

後は実行に移すだけだ。
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