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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜Forbidden Fruits〜[4]
階段を上り、地下1階へとようやくたどり着いた。
しかし今度は四方からモンスターが迫ってくる。
未だ呪文の使えないパトリスやフィリアも戦闘に参加せざるを得なかった。
  「出口っ!どっち!?」
  「知るかよ!!」
さすがに真理奈やジュードには疲れの色が見え始める。
  「ピーピー!!」
それまで真里奈のバッグに隠れていたブルーがツノを出し、訴える。
  「あっちが出口なの・・?オッケー!ブルー、信じるよっ!!」
皆は真理奈を信じ、進行方向を定める。
戦えないプエラを守りながら周りに気を配り、モンスターを排除していく。
4人は何とかそれを実践していたが、1人フィリーだけが何もしていなかった。
いや、正確には何も出来なかった。
これだけのモンスターに囲まれ、足がすくんでしまっている。
真理奈達についていくだけで精一杯。
初めて感じるここまでの恐怖。
この試練がどれだけ難題だったのか、今になって実感しているのだ。
その時、1匹のミイラ男が4人の隙をつき、フィリーとプエラに襲い掛かってきた。
ミイラ男の包帯に巻かれた両腕が振り上げられる。
  「きゃあああぁぁぁぁあああ〜!!」
  (こんなの・・・・無理だよ・・・・)
  「フィリー!!」
気付いた真理奈が叫ぶ。しかしフィリーは動けない。
  「ロマリアの紋章が泣いてるわよ!」
  (そうだ!僕は・・・!)
  「うわああああああああ〜!!!」
フィリーは大声と共に気合を入れ、鉄の槍を突き出した。
が、王子様渾身の一撃はミイラ男には当たらず、脇に外れてしまう・・・
そして勢い余った王子はそのままミイラ男に渾身の体当たりをする形になる。
フィリーのヘンテコな会心の一撃はミイラ男を見事に吹き飛ばした!

フィリーに飛ばされたミイラ男は、後ろのモンスターにぶつかり将棋倒しになる。
その先には天井から差し込む光が・・・
  「プエラ!行こう!」「はいっ!!」
王子と姫は手を繋ぎ、ピラミッドを脱出した。
プエラのもう片方の手にはもちろん黄金の爪がしっかりと握られている。
  「よっしゃ〜私達もこんなとこからオサラバしよっ!」
モンスターを適当にいなしながら真理奈達もピラミッドの外に出る事に成功する。
どうやらミイラ男達はピラミッドの外までは追って来ないようだ。
太陽がオレンジ色の光を放ち始め、一日の終わりを告げようとしていた。
  「はぁ〜終わった〜・・・」

  「きゃあぁぁぁぁあぁ〜!!!」
  「え?!」
突然プエラの前の地面が盛り上がり、赤くて巨大なカニが現れる。
地獄のはさみだ。ミイラ男のように次々と湧き出てくる。
  「ちょ・・・終わりじゃないの・・・?」
うんざりする真理奈を横目に、地獄のはさみの前に立つ者が1人。
  「ふっふっふ。神はちゃんとワシにも活躍の場を与えてくれたようじゃな。
   ここはワシに任せんしゃい!」
パトリスが子供のように楽しそうな表情で言う。
  (外に出ればこっちのもんじゃて!それに少しは働かんとご褒美にありつけんからのう)

フィリーがプエラを避難させ、パトリスが一番前に出る。
その間6匹の地獄のはさみは攻撃をしかける事無く、しきりにはさみを上下させていた。
[スクルト] [スクルト] [スクルト] [スクルト] [スクルト] [スクルト] [スクルト] [スクルト]
みるみると地獄のはさみ達の甲羅が堅くなっていく。
  「無駄じゃ無駄じゃ。ワシの呪文の前ではな!!
   メラミメラミメラミメラミメラミ〜!!」
パトリスがここぞとばかりに張り切り、地獄のはさみを焼いていく。
その一帯だけ昼間の灼熱の熱さを取り戻したかのようだった。

炎に焼かれ、地獄のはさみが動かなくなる。
  「どうじゃ!呪文の力を思い知ったか〜!!」
  「カラ剥いて食べたらおいしいかな?」
  「お前モンスター食うのかよ」
  「え〜だってこれカニでしょ?カニっておいしいんだよ〜!」
  「・・・・・・・」
パトリスをかつて無い程のやるせなさが包んだ。

何を思ったかフィリアがトテトテと地獄のはさみに近づいた時、
  グググググググググ・・・
良い具合に焼かれた地獄のはさみ達の中から低い唸り声をあげ、生き残りが現れた。
  「もー勘弁してよ!早く帰ってシャワー浴びたいっ!!」
  「よ、よしっ!今度こそこれで終わりじゃ!メラミ!!」
しかし、パトリスの杖からはメラの炎は出現しなかった。
  「・・・・・MPが足りないようじゃの」
  「もーおじいちゃん使えない〜!」
  「な、なんじゃと!」
  「やるなら最後までしっかりと締めてよねっ!」
真理奈が止めを刺しに地獄のはさみへと走り、背中に飛び乗る。
  「おりゃ〜!!」
ガキンッ!!
  「・・・・!!!痛った〜!!!」
金属の壁を殴ったかのような衝撃。鉄の爪を通じて腕に痺れが伝わってくる。
  ググッ!グググ・・・
地獄のはさみは真理奈を攻撃しようとするが、はさみが届かなくてもだえる。
  「ありゃダメだよ。硬すぎ〜」
真理奈が地獄のはさみの背中からジャンプして戻ってくる。
  「やはりワシの呪文が無いと困るじゃろ?」
  「使えないのに言われても・・・」
  「・・・どうする?」
一応攻撃を試したジュードも戻ってくる。どうやらダメだったらしい。

  「・・・」
そこでフィリアがここは私が、と声を上げる。
いや声は出してないんだけどね。
  「ルカニ」
久しぶりに聞くフィリアの声は、やはり凛としていた。

  「ねぇねぇ、ルカニって?」
  「ルカニは相手の守備力を下げる呪文じゃ。これで攻撃が効くように―――」
  グググ! [スクルト!]
地獄のはさみは不気味な笑みを浮かべながらはさみを振り上げ、呪文を唱える。
  「・・・あれじゃあ意味無いよね?」
真理奈の質問に対して、パトリスは明後日の方向に目を逸らした。

  「・・・ルカニ」
敵の的確な対応に少しムッとしたフィリアが再び呪文を唱える。
  [スクルト]「・・ルカニ」[スクルト]「ルカニ」[スクルト]「ルカニ!」・・・
フィリアと地獄のはさみの呪文が応酬を繰り返す。
フィリアを見下すように呪文を唱える地獄のはさみ。
それが気に食わないのか、意地になってフィリアも呪文を唱える。
  「なんじゃコイツは・・・MPが尽きんのか?」
それは魔法使いの自分よりMPがあるのではないかと思わせる程だった。

  「フィリアちゃん頑張って〜!!」
  「頑張ってください!」
  「ピーピー!!」
皆の声援を背中に受け、フィリアは呪文を唱え続けた。

ってかもうバギで倒せばよくね?

  「はぁはぁ・・・」
魔法合戦はフィリアの方が先に息を切らして終わった。

  グガァァァァ〜
スクルトを唱えた姿そのままで地獄のはさみはチャンスと攻撃をしかけてくる。
幸いに地獄のはさみのスピードはそこまで速くなかった。
が、力尽きそうなフィリアは完全には避けきれずに倒れる。
そこに続けてはさみが振り下ろされる。
 ガキンッ!!
ジュードがフィリアと地獄のはさみの間に入り、剣で受け止める。
しかし力の差は地獄のはさみに軍配があり、ジュードの体は砂漠に沈んでいく。
  「くっ!!」
ジュードの顔が苦しくゆがむ。

  「攻撃が効かない、か。こりゃあ万事休すかのぅ・・・」
  (マリア・・・使ってもいいか?)
パトリスが心の中で何かを決めようとした時、真理奈が叫んだ。
  「そっか!スカラよ!」
  「何じゃと?強くしてどうするんじゃ!防御力を下げないと――」
  「違う!私にスカラしてって言ってんの!」
  「真理奈ならあんなヤツの攻撃食らわんじゃろ」
  「いいからっ!早くっ!」
  「!!スカラっ!!」
驚いたパトリスが思わず呪文を掛ける。
  「オッケー。姫様、ちょっとコレ借りるね」
  「は、はい!」
次に鉄の爪を外し、プエラが持っていた黄金の爪を手にはめる。
  「よ〜し!行っくよ〜!!」
真理奈は再度、地獄のはさみに向かって走り出した。

  「ジュード!どいて!」
ジュードがフィリアが無事なのを確認してから、剣をずらす。
はさみが刃を滑り、力のベクトルが変わる。
ドシンっ!!地面にはさみが飲み込まれ、砂煙が舞い上がった。
ジュードはその隙に敵の懐から抜け出した。

視界が晴れると、地獄のはさみの目に真理奈が立ちはだかっているのが映った。
  グゥゥゥゥ〜
地獄のはさみは攻撃を低い声で唸りながら仕掛けてくる。
  「フィリアちゃん!もう1発ルカニを!」
フィリアは頷き、最後の力を絞って呪文を唱える。
  「ルカニっ」
地獄のはさみの防御力が下がる。ニヤリと笑う真理奈。
  「や〜い!スクルトしなくていいの〜?体がヤワくなってるよん」
真理奈の挑発に乗り、地獄のはさみが呪文を唱えようと体を起こし腕を振り上げる。
  (今だ!!)
真理奈は素早く地獄のはさみの体の下に入り込み、
  「よっ・・・っと!!」
綺麗にサマーソルトを決めた!!
  [スクル―――]バクンッ!!
だらしなく開いていた口が閉じられ、地獄のはさみの体が宙に浮いた。
真理奈は着地時の屈伸と同時に右腕に力を込める。
スカラのおかげで足に痛みは無い。そして思いっきり足を伸ばし跳躍。
  「とぉりゃあぁ〜!!」
黄金の爪を地獄のはさみに突き刺し、そのまま腹を引き裂いた!
最後の地獄のはさみは泡を吹いてそのまま仰向けに倒れる。
  「うしっ!」
真理奈のガッツポーズが決まる。
モンスターの血がその右腕にある爪に吸収されていく。
そしてイシスの秘宝は黄金の輝きを夕暮れに負けじと再び放ち始めた。
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