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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜Four Nights+1〜
清々しい朝、そんなものはこの人には無い。
真理奈はベッドから落ちそうになりながら寝ている。
「ピーピー!!」
スライムが真理奈の胸に潰されて横長になっていて、苦しそうだ。
「おい!いつまで寝てるんだ!」ユサユサされる。
「ん〜?」
「今から王様が会ってくれるんだとよ!」ユサユサ
「んん〜・・・王様って誰よ・・・後にしてくんない?」
「できるか!起きろ!」ガクガクガクガク
「わ、分かった分かった!分かったからぁ・・・」
ようやく目を開けると、どこかで見た青年の顔があった。
「やっと起きたか。着替えたらすぐ行くぞ!早くしろよ」
「え?!・・・・・・あっ、そっか。ここ、違うんだった」
頭が少しずつ働き出す。
体を起こすと、スライムがペチャンコに潰れていた。
青年は部屋の片隅に置いてある椅子に座る。
真理奈は寝起きのダルさの中で、昨日の事を思い出す。
ルビスからの電話、違う世界への召喚、そして強力なモンスター・・・
(いつもじゃ有り得ない事の連続なのに、意外と混乱とかしないんだ・・・)
他人事のように考える。
それはまだこの世界に慣れていないからかもしれない。

「おい!早くしろよ!」
「分かったってば!うるさいなぁ・・・」
真理奈は壁にかけてある制服のスカートを取る。
昨日の戦闘で破れたブラウスは宿屋の女将さんが縫ってくれるらしい。
血は洗って落ちるんだろうか・・・
そういえばあの時のアレは何だったんだろうか。
少女の声と共に感じた温かさ、そして痛みの軽減。
服を脱ぎ、グリズリーに裂かれた部分を確認すると傷は跡形も残っていなかった。
(ホント夢みたい。夢の中の夢なんじゃないかなぁ・・・それか漫画の世界かな)
誰もが一度は夢見るだろう。突然不思議な世界に迷い込むような夢を・・・
スカートを履き、上はとりあえずカバンの中にあったTシャツを着る。
「よし、オッケー」
「行くぞ」青年はぶっきらぼうに言う。
「そういえばさ〜先輩とか後輩ちゃんは大丈夫なの?」
「・・・?あぁ、兵士の隊長か。命に別状はないらしい」
「良かった〜心配だったんだよね」
隊長はグリズリーに腹を貫かれ、その後輩は強烈な蹴りを食らったのだ。
青年によれば、隊長達も真理奈を治してくれたあの少女が治療してくれた、とのこと。
もっとも、真理奈は大勝利に沸く兵士達に囲まれてそれどころではなかったが。
(後でお見舞い行かなきゃな)
宿屋の外に出ると今日も良い天気だった。雲一つ無く、どこまでも高い空―――
「ん〜!!気持ちイイ〜」
腕を伸ばし、思いっきり伸びをする。新鮮な空気が体中を満たす。
「そういえば」
「んー?」
「お前胸小さいんだな」
「――――!!!」ドギャーン!!
脇腹にめり込む見事な回し蹴りが炸裂した。
青年・・・それは禁句ですよ・・・

「昨日はよく休まれたかな?」「はあ・・・」
嫌そうに真理奈は答える。ここはお城の玉座の間。
王様・大臣・兵士諸々、勢ぞろいしている。
(偉い人の話はつまんないって決まってるんだよねぇ・・・)
赤い絨毯の上、王様の正面に立ち、話を聞かされる。
青年は真理奈をここに案内した後、どこかに消えてしまった。
痛む脇腹をかばいながら・・・
「私はレキウスという。モンスターからアリアハンを守ってくれたそうだな。礼を言うぞ。
 そなたの名前を聞かせてもらえるかな?」
「真理奈。能登真理奈です」
「ロトとな!」「ロト・・・」「ロトだ!!」ざわざわ
「???」ホールがざわつくが、真理奈には何故か分からない。
「なるほど・・・してアリアハンには何用で来られたのじゃ?」
「ん〜、アリアハンに用って言うか、この世界に用があるみたい」
「世界・・・じゃと?」
「何かルビスって人にこの世界を救えって言われて―――」
「ルビス様とな!」「ルビス様・・・」「ルビス様!!」ざわざわ
「なるほど・・・ロトにルビス様か。それならそなたの活躍にも納得がいく
 そなたは真に世界の救世主なのかもしれんな・・・」
王様は、その通りであって欲しいという願いを込めているようだった。
「今日そなたを呼んだのは他でもない。力を貸してもらいたいのじゃ。
 昨日の通り、最近になってモンスターの動きが活発になっておるのだが・・・」
少しのためらいの後、決心をして告げる。
「実は魔王が復活したという情報が入っておるのだ」ざわざわ・・・
3度のざわつき。しかし、前の2回とは雰囲気が違う。
「もう既にアッサラームとバハラタの町は壊滅したそうじゃ・・・」
それは心の底からの恐怖。

「そのような時に、そなたのような者が現れたのはまさにルビス様の導きであろう。
 私は運命というものを感じずにはいられない」
「しかし我々も、もう以前のように勇者に頼りきりではない。全ての者が力を合わせ、
 モンスターに、そして魔王に立ち向かわなくてはならないと考えたのじゃ」
「全ての者とは、アリアハンの全国民という意味ではない。世界中の人々、という意味じゃ。
 つまり我々は世界中の都市との連合結成を計画中でな、もう既に使節の第一陣がサマンオサに向けて出発しておる。」
「そこでじゃ、是非ともそなたに連合大使として世界を回っていただきたいのだが、どうかな?」
「魔王・・・連合大使・・・」
「もちろん一人でとは言わない。同行してくれる仲間もおるのじゃ。ほれ」
王様の合図で後ろを見ると、青年に連れられたおじいちゃんと少女が入ってくるところだった。
「レキウスちゃ〜ん!しっかり王様やってる〜?」
「うるさい!レキウス王と呼ばんか、レキウス王と」呆れたように王様が言う。
「あ!昨日の!」
3人とはもちろん昨日真理奈を助けた青年・少女・おじいちゃんである。
「ぶい〜」おじいちゃんだけテンション高めにVサインをしている。
「あはっ!イエ〜イ!」真理奈も楽しげにそれに応じる。
「んんっ!・・・真理奈よ、この3人と共に旅に出てほしい。良いかな?」
真理奈は王様の方に振り返りながら答えた。
「・・・良いも何も、私はこの世界を救わなきゃ帰れないんだから。何でもやるわ!」
「そうか・・・ありがとう。ではこれを預けよう」
王様は大臣から袋を受け取り、中身を取り出す。色鮮やかな丸い玉が5つ。
「これは聖なるオーブじゃ。このオーブを連合の証としたいと思っている」
王様はオーブをしまって、真理奈の所まで歩き、袋を手渡す。
「真理奈・・・よろしく頼んだぞ。私はもう悲しい犠牲を出したくはないのだ」
その声は、真理奈だけに聞こえるくらいの、微かな希望にすがるようなものだった。
「・・・りょ〜かい!よーし!皆で力を合わせて魔王を倒すぞ〜!!」「おぉ〜!!」
真理奈の力強い言葉に、ホールにいる全ての人が応える。
兵士達のトランペットが高らかにメロディを奏でた。
♪♪♪タ〜ン タタタタッタッタ〜ン―――


王様に話を聞いた後、真理奈は先輩・後輩コンビが療養している部屋を訪ねた。
「やっほ〜い!お見舞いだよん!」
「お〜来てくれたのか〜」
「英雄さんの登場だな」
「いや〜そんなんじゃないっすよ先輩w」
先輩はベッド、後輩ちゃんはその脇の椅子に座っていた。
「調子はどう?」
「もう大分いいよ。先輩はもう少しかかるって話だけど・・・」
「そう・・・でも元気そうで良かった!死んじゃったかと思ったから・・・」
「ありがとう。改めて礼を言わせてもらうよ」
「もうお礼はいいってば!正直聞き飽きちゃった」
「ハハハ!」
真理奈と2人は出会って間もないが、流れる空気は親友のそれだった。
戦友と言うべきだろうか。
しかし、それ故に言わなくてはならないこともある。
「え?!旅に出る!?」
「うん。ルビスって奴に言われて世界を救わなきゃいけなくなっちゃったんだ」
「・・・・・・・・」後輩ちゃんは驚いた顔で黙ってしまう。
「ルビス様にか。それは凄いな・・・1人で行くのか?」
「ううん、さっき王様のトコで会ってきたよ。パトリスっておじいちゃんがノリノリでさー
 フィリアって子はあんまり喋ってくれなかったけど、可愛いんだよ〜
 でもジュードってヤツはちょっとムカツクー」
「ふふ。まぁ王様が選んだ人たちなら大丈夫だろう。君が強いのは知ってるしな」
「任せてよ!」
「君ならきっとできるさ。頑張ってくれ」
「ありがとうございます!先輩も傷早く治して下さいね。後輩ちゃんもよ!」
「あ、あぁ・・・」
「??」真理奈は首を傾げる。

「・・・少し話したら疲れたな。すまないが寝かせてもらうよ」
「あ、すいません。話し込んじゃった。じゃあゆっくり休んで下さい」
席を立つ真理奈。後輩ちゃんは黙ってそれを見つめる。
「おい、英雄さんを外まで送ってやれ」
「え?は、はい・・・」
「も〜、怪我してるんだからそんなコトしなくていいよー」
「いいからいいから。それじゃあ元気でな」
「はい、先輩バイバ〜イ」
バタンッ・・・
「・・・ったく。俺も年取ったかな」
言葉とは裏腹に、先輩はその事実を楽しむかのように微笑む。
窓から差し込む陽の光が夕暮れ刻を教えていた。

建物を出るまで後輩ちゃんが相槌しかうたないので、真里奈は一方的に喋る形になってしまった。
この世界のこんなところが不便だとか、自分の世界がどんなものなのかとか。
そんな他愛も無い話。後輩ちゃんにとっては興味のある話。
けれど今は聞く気になれなかった。
「それでさ〜」
「な、なぁ!!俺も一緒に旅に連れていってくれないか?」
「え?」
突然すぎる提案に真理奈はとまどう。
「今はまだ足手まといかもしれない。けど俺、強くなるから!絶対強くなるから!」
「後輩ちゃん・・・」
「だから・・・一緒に行くよ!お前の役に立ちたいんだ!」

「・・・ダ〜メ!まだその体じゃ旅なんて出来る訳ないでしょ」
「こんな怪我なんか―――」
「それにさ」
「何だよ!」
「・・・後輩ちゃんにはこの町を守るっていう大事な使命があるんでしょ?」
「・・・・・・・」
「心配してくれたんだよね。私は大丈夫だから。魔王なんか楽勝楽勝!」
(そんなんじゃ・・・)
「ありがとね」
(そんなんじゃないんだ!)
うつむく後輩ちゃん。
「・・・・・」
真理奈が手を差し出す。
この握手を交わせば終わってしまう。
そう感じるが、それを打開する術が思いつくわけでもなかった。
躊躇った後、その手をグっと握りしめる。
柔らかくて暖かくて小さくて・・・

「・・・バイバイ!」

それはずっと聞いていたいモノであって、最も聞きたくなかったコトだった。
「・・・・・・・」
駆け出した真理奈の背中に昨日の光景を重ねる。
しかし後輩ちゃんは追いかけられず、その場に立ち尽くした。
(いつか・・・いつかその背中に―――)

今日も青い空。天気予報もいらないくらい毎日良い天気だ。
「ピーピー!!」という声に無理矢理起こされた真理奈は町の入り口に向かっていた。
制服のブラウスは綺麗に直っていた。何故か左胸のポケットにはロトの紋章が刺繍されていたが。
「アリアハンの伝統工芸なんだよ。カッコイイだろ〜?」
と女将さんが自慢げに言っていたが、真理奈は苦笑するしかなかった。
入り口に到着すると既に3人の仲間が待っていた。
「遅いぞ」
青年が言う。
「いちいちうるさいのよ!あんたは教師か!」
「ほっほっほ。仲が良いのぉ」
「「良くない!」」
「ピ〜!」スライムが楽しそうに声をあげる。
「何だぁ?こいつも連れてくのか?」
「うん。ブルーは私を守ってくれるんだって」
「ブルーだぁ?」
「名前付けたげたの〜可愛いでしょ?ね〜」「ピ〜!」
「・・・女の考えてるコトは良く分かんねぇ」
「では行くとするかの」
「うん!」

青年――戦士のジュード
おじいちゃん――魔法使いのパトリス
少女――僧侶のフィリア

この3人が「ピー!!ピー!!」
・・・
青いの――スライムのブルー

この3人と1匹が真理奈の仲間。
こうして4人と1匹は伝説の続きという旅に出発した。
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