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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜Annunciation〜[2]
「キャー!!」
突然女性の叫び声が辺りに響き渡った。
真理奈を連行していた2人はとっさに走り出す。
「お前はそこで待っていろ!」
先輩の方が走りながら振り返り、真理奈に言い放つ。
「・・・まったく何なのよ・・・」
真理奈は1人取り残され、またしても呆然とする。
2人と入れ替えに青年が町の中に入って来た。腕にはぐったりとした女性を抱きかかえている。
「モ、モンスターだ!モンスターが攻めて来たぞ!!」
青年は町中に警告するように声を上げた。町人はすぐそれに反応し、家の中に避難していった。
(モンスター?あの2人もそんな事言ってたっけ・・・あのウサギや青いのの事かな?)
持ち前の行動力からか、単に騒ぎが好きなのかどちらかは分からないが、真理奈は2人を追いかけることにした。

町の外では2人がモンスターと戦っていた。
普段からの訓練が活かされているのか、次々と撃破していく。
「中々やるようになったな!」「先輩のおかげです!!」
なんて熱血する余裕もあるみたい。と言ってる傍から後輩の後ろに大きなカエルが突進してきていた。
「おぉ〜りぃやぁ〜〜!!」
真理奈はダッシュの勢いを付けカエルの腹に蹴りをぶち込む。カエルは泡を吹きながら吹き飛んでいった。
「油断よ、後輩ちゃん?」「お、お前!どうしてここに・・・」
「いいからいいから〜。私ちょっと自身あるんだ。一緒に戦うよ」
「何言ってるんだ!ダメに決まって――」
「口論してる場合かなぁ?先輩が大変そうだよ?」
真理奈の指差す方を見ると、先輩がカラス達に骨やら石やらを頭上に落とされて困っていた。
「あ・・」「ほらほら、行くわよ!」真理奈は走り出す。
「・・・・」そして後輩ちゃんも真理奈の背中を追うように走り出した。

その頃、アリアハンへと続く道には続々とモンスタ−が集結していた。

「お前やるなぁ〜!」「でしょでしょ〜!!」「ありがとう。礼を言うよ」
カラス達を撃退した後、お城からの兵士が援軍に駆けつけ、事態は終息を迎えようとしていた。
真理奈は先輩後輩コンビと一休み。最初の疑いはどこへやら・・・
「しかし、なぜ今さらモンスターが凶暴化したんでしょうね?」
「分からん・・・」先輩は心底不思議という顔をしながら言った。
「今までもモンスターが襲ってくることはあったが、こんなにも多くのモンスターが攻めて来ることはなかった」
「???モンスターは凶暴なものなんじゃないの?」真理奈も不思議な顔をして尋ねる。
「ここ数年は大人しかったんだ。こんなの初めてだ・・・」
「お前はまだ若いからな。あの頃は―――」
ドド・・ドドドドド・・・ドドドドドドド・・・・!!!
地面がかすかに揺れる。それはゆっくりと、確実に力を増しながら近くなってくる。
「隊長!!モンスターの大群が・・!」兵士が走りながら報告する。
兵士の焦り具合を見ると事態は良くないようだ、と推量できる。
実際に群れを見て推量を確信に変える。が、隊長としてひるむ訳にはいかなかった。
「・・・よし!隊列を組みなおせ!!傷を負った者は今の内に治療しておけ!!」
先輩は兵達に声をかけていく。
「さ、さすがにあれは無理だ。ここからは俺たちに任せて、お前は避難しろよ」
「震えながら何言ってるのよ後輩ちゃん。ここまで来たら最後まで付き合うわ」
「でも・・・」
「負けたら町の中にいても同じじゃない」
「それは・・そうだけど・・・」
「じゃあ決まり!」
「巻き込んですまない。だが無茶はするなよ」先輩が戻ってきて言った。
「大丈夫だって!」
真理奈は満面の笑みで答える。その顔に2人はどこか安心感を覚えた。

モンスター達はアリアハンから200m、兵士達からは100mの辺りで進行を停止した。
まるでその数を見せ付けるように、横一列に並んでいる。
そのちょうど真ん中には一際大きなモンスターが見える。
「馬鹿な・・・あれはグリズリーか・・・」
「え?!グリズリーってアリアハンにいるんですか?!」
「いや、いない。いるはずはない・・・」
(あれって熊よね?そりゃヤバいわ・・・)
日本にもいるが、当然遭った事はない。
「よし、俺達はあれをやるぞ」
「・・・お前、この盾使えよ。さすがにその装備じゃ辛いだろ」
後輩ちゃんが真理奈に盾を差し出す。
「お、ありがと」・・と、受け取ろうとする手を先輩は遮った。
「いや、俺のを使え。少なくともこいつよりも俺の方が強いからな」
先輩はニヤリと不敵に笑った。

グア〜オオォォオー!!!
グリズリーが雄叫びを上げる。それに呼応するように他のモンスターも奇声を発した。
「怯えるな!日頃の成果を見せる時が来たぞ!
 薬草と聖水忘れてないな?!何としてもアリアハンを守るんだ!!」
先輩が檄を飛ばす。
グァアアァァ〜!!!オオオオオオオオオ!!!
グリズリーが再び吠え、モンスターに突撃を命じた。一斉に動きだすモンスター達。
「行け〜!!」
隊長の掛け声に合わせて兵士達も迎撃に向かった。
真理奈も同じく駆け出す。真理奈の制服は戦場でも目立っていた。

ほとんどの兵士が善戦する中、真理奈達3人は苦戦を強いられていた。
グリズリーがその巨体に似合わず俊敏な動きで真理奈達を翻弄したからである。
素早い攻撃を何とか盾で受け止めるものの、盾がひしゃげる程の威力があった。
「うあぁぁー!!」ガキン!!後輩ちゃんへの攻撃を真理奈がかばう。
「後輩ちゃんしっかり!」
「ふんっ!!」先輩が力を込め、グリズリーの心臓目掛けて槍を突き出した。
が、皮膚を少し傷つけることしかできなかった。
「!!」
渾身の攻撃が効かなかった事で先輩は少し怯む。怯みは隙となり、戦闘中の隙は致命傷である。
グリズリーの爪が先輩の腹を貫いた。
「せんぱ・・・こんちくしょー!!!」
後輩ちゃんが怒りに任せて突撃する。
しかしそれも虚しくグリズリーにかわされ、後輩ちゃんは蹴り飛ばされた。真理奈がフロッガーにしたように・・・
(先輩・・・後輩ちゃん・・・)
2人を片付けたグリズリーは、なおも攻撃の手を緩める事なく真理奈に迫ってきた。
左右の腕を交互に振り上げ、真理奈を裂くために動かされる。
ヒュッ!!ガキンっ!
盾が使い物にならなくなり、紙一重で避ける真理奈の服は少しずつ破れていった。
(ヤバっ・・・間に合わ――)
右からの攻撃をまともに受け、吹き飛ばされる。
グリズリーの爪は真理奈の背中左脇と左腕を切り裂いていた。
血がブラウスも赤く染めていく・・・
(もうダメか・・・)
朦朧とする意識の中、グリズリーが近づいて来るのを確認する。
グリズリーは勝ち誇ったような笑みを浮かべている。最後の止めを刺す為に腕を振り上げた。
(お母さん・・・!)
その時、青くて丸いものが飛び出し、真理奈を守るかのように立ちはだかった。
「ピーー!!」「お前・・!」
しかしスライムではグリズリーの抑止力にはならない・・・!
ズシュ!!!
戦場では珍しくない肉の千切れる音がした。

次に真理奈が目にしたのは空中を舞うグリズリーの腕だった。
「大丈夫か?」
見知らぬ青年が真理奈に声をかけて、返事を待たずにグリズリーとの戦闘に戻っていった。
「ベホイミ」
凛としたその声とともに体の痛みが消える。
振り返ると、少女が真理奈を見ていた。
「・・・あなたがやってくれたの?」
少女は答えない。
「大丈夫かの?」
その後ろからおじいさんがやってきた。
「は、はい。あなたは?」
「自己紹介は後じゃな。今は勝つ事だけ考えるべきじゃ」
少女が真理奈に何かを差し出す。パンチングマシーンのグローブのようなものだ。
甲の部分にカッターの刃のようなものが3本取り付けてある。
しかしそれはカッターよりも刃が太く、簡単には折れそうになかった。
「これは・・・?」「鉄の爪じゃよ。最後の一撃、頼みますぞ」
そう言うとおじいさんはグリズリーの方へ向かっていった。
「ありがとね」真理奈は少女に礼を言う。
「ピー!!」スライムが自分も忘れるな、と声を上げる。
「お前もありがとね」
スライムを持ち上げナデナデする。
そして真理奈は鉄の爪を右手にはめてみた。不思議と手に馴染む・・・
「よし!じゃあ行ってくるよ!こいつよろしく!」少女にスライムを渡した。
ニッコリと微笑むと、少女は真理奈に小さく手を振ってくれた。
「ピ〜!」
スライムの声援を背中に受け、真理奈は再び戦場に舞い戻る。

片腕を無くしたグリズリーは痛みと怒りに狂い、滅茶苦茶な攻撃を青年に仕掛ける。
スピードはやや落ちたものの、攻撃力は増している。
まともに受ければ命はないだろう。
しかし、避けきれない程ではなくなっていた。
チャンスが生まれるまで青年は走り回った。
「さてさて、久しぶりに頑張ろうとするかのう」
おじいちゃんがMPを練り、青年と目を合わしてタイミングを取る。
「ヒャダルコ!!」
氷の波が地面を這い、青年を攻撃することだけに執着していたグリズリーの両足を凍らせた。
グァワァァァ〜!!!
突然動きの取れなくなったグリズリーはバランスを崩す。
その隙に青年はグリズリーの残りの腕に剣を突き刺し、腕の動きも奪う。
「今だ!!」
青年が叫ぶと同時に、真理奈が走りこんで来る。
(何かよく分かんない内にこんなことになっちゃったけど・・・)
(先輩と後輩ちゃんの仇は取る!!)
「ルカニ!」
「やぁぁぁああぁぁ〜!!!」
真理奈は疾走の勢いを殺さずに飛び上がり、グリズリーの胸に鉄の爪を突き立て、心臓を貫いた。
グリズリーは空を見上げるように顔を上げ、動きを止めた。
オオオォォォオオ・・・・
戦場に戦いの終わりを告げるグリズリーの断末魔の叫びが響き渡った。


夜―――この世界で迎える初めての夜である。
真理奈は夜中に目を覚ましてしまった。
ここは宿屋2階のベッドの上。
横にはスライムが「ピー・・・ピー・・・」と寝息をかいている。
微かに笑った後、ベッドを抜け出して窓を開け、窓枠に腰掛ける。
まったく静かな夜である。
家屋の軒先には明かりの炎が焚かれているが、空の色を変えたりする程ではない。
視線を少し上げると、数ケ所に設置されている、民家と同じく小さい炎の中に浮かび上がるお城が見える。
夜空に浮かぶお城というと不気味に聞こえるが、決して威圧感を与えるような風景ではない。
時々運ばれてくる風に髪を揺らされ、どこか懐かしいような香りを感じる。
そして真理奈は自分の家の事を思う。
母親は心配していないだろうか、と。
いやあの母親では逆に、帰った時に怒られるのを心配した方がいいかもしれないが・・・
(携帯繋がらないかな・・・?)
ふとそう思い、携帯を取り出してみる。
・・・・・・・・圏外だ。
(そりゃ当たり前か)
諦めの表情に苦笑を浮かべる。と、携帯が鳴り出した。
♪♪♪あの虹を〜
「はいはいはい!もしもし?!」慌てて出る。
「ルビスです。ありがとうございました」
「あんたね〜!!」大声で怒鳴ってから、はっとする。
・・・良かった。スライムは起きなかったようだ。
「あなたには申し訳ないと思っています。しかし、これしか時間も方法も無かったのです」
「はいはい、そ〜ですか」投げやりに答え、窓の外に目を戻す。

「で?もう帰してくれるの?」
「・・・それはまだできません。この世界を救って下さい。そうすればあなたの世界に帰します」
「随分な条件だこと!」
「お願いするしかありません。私の力は、あの力には及ばないのです」
「偉そうなくせして役立たずね〜」
「・・・1通だけメールを送れるようにします。お母様によろしく」
「え?!」ツーツー・・・・
「何なのよ!」
終了ボタンを押し、画面を見ると確かにアンテナが4本立っている。
「マジ?!」
慣れた手つきで母親のアドレスを呼び出し、メール作成画面に入る。
「えーっと、えーっと・・・何て書けばいいの・・・」
迷っていると、アンテナが3本に減った。
「え?!ちょっと待ってよ・・・」カコカコカコ
【お母さんごめんなさい。何か帰れなくなっちゃった。怪我とかしたけど、心配しないで―――】
「って怪我したって言ったら心配するじゃん!」
アンテナはもう1本になっている。
「こら〜ルビス〜!まだ終わってないんだからちょっと待て〜!!」
・・・・ちょっとだけ2本に戻った。
【―――ちゃんと帰るから怒らないで待ってて。真理奈】
「よし!送信!」送信完了と共に、再び圏外に戻ってしまった。
「ふぅ・・・今度から着信拒否しよっかな・・・」
少し本気で考える真理奈であった。

夜空を見上げると、本当に真っ暗で星が良く見えた。
あの星のどれか1つに自分の故郷があるのではないか。
そんな思いがするくらい、自分の世界が遠く感じる。
「世界を救って下さい・・・か」
昨日までそんなことを言われたこともなければ、考えたこともなかった。
真理奈の世界も色んな危機に瀕していると言えるだろう。
しかし、その危機を救おうとしているのは全人類のごく一部の人である。
ほとんどの人はその日を精一杯生きるのみである。
真理奈とてその中の1人である。
こっちの世界の危機がどんなものか知らないが、本当にそんな事ができるのだろうか。
ヒト1人の力なんてたいしたものではない事を真理奈はよく知っている。
漫画のように何か秘めた力でもあれば可能なのかもしれないが、そんな力を持っている訳ではない。
それに「世界を救う」と言われても漠然としすぎているし、事が大きすぎてさっぱり実感が沸かない。
「これからどうなっちゃうんだろ・・・」
自分がルビスに選ばれた訳や、この世界の事、それに元の世界の事・・・
色々と知りたいことはあるが、今日のところは寝るしかなさそうだ。
使わない頭で考えすぎて疲れてしまった。
(何か知らないけどやるしかない、か。自分の世界に帰りたいしね)
ベッドに戻り、スライムを起こさないように手に乗せる。
スライムが息をする度にその体が膨らみ、しぼむ。それの繰り返し。
その緩やかなリズムによって、真理奈の心はまどろみの中に誘われる。
「おやす・・み・・・」
そんな初夜だった。
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