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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜Annunciation〜[1]
タタタッ・・・!
街の騒音に混じって軽快な足音が響く
「はぁはぁはぁ・・・。」
時間は通勤ラッシュをとっくに過ぎ、昼前である。
「ちっくしょ〜」
そんな悪態をつきながらも、その声の主は通行人を華麗に交わしていく。
夏に入る頃の爽やかな風も手伝って、彼女が足を運ぶその度に赤チェックのスカートが危なげに舞う。
上は白いブラウスに赤のネクタイ。この先にある高校の制服である。
なかなか映える服装だが、遅刻なこともあり、周囲からはかなり目立ってしまっている。
普段から朝は強くないが、今回の寝坊は特に酷かった。
昨日遊んだ帰りに靴の紐が切れるし、夜は枕の形が気になってなかなか眠れなかった。
今朝は今朝で髪型がうまく決まらなかった。
「また怒られっかな〜・・」
遅刻は3回で欠席1に数えられてしまう。ちなみに結構ピンチである。

♪♪♪あの〜虹を〜渡って〜

「もう!何よこんな時に・・・」
携帯を取り出し、外れかけた赤いヘアピンを直しつつ画面を見る。
番号は分からないが、【RUBISU】と表示されている。
疑問を抱きつつも、条件反射で出てしまう。
「もしもし!?」
「私の名前はルビス。世界は再び危機に瀕しています」
イタズラかと思う。
「真理奈、あなたの力が必要です。どうか私達の世界を救って下さい」
「あんたね〜・・・」
言い終わらない内に真理奈の世界は白く包まれた。

目を開けるとそこは一面の草原だった。
正面の遠く向こうには海岸、右手には山が連なり、左手には森が見える。
ちょうど丘のような場所に真理奈は立っていた。
さっきまでの高層ビル群は跡形も無く消えて、代わりにどこまでも抜けるような青空が広がっていた。
「・・・・・・何だこれ」
まるで夢の中で場面が突然変わってしまうかのように、景色が一変してしまった。
無意識的に頬をつねる。痛い。
どうやら夢ではなさそうだ。
というか、「夢かな?」と考えることができる時点で夢ではないことを証明しているようなものだ。
しかし真理奈はそんな事を考えられない。
(学校は間に合わないか・・・)
と、どこか間の抜けたボンヤリをしていると、何やら青くて丸いものが坂を登り、真理奈の方へ向かってくる。
サッカーボールよりも小さいが、ツノや目や口らしきものがついている。生き物・・・か?
「ピキー!!」と声を出し、必死に走って来る。
よく見ると、青いのの後ろからウサギが追いかけて来ていた。
こちらもなぜか大きな1本のツノが額の辺りから生えている。
スピードをつけ、頭を低くし、青いのを突き刺そうと猛ダッシュをかけている。
青いのも頑張って逃げているが、とうとう転んでしまった。
ウサギがチャンスとばかりに青いの目掛けてジャンプする。
「危ない!!」
真理奈はとっさに飛び出し、ウサギを思いっ・・・きり蹴飛ばした!
タタタタ タータッタ〜ン♪♪♪

「ピー、ピー」
青いのが真理奈の足に擦り寄って来る。
「お〜よしよし」
持ち上げて体を撫でてみる。
不思議な感触だ。プヨプヨと柔らかいが、形を崩しても元に戻る。
色は真っ青で、向こう側が透き通っている。
ツノを体の中に押し込んでみると「プニュ〜・・・」と困ったような声と顔をした。
「ねぇ、ここはどこなの?」
さすがに人間の言葉は分からないみたいだ。
「ピー!」となぜか嬉しそうな返事をされてしまった。

「おい!お前そこで何してる?!」
突然、若い男の声が聞こえた。
振り返ると2人の男がこちらに向かってくるのが見えた。
しかし格好がおかしい。
映画に出てくるような鎧を着、手には槍が握られている。
「見かけない奴だな。どこから来た?」
「どこって・・家だけど?」
「家はどこかと聞いてるんだ!」
「怒鳴らなくてもいいじゃん・・・」
「こんな服見たことないし・・怪しいな。先輩、どうします?」
「そうだなぁ。とりあえず報告だな」
「分かりました。ほら、こっちこい」
若い方が真理奈の手を引く。
「ちょっと!引っ張らなくてもいいじゃん!」「ピー!」
「なんだ?・・スライムか。こんなの持って、ますます怪しい奴だ」
若いのはそう言うと、青いのを掴み投げ捨てた。
「あぁ!!」「いいから行くぞ!」「ピ〜・・・」
スライムは強引に連れて行かれる真理奈をいつまでも見つめていた。

「ね〜ここはどこなの?」
「ん?アリアハンに決まってるだろ?」
「アリア・・・?」(そんな国あったっけ?)
「お前はどこから来たんだ?」
「幕張だけど?」
「マク・・?どこだそれは」
「千葉よ、日本の。ジャパン。分かる?」
「そんな国は聞いたことないな・・・」
話がまったく通じなかった。いや、日本語は通じるのだが、内容が話にならなかった。
「先輩、やっぱりモンスターが化けてるんじゃ・・?スライム持ってたし」
「誰がモンスターなのよ!」
「ん〜それはないだろ仮にモンスターだとしても、俺達にこんな嘘を付く理由がない」
「なるほど・・・それもそうですね」
「それにもうモンスターは―――」
話をしている内に、3人はアリアハンの町に入った。
何の事はない。真理奈がこの世界に現れた時は、アリアハンに背を向けていたのだ。
町の道路はまったく舗装されておらず、車はおろか、自転車の一台も走ってはいない。
そして都会のように小走りで歩く人もいない。皆運ばれてくる風を楽しむかのようにゆっくりと歩く。
建物はまばらで2階建てが多く、一軒一軒の敷地は広かった。確実に日本家屋とは様子が違う。
唯一高い建物と言えば、左手に見えるお城だった。これまた映画に出てくるような西欧のお城である。
真理奈はそれらを眺め、初めて今までと違うトコロにいるんだと実感した。
しかしまったく不安や焦りを感じなかった。
それはアリアハンの持つ、どこかのどかな雰囲気のおかげかもしれない。
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