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◆fzAHzgUpjUの物語
[DQ4]

サントハイムへ
「ひ、姫様……姫様……!ああ、ようやくお会いできた……。大変、です。サントハイムのお城が……っぐ、ふ」
 傷一つ無いサントハイム王家の紋章がついた鎧が、がしゃんと崩れ落ちた。鎧の中には今この瞬間まで、人がいた。なのに、突然おびただしい量の血と最後の呼吸を吐きながら、サントハイム兵士さんは白い煙になって消えるようにいなくなった。
「フレディ!お、おい、フレディ!」空っぽの鎧にすがりつくようにクリフトくんが地面にはいつくばった。
「ああ……なんということだ……!ひ、姫様!」
 たぶん、今ここで事切れた兵士さんはクリフトくんの知り合いだったんだろう。この街にはこんなにたくさんの人がいるのに、誰一人として空っぽになった鎧にもクリフトくんの嘆きにも気づいていない。幸か、それとも不幸か。
「いったい我がサントハイムに何が起こったと言うんじゃ?……姫様、ここは一度サントハイムに戻りましょう!」
「……っええ!急ぐわよ!旅の扉まで走りましょう!」
 空っぽの鎧を持ち上げてみる。鉄製の重く頑丈なもののはずなのに、片手ひとつで軽々と持ててしまった。密度が薄くなったように軽い鉄の鎧は、私の手からちぎれ落ちて、鉄くずとなって風に吹かれ飛んでいく。尋常じゃない、大変なことが、サントハイムのお城で起こっている。それぐらいしかわからないけれど、ただ風邪を引いただけの見ず知らずの女に貴重なさえずりの蜜を分けてくれた王様や、倒れた私を甲斐甲斐しく世話してくれた大臣やメイドさんたちの国が危機に瀕している。みんなの後を追って私が走る理由なんて、それだけあればもう十分だった。背中に背負い込んだギターが揺れる。
 息切れは以前と比べて大分らくになった。少しずつだけど禁煙の効果が出てきてるみたい。
 旅の扉でアリーナちゃんや私たちの無事を祈ってくれた見張りの兵士さんはいなかった。彼も消されてしまったんだ。……いったい誰がそんなことを? そこらじゅうをちらほらと舞っている「闇の帝王」の話は、噂じゃなくて真実だったとでも言うの?
「お父様……お父様!」
 アリーナちゃんが真っ先に旅の扉へ飛び込んだ。クリフトくんがそれに続き、ブライ様も老体に鞭打つように、ゆっくりではあったけど彼なりの速さで時計回りの渦に入った。私もそれに続こうと、旅の扉へ続く短い階段をとばし、中へ飛び込む。
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