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◆fzAHzgUpjUの物語
[DQ4]

武術大会2
 ……確かに、「ヒャド!」って、二回唱えた。ほら、人間あせると同じこと何回も繰り返して言っちゃうでしょ。それだよね。うん、それだったんだ。
 左手から発動したヒャドは、唱えた回数どおり、ふたつの氷をアリーナちゃんに飛ばした。こんなこと初めてだった。魔法は、一度唱えるなら一回しか発動しない。魔力で魔法を発動したら、次の魔法を唱えるまでには魔力の「タメ」が必要だから、連続して一度に二回、今みたいに発動するはずなんてない。出会ったばかりのころ、戦闘でメラを連呼していた私に、ブライ様は確かにそう言っていた。
 左腕で、黄金の腕輪が熱くなる。嫌な熱ではないけど、私は初めてこの腕輪のことが怖くなった。今、魔法を連続で唱えられたのは黄金の腕輪のせいだとはっきりと自覚できた。アリーナちゃんの選択は正しかった。こんなことが出来てしまうものを悪い人に渡したら、一体なんのために悪用されていたんだろう。
「くっ……」
 氷の塊に吹っ飛ばされたアリーナちゃんが起き上がり、薬草を齧る。咥えている葉っぱをそのままに、アリーナちゃんは戦いの意志を宿したまんまの目で私を見据え、笑った。今まで見たアリーナちゃんの笑顔の中で、一番いい笑顔だった。つられて私も笑う。距離は十分に取れた。クリフトくんから即興で教えてもらった「スカラ」とホイミを一度ずつ唱えて、ホーリーランスを握りなおす。
 この戦いではもう、黄金の腕輪には頼らない。彼女は純粋に私との戦いを楽しんでくれている。だったらもう、アリーナちゃんが使えない「魔法」なんてナシ。向こうも薬草を持ってるし、スパンコールドレスと革ジャンの耐久性の差があるから、ホイミとスカラは使わせてもらうけど、それ以外は唱えっこなしだ。条件は互角だ。
「てやあああ!」
 気合一発、アリーナちゃんは掛け声と共に鉄の爪を繰り出す。この一撃に耐えたら、勝算は十分すぎるほど整う。スカラで耐久性は上がってる。防御すればなんとかなるはず……だったんだけど。
 ―――姫様の「会心の一撃」には十分ご注意ください。武器による攻撃は時折、体で繰り出すのに最高の条件が整うことがあります。いつものように攻撃をしたら、とても上手く決まった、ということが、メイさんにもあるでしょう?姫様のお体はそういった、会心の一撃を打ち出す条件が整いやすいという特徴があります。打たれたが最後、物理的な防御力など一切関係なくなります。いくらスカラを唱えていても、です。……姫様に優勝していただきたいのはやまやまですが、私は……姫様がデスピサロと戦うことがとても心配なのです。身勝手とはわかっています。ですが、どうか……。メイさんがデスピサロと戦うことになったら、私はルールを無視して加勢いたします。
 スカラを教わったとき、クリフトくんがロザリオを握り締めながら言ってたことが今更になって蘇ってくる。そ、走馬灯……!? いやいや、アリーナちゃんも多分、死なない程度に力は抜いてくれてるはずだよね……。
 ボディに入れられた強烈な一撃は、「吹っ飛ぶ」なんて表現では表しきれないほど綺麗に私の体を宙に跳ね上げた。あんまりにも強烈なのを叩き込まれると、いくらみぞおちに入ったとしても出るものは出ないらしい。
 壁に背中をぶつけて地面に落ちる。ホーリーランスを杖代わりに立ち上がってみたものの、背中を打った拍子に衝撃が肺にまで伝わってきてたものだから、呼吸困難になって結局倒れこんでしまった。遠くで試合終了の声がする。
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