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◆fzAHzgUpjUの物語
[DQ4]

エンドール2
 これだけ大きな街だと、武器や防具の品揃えもすごく豊富だった。防具屋でうろこの盾を「鉄の盾」に買い換え、クリフトくんは今まで装備していた青銅の鎧を売って鉄の鎧を買い、武器屋でブライ様は毒蛾のナイフを買った。でも、アリーナちゃんのような武道家が装備できる軽くて丈夫な防具は売ってなかった。
 何かいいものはないかと探していたところで、さっき立ち寄ったカジノの景品リストを思い出す。景品の中に「スパンコールドレス」っていうキラキラのドレスがあった。交換所のバニーさんの話を聞いても、優秀な防具として、旅する女性に大人気だって。
 それじゃあコインを買うお金をどうやって捻出しようかと、カジノの入り口付近で考える四人。
「……ん?ステージの上にギターが置きっぱなしになっとるぞい。ははぁ、さてはあのヘタギタリスト、休憩時間に入ったんじゃな。……こりゃ、何をぼんやりしとるか。さっさと行ってこんかい」
 はい? 行ってこんかいって、どこにですかブライ様。
「ぼやぼやしとるとあのヘタクソが帰ってきてしまうぞ。さっさと一曲弾いて、おひねりを稼いで来なさい」
「無茶言わないでくだ」「メイさんギター弾くの!?聴きたーい!」「わ、私も興味があります!」
 トリプルアタックに負けて、しぶしぶ私はステージに向かった。深呼吸ともため息ともつかない二酸化炭素を吐き出して、なるべく人目につかないようにステージに上がる。ギター欲しさにここまでやるなんて、例のテレキャスターの購入を決めたとき以来だよ、もう……。
 木製のスタンドに立てかけられているギターを勝手に拝借して、バンドを肩にかけた。曲目はー……、よし、スタンダードに「禁断の遊び」で行ってみよう。
 爪の長さはあまり変わっていない。むしろまったく伸びてない。こっちに来てから体質が変わったんだろうか。前は爪でアコギ弾いてよく爪の先をぼそぼそにしてたのに。
 一番細い弦を弾くと、思いのほか澄んだ音がした。エレキではないけど、シンプルな造りのギターはこの世界でもちゃんとしている。
 ……この腕輪はギターの音を聴けるだろうか。聴けるんだったらこの曲を聴いて、禍々しいとか怖いとか言われるその魔力を、少し優しいものにできないだろうか。
 左手に何かが乗り移ったようにフレッドを抑えた。久しぶりの感触に指先が喜んでいる。指すべてにそれぞれの意志が宿ったように右手が動いた。鈍ってはいない。あー、私、ギターが弾きたかったんだなぁ。
 黄金の腕輪が熱を持ち始めた。火傷をするとか、そういう熱じゃない。ホットコーヒーを注いだマグカップを当てるような、よく働いてくれたアンプに触れるような、そんな熱だった。
 ―――心なしか、ギターの音が大きくなる。弦の弾き方は変えていないのに、左手に伝わる振動が強まった。
 あっという間に一曲を弾ききってしまうと、ライブとは違う歓声がどっと沸きあがった。ステージに投げ入れられる硬貨と時折見える紙幣を一つ一つ丁寧に集めてステージを降りると、さっきのギタリストに恨めしそうな目で睨まれてしまった。おひねりは全部で三千ゴールドちょっと。これを元手にして私がポーカーテーブルでちまちまダブルアップを繰り返していると、アリーナちゃんに引っ張られてスロットマシンをプレイしていたクリフトくんが、なんとスリーセブンをたたき出した。
 ……カジノでの手柄は取られたけど、装備は整った。コロシアムからは、観客の気配が地響きのように伝わってくる。
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