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◆fzAHzgUpjUの物語
[DQ4]

エンドール1
 無責任な発言は結局のところ自分の身を滅ぼすことになる。これをよく覚えておこうと思った。
「頼む、アリーナ姫よ。どうかこの武術大会で優勝し、モニカの結婚をなかったことに!」
 最近、魔物の動きが活発になっているからと、エンドール王はつわものを集めるためにこの武術大会を開いたそうで。武術大会で優勝した人はなんと、この国のお姫様と結婚する権利が与えられる。つまり、王様の隣の玉座で浮かない顔をしているモニカ姫は、優勝者が男性だった場合、嫌でも結婚させられてしまう。
 少しだけむっとしたアリーナちゃんがエンドール王の前でスカートをつまみ頭を下げ、無理な頼みを聞き入れる。
「……王様、ひとつお願いしたいことがございます」
 跪いて顔を上げ、アリーナちゃんはとんでもないことを口にした。
「ギターを、ください。わたしの後ろで控えている色眼鏡の者は、人々を魅了する音色を奏でるギタリストです。ですが、旅の道中に魔物に襲われてギターを壊されてしまいました。わたしたちの旅の資金では、高価なギターを買うことはできません。ですので、どうかわたしが優勝した暁には、この国にある最高のギターをお与えください」
 ななななな何を言い出すのこの子は! 魔物に壊されたなんて大嘘までついて!
 いや……理由はあるんだ。昨日は一日中ずっと熱出して寝込んでいた私を、ステージでギターを弾いていた人がいるから観に行こうとアリーナちゃんがカジノへ誘ってくれた。砂漠を放浪する民の衣装を着てギターを爪弾く男性を、ステージが終わったあと二人で訪ねて「一度そのギターを貸してくれませんか?」と申し出た。すると、返ってきた答えは悲しいものだった。
 この世界ではギターはすごく高価な楽器で、ひとつ買うだけでも二万ゴールド近くかかるのだという。そんな高価なものを、見ず知らずの他人に貸すわけにはいかないと突っぱねられてしまった。
 そうなると、いつかギター演奏を聴かせると約束した私も、それを楽しみにしてくれていたアリーナちゃんも、意気消沈してがっくり来てしまう。とぼとぼと宿に戻った私たちを見て、ブライ様とクリフトくんは
「いつかご自分で気づいたほうがよいと思い、フレノールの洞窟では何も言わなかったのです」と頭を下げた。確かに、あのときは「いつかギターを弾いてあげる」という約束でその場の空気を取り持ったから、真実を伝えられれば一気にしらけてしまっただろう。
 けれども、なんかなぁ……。出場するのはアリーナちゃんなのに、高価なギターをもらえるのは私、っていうのも、ちょっと腑に落ちない部分がある。……よし。決めた。
「……姫様、わたくしなどのために貴重な優勝賞品を選ぶ権利を棒に振ってはいけません」
「で、でも、メイさん……、わたし、メイさんのギターが聴きたいよ」
「ええ、ですから、姫様」
 床に置いて攻撃の意はないという態度を取らせていたホーリーランスを握り、切っ先を天井へ向けた。
「わたくしも、武術大会に参加させてください。もしも決勝戦でわたくしと姫様が戦い、わたくしが勝ったら、その時は国王陛下からギターをいただきます」
 王様に拒否権なんかなかった。むしろ拒否する理由がない。女が二人、決勝戦まで残れば、大事な娘を嫁にやる必要なんかなくなるからだ。
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