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◆fzAHzgUpjUの物語
[DQ4]

さえずりの塔2
「きゃあ、やだ!人間よ!逃げなくちゃ!」
「あっ……さえずりの蜜が……」
「そんなのいいから!早く!捕まって虐められてしまうわ!」
 肺にこびりついたタールがまだ抜けない私と、高所恐怖症のクリフトくんがひーひー言いながら最上階にたどり着いてみれば、あっからさまに酷すぎる言われようをされてエルフの子たちに逃げられてしまいました。堂々巡りの次はいわれのない誹謗中傷ですか……。第一、私には弱者を捕まえて虐めるような趣味なんてありません。―――虐めるぐらいなら虐められたほうが、人間としてまだマシです。
 逃げ出したエルフたちが落っことしていったさえずりの蜜を手に、元来た道を通って塔を降りる。
「げほっ……げほっ、ごほごほ……っうー……げんげんげん!」
「ひどい咳ですね……大丈夫ですか……?」
 私のこと心配するよりも自分の心配したほうがいいんじゃないかってぐらい真っ青なクリフトくんが、震える手で私の背中をさすってくれる。
「平気……。タバコの悪いものがまだ体から抜けてないだけ」
 咳のしすぎで頭までぼんやりしてきた。喉が痛い。階段の上り下りで膝関節がびしびししてる。
 塔から出てキメラの翼でサントハイムまで戻った。戻る途中、空へ引っ張られる感覚が気持ち悪くなったけど、空中でそんなことになったらものすごく悲惨なことになるから我慢した。

「わしは恐ろしい夢を見たのじゃ……。闇の帝王が蘇り、世界を滅ぼそうとしている夢を」
 さえずりの蜜でお声を取り戻した王様は、サントハイム王家の血が見せる予知夢の詳細を話した。闇の帝王が蘇り、世界を滅ぼそうとしている。帝王の名前はわからない。だけど、同じ形で色の違う怪物が三体、不気味な肉体形成を繰り返して世界を死で包み込もうとする。そんな恐ろしい夢を見たと、王様は言った。
「アリーナよ。お前の強さと意志の固さはよくわかった。世界を見て来なさい。そして、よからぬことが起きているのなら、その手で止めて来なさい。……行け、アリーナよ。わしはいつでもそなたの身を案じておるぞ」
 親子が理解しあうときって、どんなリレーションシップでも勝てない絆が生まれると思う。しっかりとアリーナちゃんを抱きしめて、王様は彼女たちの旅立ちをようやく快諾してくれた。
 よかったね、アリーナちゃん。これで世界を見て回れるね。そんなことを考えたら、安心したのか世界が回り始めた。いやいや、世界は回らなくてもいいのよ。世界を回るの。私じゃなくて、アリーナちゃんが。だから、世界は回らなくてもいいんだってば。あららら、膝がガクガクしてぐらぐらり〜……?
「こ、こりゃいかん!すごい熱……カゼじゃな。喉も腫れておるようじゃ。これ、大臣。残ったさえずりの蜜を、この娘に飲ませてやりなさい。呼吸や喉の痛みがやわらぐだろう」
 たかがカゼっぴきで倒れた奴にさえずりの蜜はもったいないからいいです。
 と、言おうにも、リンパ腺が腫れてて言葉にならなかった。
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