[] [] [INDEX] ▼DOWN

◆fzAHzgUpjUの物語
[DQ4]

※DISPOSABLE HEROS
 チビとノッポとデブ、三人とも男だった。三対九本の手足は誰のものにも濃い体毛が生えている。気を遣われたことなどただの一度もないのであろう粗末な衣服とそろいの青銅の鎧が、彼らのみすぼらしさと汚らしさをさらに引き立てていた。
「兄ィ、これを届けたら、おれたち大金持ちだよなぁ」
「そしたらよぉ、モンバーバラまで行って、オッパイのでっかい踊り子いっぺぇはべらして、イイコト三昧しようぜ」
 チビとデブが、黄色い歯をむき出しにして下品な笑いをげはげはと浮かべる。だが、闇に溶ける笑い声に「兄ィ」と呼ばれたノッポは反応しない。
「お前ら、そんな『消耗品』に金使って楽しいのか?」ノッポの淀んだ琥珀色の目がぎらりと光った。
「いいかお前ら。この腕輪をエビルプリーストの旦那に渡したら、おれたちに入るのは十万ゴールドなんていう大金だ。それを元手にしてさらに金を増やし、武力を蓄える。……そうすりゃ、南方のボンモール王国みてぇな小せぇ国ぐらいなら、おれたちの手に落ちる。……一国の王にだって、やり方によっちゃあなれるんだぜ?」
 計画されつくされた大きな夢に、チビとデブはひゃー、と甲高い歓声を上げながら飛び上がった。足取りも軽くノッポを追い抜きながら、「エビルプリースト」と落ち合う約束の場所であるテンペ地方の山深い場所を目指した。
 人間のような生活臭でも、エルフのような花の香りでも、純潔なる魔族の闇の匂いでもない、混濁した気配が三人の鼻を突く。悪趣味な細工が施された肩当に、魔界では死を表す色の白いローブを身に纏い、「エビルプリースト」はそこにいた。
「エビルプリーストの旦那、約束のモンだ。さあ、金を払ってもらおうか」
「おお、おお、ありがたやありがたや……。これでピサロ様もさぞかしお喜びになろうぞ。よくやってくれたの。褒美の金じゃ。受け取れ」
 伸びて尖った十の爪の先で丁寧に腕輪を受け取ると、足元にあった麻袋を蹴って三人の前に放り出した。紙の束がぶつかり合う幸せな音がバサバサと袋の中で踊っている。
「……む……?」皺だらけの顔の上部、眉間と額にさらに深い皺を刻み込んで、エビルプリーストは短く唸った。
「まずは祝杯と行くかぁ。サランの町の酒場で一杯ひっかけて、明日からはエンドールを目指して、資金捻出の策を練ろう」
 でこぼこの高さで折線を描く、高さの違う頭が同時に弾けとんだ。脳髄をぶちまけて周りの木々にこびりつかせる三人の男たちは、ノッポの手からずり落ちて地面に倒れた麻袋が立てる幸せの音を最期に聴くことも叶わなかった。
「誰がこのようなまがい物を持って来いと言った?」
 地面に叩きつけられるようにして落ちた反動で、麻袋の口を閉めていた紐が緩んだ。重力に逆らわずするすると落ちてくる麻袋の中身は紙幣ではなく、インクの染みの一滴もないただの紙束だった。
「黄金の腕輪を取りに行ったのはサントハイムの王女一行だったはずだ……。ククク、面白い。このワシを出し抜こうなど、よくぞ考え付いた。褒美に、ワシの力のほんのひとかけらをお前たちにくれてやろう」
 血の臭いを嗅ぎつけて、暴れ狛犬の群れが涎を垂らしながら集まってきた。食欲という本能にぎらついたいくつもの赤い双眸を尻目に、エビルプリーストはサントハイム方面に向かって歩き出した。
[] [] [INDEX] ▲TOP