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◆fzAHzgUpjUの物語
[DQ4]

フレノール南の洞窟4
 洞窟の一番下の一番奥に、古びた宝箱が置いてあった。錆びた金属細工の装飾が、いかに昔のものかを物語る。さび付いて動きの鈍い宝箱の蓋をアリーナちゃんがこじ開けると、中身だけ時の経過を忘れていたように輝いていた。黄金の腕輪。その名が示すとおり、何もかもが純金で作られているバングルだ。
「おお……なんと禍々しい力を発するのか……」
「……神よ。このような恐るべきものを生み出した人とは、愚かなのですか?」
 魔力を感じ取って宝箱の中を覗き込むブライ様、その隣には強すぎる力の生誕の正誤を問い十字を切るクリフトくんがいる。腕輪の輝きは洞窟内の乏しい明かりも貪欲に取り込んでいた。つるんとしたブライ様の額に腕輪の光が反射してピカピカしてるのを見て噴出しそうになったけど、そんな空気じゃないことはわかっているから耐える。
「で……誰が持つ?」
 こめかみから汗を流すアリーナちゃんの冷静な言葉が、パーティ全員の視線を集める。古びた宝箱の中で時間の概念を忘れた金色が、爛々とその目を輝かせていた。拳を握り締め、クリフトくんが何も言わずに宝箱の中へ手を伸ばす。
「待て、クリフト。お主は神に仕える者じゃろ。そんな奴がこんなもの持っちゃいかん」
「ですが……姫様やブライ様にこのような危険なものを……!私は、……嫌です」
 このメンバー内でのクリフトくんの発言権なんて、ほぼ皆無に等しい。ブライ様は最年長者でサントハイムのお城ではクリフトくんよりもずっと地位があるだろうし、アリーナちゃんにいたってはお姫様だもん。私だって、見知らぬ旅人ってことになってはいるけど、明らかに彼よりも年上だ。そんなクリフトくんが自分の意志を強く主張するほど、この腕輪は危なっかしいものらしい。私にはどう見ても趣味の悪いアンティークアクセサリーにしか見えないけれど。
「ですが、お二人とも!」
「ああもう!命令よ!わたしが持ちます!」
「姫様!めったなことを言うものではありませんぞ!」
 ぎゃーぎゃー、わーわー、……これってさぁ、「フリ」なの? そうじゃなかったら、私っていま完璧に外野扱いされちゃってる?
 フレノールの街まで持っていくのすら嫌になるような腕輪ってわけでもなさそうなのに。お姫様が偽物だったんだから、この腕輪だって偽物ってこともありえるんじゃないのかなぁ。なんて、考えていたら出てくるのはため息だけで、だったらさっさと持って帰ってあの偽者のお姫様を助けてあげないと……。
 鉄の槍を小脇に抱えて、うろこの盾をはずす。革ジャンの固い袖を無理やり捲り上げて、むき出しになった肌にぐいぐいと腕輪を食い込ませた。手首にするにはちょっと大きくて、限界まで押し込んで行ったら手首と肘の間で止まった。
「なぁんだ。何でもないですよ。さあ、探し物は見つかりましたし、帰りましょう」
 ぴったりと私の腕にはまってしまった黄金の腕輪を見て、三人分の悲鳴と驚嘆と叫びが混ざり合って洞窟の天井に共鳴する。向こうから響いてくるドドドド……って音は、暴れ牛鳥や大ニワトリの足音で、タバコがくすぶるような音はメラゴーストがこっちにやってきてるってことだろう。
 ……だから「大声出すと魔物が来るよ」って言ったのに。
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