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◆fzAHzgUpjUの物語
[DQ4]

フレノール南の洞窟3
「うそ」
 唐突に口を開いたアリーナちゃんの言葉に、私はびくんと背筋をこわばらせた。そんなことする必要はないはずだった。完璧に作り上げた表情と台詞の言い回しに、クリフトくんもブライ様も聞き入っていた。
「うそついても、わたしにはわかるのよ。メイさんがギタリストだってことも、すごく上手いのも、うそじゃない。でも、最後の言葉だけはうそよ。そういううそをついたあと、メイさん必ずひとりで落ち込むでしょ?ねぇ?」
 嘘をついたことを咎めるわけでも、嘘を見抜いたことを自慢したいわけでもなさそうなアリーナちゃんの口調が怖い。目の前にいる相手の髪にゴミがついているのを教えるぐらい「当然」のことを口にしているとしか思えなかった。
 休日はライブ三昧、ファンも多い。それは真実。でも、「友達つれて」ってのは真っ赤な嘘。友達なんて、大学で知り合った数少ない人たちしかカテゴライズできない。バンドのメンバーは、友達というよりも「仲間」だと思う。
 でも、私が生きてきた社会は「友達がいて当たり前」「人間関係を円滑に進められない奴はコミュニケーション能力に欠けている」「自分の主義主張や趣味が他者と合わないのは空気を読めないからだ」って言われてるところだった。
 ―――「違う」ということは、それだけで「悪」で「罪」だから。
「……なんで『わかる』の?」
「『見える』からよ」
 いまひとつ、アリーナちゃんが言う理由を理解できないでいると、なんだか残念そうな顔で彼女は先頭に戻ってしまった。二番目に続く私には、暴れ牛鳥を投げ飛ばすようには見えない小さな背中と肩しか見えない。
「サントハイム王家の血を引く方は、予知能力があるのです。姫様はおそらく、『嘘をついた後に落ち込むあなた』を、先に見たのでしょう」
 理解のための補足を入れるクリフトくんはやけに慣れた様子だった。
「……嘘ついてごめんね。あんまり昔の話はできないけど、今度機会があったらアリーナちゃんたちの前でギターを演奏するよ」
「……ほんと?」
 赤茶色の目がくるくる輝きながらこっちを向いた。しっかり頷いてみせると、アリーナちゃんは笑って前を向いた。
「……メイさん、この世界でギターは」
「クリフト。今は何も言うな。ほとぼりが冷めたときに、いずれわかるじゃろうて」
 後ろでクリフトくんとブライ様が何か言った気がしたけど、まあいっか。少し安心したところで、洞窟の地下へ続く階段が見えてくる。
「気味が悪いわね……。なんだか怖いものがいるみたいな気配がするわ」
 言いながら、アリーナちゃんが鎖鎌を構える。クリフトくんもブライ様も同じように武器を構えている。
 どうにもこうにも、三人が感じ取っているらしい「怖いものがいるみたいな気配」がわからないけど、私もとりあえず鉄の槍を構えた。
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