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◆fzAHzgUpjUの物語
[DQ4]

フレノール南の洞窟2
「私の話……?」
「うん!メイさんって女の人なのに結構強いし、体も大きいでしょ?メイさんって、旅に出る前はどんなことしてたの? それとも、生来の旅人なの?いいなぁ〜、やっぱり上背がある方が、攻撃リーチも長くなるし踵落としもカッコよく決まるわよね!」
 とんがり帽子を含めても私の鼻先ぐらいまでしか届いていないアリーナちゃんが、先頭から私の隣に寄ってくる。羨ましがられてる、のかな、これは。身長一七八センチの私としては、アリーナちゃんぐらいの背丈で可愛い感じの女の子のほうが羨ましいんだけれども。
 無邪気な質問攻めに、とりあえず体裁だけはつくろっておこうとした言葉が胸のあたりでつっかえてしまった。この世界に放り込まれた拍子になくなったテレキャスターに対する喪失感もあった。でも、多分いま胸と喉のあたりでぐいぐいつまっているのは、そういう物理的な感覚じゃない。
 今朝見た夢がいやに鮮明に後ろ頭をさらさらとよぎっている。眩暈がしそうになるのを笑顔で粉飾した。
「ギタリストだったよ。作曲して、問題の打開策をテーマに歌詞を書いてた」
「ふーん、珍しいのね。音楽をやる人ってみんなマローニみたいに、竪琴持って恋愛の歌を歌ってるのかと思ってた」
 そりゃアナタ。ルドルフ・シェンカーのギター聴いて育った人間が「めちゃくーちゃー好ーきやっちゅうねん☆」なんて歌作ってたら気持ち悪がられるでしょ……。
「ほほう、女だてらにギター弾きとは珍しいのぅ。で?腕前はどうなんじゃ?」
「血ヘド吐くほど練習した結果程度です」
「えっ?元から才能があったわけではなくて、ですか?」
 ブライ様への回答に、クリフトくんが驚いた声を上げる。あんまり大声出すと魔物に気づかれちゃうよって言うと、アリーナちゃんは「そのほうがいいじゃない!」って嬉しそうにぴょんぴょん身軽に飛び跳ねる。
「誰だって元から弾けるわけじゃないよ。ボーカルと違って、自分の意志どおりに動かそうとするものに直接自分の意志が宿ってるわけじゃないから、言うこと聞かせるのに多少なりとも時間はいるの。……逆に、ある程度才能がなきゃ伸びの止まるボーカルと違って、ギターは練習すれば可能性は見えてくるから」
 弾けないストレスで胃をやられて血を吐いたことがある。私はもともと、ボーカリストだった。ボーカリストとしての才能がなかったわけじゃない。それを自分でも自覚してた。……でも、ある日突然現れた「彼」の声は、私の声よりもバンドリーダーの好みや意志に合ったものだったらしい。強引なスカウトによってうちのバンドに入る前はヘタクソなギターを手に一人で歌っていた明るくて優しいボーカリスト。……そんな彼に、「独り舞台」という意味のあだ名がつくのには、時間なんていらなかった。
「それだけ頑張ってらしたなら、メイさんのファンもたくさんいらっしゃったでしょうね」
「あはは、もちろん。休みの日は友達つれてライブ三昧だったよ」クリフトくんの笑顔につられて笑ったときだった。
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