[] [] [INDEX] ▼DOWN

◆fzAHzgUpjUの物語
[DQ4]
■第二章

フレノール
毎日ジャージだもんね〜。イマドキの歌も歌えないしぃ。
あーあの男女でしょ? アイツ、マジダサいもん。GLAYもタッキーも知らねぇんだってー。
キャハハハ! 時代遅れ女キモッ!
あー、ホンモノだー。ねぇ、ウチらの代わりに今日、音楽室の掃除しといてー。
ウチらお前と一緒にいたくないからー。

キャハハハ……ギャハハ……アハハハ………



 ……最悪な夢を見させてくれるなぁ、神様も。まあ、「こんな目」にあってる時点で、神様なんて信じてるほうが変なのかも……。ああ、もう。心臓と胃のあたりがムカムカする。なんであんな大昔の夢を今更になって見るかなぁ。小学生だったよね、夢の中では。……あのときのことは、もう気が済んだはずなんだけど。
 覚醒し始めた意識でゆっくりと目を開ける。広がる世界が見慣れた私の部屋であることを願ったけれど、現実はどうしても厳しくあって、優しくはなってくれないみたい。
 もともと着ていたシャツとジーンズという格好でベッドに寝かされていた私は、なんだかもう慣れてしまった感じで革ジャンとサングラスを探し始める。革ジャンは窓辺のタンスの中、サングラスは枕元で発見。
 部屋の構造からして、ここも旅の宿屋らしい。でも、イムルの宿屋とは内装が違う。あの渦に吸い込まれてから目が覚めるたびに宿屋にいるのはどうしてなんだろう。この世界は妙なところで親切かもしれない。
 腰にぶら下げていたシザーケースの中身を確認する。……ものっすごく不思議なことなんだけどね、こっちに来てからというもの、この小さなシザーケースには「なん〜でも」入っちゃうようになった。
「いくらでも」ってわけじゃないけど、どう考えたって・押し込めたって、入らないでしょ〜! っていうものが、入ってしまうのですよ。そんなこんなで、シザーケースの中にはライアンさんからもらった薬草が五個、お財布と中身のお金(と、この世界では何の意味もないポイントカード類)、メイク道具、サングラスのケースがあった。
 ……ライアンさんとホイミンくん、あのあとちゃんとお城に戻ったのかな。ライアンさんにはバトランドを守るっていう大事な仕事があるし、ホイミンくんは「人間になる」っていう夢があったもの。う〜ん……心配。
 ご丁寧なことに、鉄の槍とうろこの盾は布切れにくるまれてベッドの下に置いてある。
 ブーツを履いて、とりあえずこの宿屋のご主人にお礼と挨拶をしようと部屋の出入り口のドアノブを回した。


「おっと、それ以上近づくなよ!少しでも動いて見ろ!お姫さんの命はねぇぜ!?」
 人間は、自分で把握している常識からあまりにも外れたことが目の前で起こると、かえって冷静になるらしかった。ドアの外、三メートル先で屈強なおじさんに両手を縛られて首筋にナイフを突きつけられている女性は、私と、さっきからそこにいたらしい三人の人たちに声も無いまま「SAVEME」を叫んでいる。
「女の子を人質にするなんて卑怯よ!彼女を離しなさい!」三人いたうちの、女の子が怒鳴った。
「動くなっつってんだろ!……でなきゃあ、お姫さんのツラに傷がつくぜ」
 屈強なおじさん三人組は、じりじりとお姫様らしい人を抱えて廊下の窓から屋根づたいに逃げていく。どうやらああいった行動には経験があるプロらしい。大変だぁああ! と思ってひとまず後を追ってみる。
 私なんかよりもずっと早く、軽い身のこなしで、さっきまで隣にいた三人のうちの一人が窓からぴょんと飛び降りた。
 ……ちょっ! 待っ! OhGirl!? ここ二階じゃないの!? 
 鮮やかな青のマントにお揃いのとんがり帽子、ぱっと目を引くひまわりのような黄色いワンピース型のスカートに黒のタイツを合わせたその娘は、茂みにもぐりこんで姿を消した人攫いたちに小さく舌打ちして、私が身を乗り出して彼女を見下ろしている窓を見上げた。
「今の、見たでしょ!?このことは私たちだけの秘密よ!いいわね!?」
「ひっ、姫様!お一人でどこに行かれます!?」
 ぐい、と私を押しのけて若い男の人が窓から飛び降りんばかりに叫んだ。……ん? 姫様?
「あいつらの後を追うに決まってるでしょ!クリフト!あなたも一緒よ!もちろんブライもよ!」
「やれやれ……姫様の行動力には敵いませんな。年寄りにあまり無理をさせるものではありませんぞ」
 ……このおじいちゃんの髪の毛はなにか? 重力というものに魔力で逆らっていらっしゃるのですか? とでも言いたくなるのを振り払うと、ブライと呼ばれていたらしい怒髪なおじいちゃんから、濃い魔力の匂いが立ち込めてきた。冷静だった胸が突然激しすぎる鼓動を刻みだす。
 ああ、同じだ。ライアンさんと初めて会ったときと同じ、あの不思議な感覚。言葉で説明できないものに全身を突き刺されるあの感触が、今度は三人分まとめて一度にやってきた。
 あまりのショックに膝から崩れ落ちそうになるのを必死にこらえて、私はあわてて武器を取りに部屋へ戻った。
 武器を持ってご主人へのお礼もそこそこに宿屋を飛び出すと、外で遊んでいた子が、
「僕の犬が手紙をくわえてきたんだ。とんがり帽子のおねえちゃんか、色めがねのお姉ちゃんに渡してねって書いてあるよ」
と、無邪気に笑いながら人攫いからの手紙を見せてくれた。南の洞窟にある「黄金の腕輪」とお姫様を交換だ、と書いてある。
「黄金の腕輪……強大な力を秘める魔の神器じゃな」
 背後から聞こえた声に飛びのくと、さっきの怒髪おじいちゃんが後ろから手紙を覗き込んでしっかり読んでいた。
「見たところお前さん、なかなか腕が立つようじゃの。手紙にはお前さんのことも書いてあったが……どうするかね?」
 手伝いなさいオーラをバリバリ出してるおじいちゃんに根負けし、一緒に目撃してしまったのも何かの縁だということで、私も「黄金の腕輪」の捜索に参加することになった。
[] [] [INDEX] ▲TOP