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◆fzAHzgUpjUの物語
[DQ4]

湖の塔[2]
 破邪の剣と鉄の槍の切っ先が、揃って「ピサロの手先」と名乗ったバケモノの喉元へ突きつけられる。噴出される炎を避けて、召喚された大目玉たちを突き刺し、殴ったり殴られたりしながら決着をつけた。ライアンさんは戦士というだけあって、槍づかいもすごかったけれど、塔の途中で手に入れた破邪の剣の扱いはさらにすごかった。無駄な動きひとつせずに、最低限の一閃で敵を斬る。槍のなぎ払いでよろめいた大目玉たちを一刀両断にするさまは、まさに剣の神様だった。
「このまま去るか?何もせず、今後も悪事をはたらかないと誓うなら、今ここで見逃そう」
 ライアンさんの重く厳しい声に、ピサロの手先は涙を流して頷いて、子どもたちを閉じ込めていた牢の扉を開けた。
「さあ、おいで。もう大丈夫だ」
 殺し合いの目をやめたライアンさんが、優しく子どもたちに手を差し伸べた。
 背後から火の息の熱気が襲い掛かってくる。とっさに盾で身をかばった私とライアンさんの後ろで防御したホイミンをすり抜け、ピサロの手先は安心感に顔をほころばせていた子どものうちの一人を掻っ攫い、まるでゴキブリみたいに階段を上っていった。
「しまった!」「嘘っ!?」「たいへんだぁ!」
 三者三様の言葉を口に、ピサロの手先を追いかける。屋上まで追い詰めたはいい。だけど、ピサロの手先が持っている杖の先端は細く小さな首に当てられていて、今にも頚椎をへし折ってしまいそうだ。
「うわあぁあん!助けてぇ!」
「うるせぇぞクソガキ!……おい!武器を捨てろ!」
 どこの世界にもこういうタイプはいるものなんだ。と、やけに冷静な頭で思いつつ鉄の槍を手放した。ライアンさんも同じように破邪の剣を捨てるけど、戸惑いとかうろたえた様子なんて一切無い。
「メイ殿」小さく、私とホイミンにしか聞こえない声でライアンさんが言った。
「メラ!」
 さっきの戦闘では肉弾戦ばっかりで使わなかった魔法を、今初めて発動する。火球はピサロの手先の顔面にぶち当たり、断末魔によろめいて床のないところへとフラフラ後ずさっていく。武器を拾い、みんなで奴と子どものほうへ走った。
「あっ……あ……わぁあ!」揺らぐ視界に子供が叫ぶ。
 ぐらり、とピサロの手先が子供を羽交い絞めにしたまま床を踏み外す。子供を拘束する腕の力は緩まない。吐き気がするのをこらえて、私は鉄の槍をピサロの手先の胸に突き刺した。ライアンさんが子供をしっかり捕まえる。
 うん、まあ、お約束というかなんというか。この下は湖だから、死にはしないだろうけれど。
「一緒に落ちるとか、本末転倒もいいとこだー……」
 せめてもの衝撃緩和に、事切れたピサロの手先の死体を下敷きに落ちていく。湖水に飲み込まれたのを認識すると、驚いたことに痛みもショックもまったくないことがわかった。

 早く岸に上がって、ライアンさんたちを待たなきゃ。と、思った矢先。私の頭からつま先まですべてを包み込んでいた湖水が、突然うねり始める。波は徐々に丸まり、反時計回りに渦を巻く。
 死の匂いを含んだ雨の降るあの日、私を飲み込んだ水たまりと同じ動きを湖は始めた。もしかしたら、もとの世界に戻れるのかもしれない。テレキャスターと携帯電話と鎮痛剤は見つからなかったけど、そんなものまた買えばいい。今度はテレキャスターじゃなくてストラトキャスターにしよう。
 鉄の槍の柄とうろこの盾の取っ手を握り締め、続かなくなる呼吸と意識を早く手放そうと目を瞑った。遠くでライアンさんの声が聞こえた気がする。本当はすぐにでも彼らのところに行きたい気分だったけど、この渦は私を解放してはくれなかった。




 「メイ殿!メイ殿ぉー!」
 メイが落ちるのを、ライアンは確かに見ていた。子供を捉えたまま塔から落ちて自害しようとしたピサロの手先にトドメを刺し、メイはそのまま落ちていった。あの場合、ああするしか子供を助ける方法はなかった。ピサロの手先は、ライアンたちに討たれ死ぬのなら、せめて子供一人ぐらい道連れにと考えていた。メイのメラでひるんだ隙に子供だけを連れ戻そうとしたが、執念の強さは子供を拘束する力の強さとなって現れていた。完璧に殺さなければいけなかった。
 ライアンはほんの一瞬、躊躇したのだ。あの高さから、トドメの一撃のはずみで落ちてしまうことに。しかし、メイは躊躇うことなくピサロの手先に鉄の槍を突き刺した。まるでライアンが子供をしっかり受け取ることを確信していたように。
 湖にメイが落ちたのは見た。しかし、一向に彼女は上がってこなかった。塔の屋上から飛び降り、真昼の太陽がきらめく湖面を見つめたが、物影ひとつ浮かんではこなかった。
 ただひとつ―――湖の中が不自然に光っていた。白っぽい糸が集い、丸くなり、渦を巻いているように見えた。あれはまるで、書物でしか知らない移動魔力の集合体―――旅の扉のようだった。



第一章 完


Lv.6 メイ
HP:21/26 MP:27/38
E 鉄の槍
E うろこの盾
E 革の服(革ジャン)
E −
E サングラス

戦闘呪文:ホイミ・メラ
所持金:345G(湖の塔での戦闘で獲得したゴールドを全額受け取っている)
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