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◆fzAHzgUpjUの物語
[DQ4]

魔法使用方法論
「だいじょうぶ?落ち着いた?」
「宿の主人がミルクを温めてくれたが、……飲めるだろうか?」
 イムルの宿屋でライアンさんと対峙して、ホイミンくんという名前のホイミスライムが挨拶をしてくれた瞬間、緊張の糸が切れて混乱のドツボにはまりこんでしまった。「ここはどこ?どうしてここにいるの?」という、忘れよう忘れようとしていた不安要素が、ライアンさんを前にして崩れ落ちてきたみたいだった。多分、ライアンさんが強く優しい人で、なおかつ正しい道を歩んでいるから安心しちゃったんだと思う。うぅ……まさかハタチをすぎてから人前でわーわー泣くことになるなんて。恥ずかしいよ恥ずかしいよオゥイェーア。
 ひとしきり、イムルの旅の宿のカウンターの前で泣いてから、私はありのままこの身に起きたことを彼らに話した。すると、あまり喋るのが得意ではないライアンさんに代わり、ライアンさんが私を湖から助け出したときのことを教えてくれた。
 最近、イムルを含めこのあたりを統治しているバトランドは奇妙な事件でもちきりなんだそうで、それもタチの悪いことに、「子どもが神隠しにあうように、ふっと目の前から消えていなくなってしまう」というものだった。
ライアンさんとホイミンくんは手にした情報を元に、イムルの村の西にある塔が怪しいと目論んでいたけれど、塔は湖に囲まれて人の足では近寄れない。イカダを運ぼうにも、距離があり魔物も出るから難しいということだった。
 魔物だとか、ホイミスライムだとか、神隠しだとか、そういった件についてはもう割合してしまう。目の前で見せ付けられている「青いのに黄色いぱやぱや」の生物とか、その生物が唱えた不思議な魔法とかは、もう喋るよりも頭で整理するよりもさっさと見たほうが早いもん。
 それで、ライアンさんたちは「とりあえず、塔の近辺に行って様子を探ってこよう」と湖畔を散策することに決めた。私を見つけた経緯だった。
「私が湖で仰向けに浮かんでいたメイ殿を岸に上げた瞬間、メイ殿の衣服や荷物を濡らしていた水が蒸発した。何事もなかったかのように、メイ殿はさらさらと渇いた髪を風になびかせて眠っていたのです」
「あれ、魔法の匂いだったよね。ぼく、わかるもの」
 ぬるくなりつつあったホットミルクのカップを握り締める。カップの熱とは裏腹に指先が冷たくなった。魔法の匂いがする得体の知れない存在になってしまった自分を、せめて私だけは認めなきゃ。

「魔法ってね、魔力を発するだけじゃダメなんだ。魔力を受け取る力と、発する力。両方を持って理解して、初めて使えるんだよ」
 ホイミ、と口にしてライアンさんのケガを治して見せたホイミンは、湖から引っ張り上げられた私が放つ魔法の匂いの説明をしてくれた。魔法、ねぇ……。なんかもう、信じられない。つい昨日までは、マーシャルのアンプを力ずくで運んで、ギターのチューニングしてギュインギュイン弾いてた人間が、ね? 今は青くて黄色のぱやぱやに、人間が夢見続けてきた幻想の力について講義を受けているのですよ。
「私のような武術を得意とする者は、たいてい魔力を発する力に長けていないからその道を選んでいる。メイ殿は、ホイミンが言う限りでは、魔法の才が多少なりともおありなようだ。異界から来たにも関わらず。目が覚めてここにいたのには、何か特別な理由があるように思いますぞ」
 んー……、ああ、なるほど。インターネット回線でメールやネットするときは、受信と送信の両方が出来て初めて役に立つもんね。送信ばっかりしてたら相手のメールの内容なんてわかんないし、受信ばっかりしてたら自分の言いたいことが言えないからか。
 魔法も、要は同じってことかなぁ。
「魔力を受け取ることが出来ないと魔法の本質そのものを得ることができないから、受け取る力もなきゃいけないと?」
「そうそう!例えば今ぼく、魔法を唱えたよね?魔力を受け取る力がある人は、誰かが魔法を使っていたり、何かから出てる魔力を感じて『魔法や魔力ってこういうものなんだ』って、感じられるの。それで、魔法や魔力を理解できたら、今度はそれを自分から出すんだ。それが『魔力を発する』ってことなんだよ」
 ……えーと。うん。あれか、大切なのは習うより慣れろってことですね。
「メイさん、魔法は使えないの?使ったこと、ない?なんだか素質ありそう〜」
 眉間を寄せてやっぱりむーむー唸っていた私の顔をホイミンくんが下から覗き込む。
「いや……私のいた世界は、魔法なんてなかったから。素質なんてないよ。何の変哲もないただのギタリストだもん」
「おお、それなら魔法の素質があるというホイミンの言葉にも、納得がいきますな」
 今までやけに静かにしていたライアンさんがずい、と身を乗り出した。
「音楽と踊り、詩文と言葉は魔法を介するものたち。内に秘めた力を外に出すための、最大の方法だと言いますぞ。メイ殿はおそらく、音楽を奏でることによって、この世界の魔法に似た力を使うことが出来たのでしょうな」
「それはありませんよ」
 自分で思っていたよりもずっと、即答で否定が出てきてしまって驚いた。
 ステージの上で、音や言葉に乗せて色んな人を力で引き寄せていたのは、私ではなくて―――「彼」だ。
「そんなことないよ!だったら、ぼくが教えてあげるから、魔法つかってみて!ね!?」
 必死なホイミンくんに苦笑しながら付き合ったら、あっという間に「ホイミ」を習得してしまった。自分のギターの音色を、良い方向に自認しているような気がした。
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