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◆fzAHzgUpjUの物語
[DQ4]

イムル
 目蓋を開けると視界は白い太陽光に照らされて明るかった。なんだか手足が左右上下ばらばらに引っ張られているような疲れがある。
それでも頑張って体を起こして周囲を見渡した。胸までかかっていた薄い布団をとっさに握り締める。
 ここは私の部屋じゃない。
 木の板を隙間なく打ち付けた壁に、シンプルな額縁に入った風景画が飾られている。
曇りのないガラスがはめ込まれた窓枠はかなり質素な作りになっていて、必要最低限の技術で固めた建築物、
その一室に置かれたベッドに寝かされていたようだった。
 背の低いタンスがベッドの横に置いてあった。手作りらしいリリアンの上に、サングラスがある。
もう少しよく部屋を見回すと、タンスの引き出しは少し開いていて、黒光りする何かがある。
中を覗くと、さっきまで着ていた革ジャンが無理やり畳まれて入っていた。
 ドアが開く音に飛び上がる。あわててサングラスをかけてドアを凝視していると、中年の男性が部屋に入ってきた。
誰だろう? 見たこともない。鮮やかな黄緑色の帽子にそろいの上下をあわせ、白いエプロンをつけている。
エプロンはところどころ、食べ物の染みなんかで汚れていた。食事の支度でもしていたんだろうか。
 「おや!お目覚めになりましたか?で、どうです?体のぐあいは」
 男性の服は、映画や漫画でちらりとしか見たことのない装飾が施されていた。
装飾とは言っても、やっぱりそれはほんの小さなアクセントにしかならない程度のもので、私が見知ったデザインとは違う。
 「平気、です。あの、ここは」
「ここはイムル。イムルの旅の宿ですよ。あなた、この村から西にある湖に浮かんで漂っていたんですよ?
よく溺れずにいましたねぇ、あんなに重たい服を着て」
 たぶん、彼は私の革ジャンのことを言ってるんだと思う。湖に浮かんでいた、って……なんで沈まなかったんだろう。
疑問だけれど考えたって仕方がない。男性はこの「旅の宿」のご主人らしい。あなたが私を助けてくれたのかと尋ねると、自分ではないという。隣の部屋に止まった「ライアン」という王宮戦士が、湖に浮かんでいた私を引っ張り上げて、ここにつれてきてくれたのだそうだ。

 湖の中にいたのにどうして沈まなかったんだろう、ということよりも、もっとわからないことがある。
イムルなんていう地名、聞いたことがない。西方に湖がある村なんて日本中探したってそうたくさんはない。
それに、周囲を形作るこれらのものたち。ここは日本じゃない。それだけしかわからない。
 宿のご主人がいなくなってから(何かあったらいつでも下の受付に来てくれと言ってくれた)、持ち物を確認した。
水たまりで溺れたときに私が持っていたのは、シザーケースに入れたお財布と携帯電話、市販の鎮痛剤にサングラスのケース、ジーンズの後ろポケットに入れてたラークマイルドとライター。
 それから、命と家族の次に大切なジェームス・バートン・テレキャスター。
 湖に浮かんでいた、ってことは……携帯電話とテレキャスターはまさか……両方とも……?!
 でも、丁寧に革ジャンと一緒にしまってあったシザーケースの中は渇いていて、
革製のお財布もサングラスのケースもちっとも傷んでいなかった。ベッドの上でシザーケースをひっくり返す。
 出てきたのは、お財布・サングラスのケース、のみ。鎮痛剤と携帯電話がない。部屋中よく探してみても、テレキャスターは見つからない。
 お財布を開けて見てさらにびっくりしたのは、ひとつめに硬貨の形や紙幣の絵柄がまったく違うこと。
「100G」と印刷された紙幣が6枚と、「10G」の文字と装飾の硬貨が5枚、それから、「1G」の硬貨8枚。
お財布に入れてたのはだいたい6500「円」ちょっとだったはずなのに。
ふたつめに、クレジットカードや会員証なんかのバーコードや磁気読み取りつきのカードがなかったこと。
人の手でチェックされたり、スタンプを押すようなのは無事だった。

 私服に着替えてから一階に降りて(柔らかい布の服にいつのまにか着替えさせられてた。誰がやってくれたかはあえて考えない)、さっきのご主人にテレキャスターやカード類の特徴を説明してそこらで見なかったか聞いてみるも、そんなものはなかったと返された。
ジーンズのポケットに手を入れると、タバコの箱は入っていたのにライターだけが見つからない。
スタンプカードやタバコはちゃんとあるのに、どうして他のものは出てこないんだろう?
 むーむー唸りながら考えていると、二階から背の高い男性が降りてきた。
 鉄製の鎧兜に身を包み鋭い槍を手にしたその人は、青くて丸いものに黄色いぱやぱやがたくさんついた奇妙な生き物と一緒だった。
 「おお、お嬢さん、この方があなたを助けたライアンさんですよ」
 口ひげをたくわえた「ライアン」さんが、私のほうを見た。まんまるい目をくりくりさせた青いのも一緒になってこっちを見ている。
お礼をしようと向き直ると、彼は私に対して一礼し、強い意志を秘めた眼差しを鉄兜を脱いで見せた。
 得体の知れない、それでもとても強くてまっすぐな「何か」に胸を貫かれた気がした。
 「ご無事なようで何よりです。私はバトランド王宮戦士のライアンと申します」
 無駄な線ひとつ描かない会釈に気をとらわれていたが、私もすぐにお礼と自己紹介を口にした。
「助けていただいて、ありがとうございました。私は『メイ』です」
「『メイ』殿、ですな」
 彼が「王宮戦士」であることは聞いたけど、さっきこの胸を貫いたように感じたのは、ライアンさんが持つ地位や、相手をねじ伏せるための強さとかそんな安っぽいものじゃない。
私が今まで覚えた言葉や現象を使っても、けっして説明のつかないような雰囲気を、彼は持っていた。


Lv.1 メイ
HP:14 MP:0
E −
E −
E 革の服(革ジャン)
E −
E サングラス

戦闘呪文:−
所持金:658G
※テレキャスター=アメリカのギター会社フェンダーのエレクトリック・ギター
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