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◆fzAHzgUpjUの物語
[DQ4]
■IV 第一章

プロローグ
 雨がひどい。少しでもアスファルトがへこんでいるところは水たまりになっていて、革のブーツがびじょびじょになる。
ジーンズの膝が色濃くなって、夜道を照らす青い街灯の光りを黒く吸い込んでいた。私は走っている。
夜なのにサングラスもとらずに、ただひたすら自宅アパートに向かった。
 組んでいるバンドのボーカルが死んだ。交通事故だった。新聞やニュースを見れば、毎日必ず一度は目にする人の死亡要因だ。
自分やその周りには降りかかる悲劇ではないと、誰もがたかをくくって生きている。
明日になれば、新聞の地域欄に彼が死んだという簡素な記事が載る。
葬儀を終えて、練習スタジオキャンセルがどうしてもできないからと密室でギターを引き続けた私も、ドラムやベースといった私以外のメンバーも、無表情に意気消沈して時間通りに解散した。
 深い水たまりに左足がはまった。高く上がった雨水が細い柱のように伸びてきた。「え?」と思った瞬間、水は渦を巻き私の腰を絡め取ってずるんと足のつかない感覚へ引きずり込んだ。
 反時計回りの激流の中、何が起こったのかもわからず回らない頭でドブにでも落ちたのかと考える。それにしては深すぎた。
脳味噌がかき回されているように意識が体から振りほどかれて、ぱちんと暗転した。
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