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総長◆Lh6WfP8CZUの物語

親子[2]
ー次の日ー

明け方。
悪夢にうなされ目が覚めた。
糞でかいケーキの魔物にうふふうふふと言われながら喰われる世にも恐ろしい夢だ。
……昨日は本当に辛かった。
今後一年は甘いものを断てる。そう思わせるほど辛かった。

大体何が悔しいってちょっとお茶でも…のお茶でダウンしてしまった俺達は結局その後のメインディナー所ではなかった。ねーちゃん曰くめちゃめちゃうまい肉だったらしい。

肉を食い逃がすとは俺とした事が…。あのおばさんは本当にありえない。
あのありえなさ具合が逆に勇者の母だって事を実感させる。
あの母にしてこの娘アリ…か。ここまでくると勇者の父親はどんな奴だったのだろうか。
興味は尽きない。

その後朝食のテーブルに一同並ぶ。珍しく寝坊したらしい勇者が目を擦りながら席に着いた。
そうか昨日はお母さんと寝るってちょっと照れながら言ってたもんな。
久しぶりに甘えながら熟睡できたのだろう。時々忘れそうになるがコイツは16歳の小娘なのだ。

朝食後勇者が駆け寄ってくる。あのね総長ちゃん出発の事だけど…ああその事か。別に急ぐ理由も無いし、もう2、3日ゆっくりしていってもかまわんだろう。
勇者に向かってそう伝えようとした瞬間、
今日のお昼前にでも王様の所に挨拶して出発した方がいいと思うんだ!
と予想外の言葉が飛び出した。

………。おうわかったそうするか!みんなにそう伝えてきてくれ。

勇者には勇者なりの考えがあるのだろう。もしかして長居すればするほど出発が辛いのかもしれない。
この子は必死に自我を殺して世界のため平和のためと戦ってきた。その必死に堰き止めてきた心がこの世界で一番心の許せる母親と一緒にいる事でプッツリきれてもおかしくない。
おそらく本人もそれを感じていたのだろう。

こうして急ではあるが俺達は直ぐに出発する事にした。
勇者母に呼び止められる。このおばさんは苦手だ。うふふうふふでまた土産だとケーキ渡されたらどうしようか。
恐いもの無しのはずのこの俺様の背中を冷や汗が流れる。

総長さん。
な…なんスか…
あの子は戦いになんか向かない優しい子なんです。
………。
でも戦わなければなりません。「勇者の娘」なんです。
…………。
安心しました!
………?
血生臭い旅を続け心が枯れてしまっていたらどうしようかと心配していましたが、あの子は昔と変わらない笑顔で笑っています。それもこれも総長さんやみなさんのおかげです。
これからも…よろしくお願いします!

……。何を言っているんだこのオバサンは。俺は何もしてねーしあのバカがいつも勝手にピーピー笑ってるだけだ。
不思議そうな顔をしている俺を見てオバサンはまたうふふと笑った。


さて。そろそろ本当に出発するか。
じゃーねーおかーさん行ってくるねー!カゼとかに気をつけてねー!
勇者は笑顔で手を振っていた。
……。とっとと魔王の糞馬鹿ぶっ飛ばしてーな。さっ王様の所にでも行ってやるか!



城に着く。

暫くみない間に逞しくなったな勇者の娘よ…。それにその仲間達も。
やはりおぬしは勇者と旅をする選ばれし者だったようだな。

…くそが…どいつもこいつも!なんだその言い草は!逆だ逆!俺がボスで勇者が子分なんだっつの!
がああああああとまくしたてようとしたが次の一言で口が止まった。

魔導師様の事だが…

言葉に詰まる。

いや、何も言わなくてもよい。夢に賢者様出てこられてな。全ての経緯は知っておる。
おぬしらがなぜここに来たのかもな。今のおぬしらにはこれを受け取る資格がある。

そう言って兵士に物々しい宝箱を運ばせた。当然中身はあのオーブだ。

さあ受け取るがよい。戦う力を持たぬ非力な者の代表として頼む事しかできず本当に申し訳ないが魔王を倒して世界に平和をより戻してくれ。
魔導師様の事だがな、人には天命と言うものがある。魔導師様が蒔いた種が、今こうして活力ある若木に育ちいずれ大樹となるであろう。
おぬしらの顔を見ていると魔導師様の満足気な笑顔が見えてくるわい。

は、当然だな。俺は元々の天才的素質にプラスして超絶性格の歪んだあのじいさんと超弩S野郎の糞イケメンにゴリゴリにしごかれてんだ。ここまで強くなってじいさんが満足しないはずがない。
あとは魔王の顔面に右ストレートをブチこんでやるだけだ。

打倒魔王のモチベーションがいきり立った俺たちは城を後にした。
オーブも揃った事だし次はいよいよラーミアの復活だ。

出発を前にねーちゃんが酒を大量に買い込めと支持を出した。
え?いいの!?いつも必要最低限しか認めないねーちゃんが酒を大量に買えだと!?
パンツと俺は大喜びで酒場に走った。ふふふ買ってやったぜ。樽で10樽ほどな。

それらと食料や水を積み込む。出港の準備をしていると人がワラワラ集まってきた。
よく見ると勇者の母や酒場の女マスター、さらに王様やピエロまでいやがる。なんなんだ一体?

勇者様!どうかご無事で! おおあの子がオルテガ様の娘か!
生まれてくるこの子のためにも平和を! おねーちゃんまおうなんかにまけないでね!

ほうほうこいつら俺らを激励する為に集まったのか。まったくこれだから自分じゃ何もできない愚民は困る。
まあおまえらは家で茶でも啜りながらまってるがよい。この俺が魔王なんざ軽くノしてきてやるからよ。

そう言って俺は空に向かってイオナズンを唱えた。

ねーちゃんがまたやりやがったと冷たい目でこっちを見ている。
愚民共は腰を抜かして大騒ぎだ。はっはっはどうだ俺の力は。さて出発するか!
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