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総長◆Lh6WfP8CZUの物語

親子[1]
勇者宅は倉庫から目と鼻の先にあった。

おかーさーんただいまー

勇者が先頭で家に入る。ねーちゃんが俺とパンツの格好は物騒過ぎるから装備外して入った方がと耳打ちする。
だが時すでに遅し。奥から感じのよい女の人が出できた。

あらあらうちの子と一緒に旅してる方々ね。
まあなんておませさんな格好でしょうふふ。

???????????

さあさあ長旅で疲れてるでしょうしそんなとこで立ってないで奥に入って下さいな。
今腕によりをかけてご馳走を作ってるわようふふ。

あ…どーもッス…失礼します…

おませさん?ん?何を言ってるんだこのおばさんは…ちょっとアブねーぞ…
俺達は圧倒されつつも案内されるがままに奥に連れていかれテーブルを囲んだ。

ご飯ができるまでもうしばらくかかるからお茶でも飲みながらくつろいでいて下さいな!

そう言いながらテーブルにお茶とクッキーを並べる。
俺には紅茶の味の違いなんてさほどわからないがねーちゃんが絶賛していたからいいお茶なのだろう。
クッキーうまい。素朴な手作りの味だ。
腹が減っていた事もあってパンツと奪い合いながら目の前のクッキーを平らげた。

あらあらよっぽどおなかがすいてらしたのねえ。よかったらこれもどうぞ。

そう言ってテーブルの上にドンっと乗ったのは特大のケーキだ。
……でけえ。

小規模なウエディングケーキと言っても過言では無い。
勇者母はテキパキと切り分け俺の目の前にはケーキの塊が出現する。
パクッ。……うめええええええ!!!!!!!!これはうまい!!
何を隠そう俺は実は大の甘党なのだ。前の世界では総長という立場柄甘いものが大好き!などとは言えず、日本男児たるものは黙って醤油一筋などと訳のわからない事を言っていた。
たまらん!うますぎる!俺とパンツとピエロは物凄い勢いで食い出した。
ケーキなど無縁の旅だったからな。クリームの甘さが五臓六腑に染み渡るぜ…
大食漢三人相手にさすがの特大ケーキと言えどもみるみる減っていき最後の一切れになった。

睨み合う三人。
今にも殴り合いが始まりそうな空気だ。総長としてここはいさめなければなるまい。

ジャンケンで決めよう

俺のその一言に場の空気が変わる。

パ:ほう…総長はんどの口がそんな台詞を言えたもんでげすかねえ…
  あんたはあっしにじゃんけんで一度敗れている!!!さあルールを説明してもらおうでげすか!

ピ:じゃんけん…ルールを教えてもらおうか。「火達磨ピエロ」と呼ばれるギャンブラーのわしに
  勝負を挑むなど片腹痛いわ!

パンツ…覚えているとは思わなかったがなんでそんな偉そうに聞くんだ…
ピエロ…火達磨って褒め言葉じゃねーよ…毎回大火傷って事じゃねーか…ギャンブルの才能の欠片もねーよ…
まあいい。この面子なら負ける気がしない。そして俺には「例の秘策」もある…ククク…

一通り説明した。やはりパンツは理解していなかったが無視して先に進める事にする。

ではいくぞッ!じゃーんけーーーーんッ!ポンッ!!!!

……今だ!俺はタイミングをずらし伝家の宝刀後出しで攻める。この勝負貰ったッ!
まさに今決しようとした瞬間勝負は意外な決着を見た。

あらあらうふふ。まだありますからそんなあわてなさんな!

振り返るとそこにはさらにアホでかいケーキを抱えた勇者母がいた。
百戦練磨、数々の修羅場を潜り抜けた俺達ですら戦慄する。
うふふうふふと笑顔で切り分ける勇者母。チラッとねーちゃんの方に目をやる。

もう無理

声には出さないが唇は確かにそう動いた。
ク…いやだがしかしまだこれだけ食べれるんだ。むしろ好ましい状況じゃないか!

当然の如く10分後には至福の時は地獄の時に変わっていた。
あーもうお腹いっぱい!お母さんわたしも晩御飯の準備手伝うね!と勇者はこの場から消えた。
ねーちゃんも手伝うと言って消えた。残された男衆は目の前の強敵を睨む。
昨日の敵は今日の戦友だ。ここは共同戦線しかない。
まわりのクリームはピエロ、おまえにまかせた!パンツはスポンジを片付けてくれ!
おっさんは二人の援護を頼む!俺は上のイチゴを倒す!…………えっ駄目?




その後死闘を繰り広げた後山のようなケーキはその場からきれいに姿を消した。
勝った…まさか勇者の実家でこのような強敵に出くわすとは思わなかった。
下を向くと大惨事になりそうなので天井を見つめながら俺は思った。

………。
あのおばさんアホだろ。
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