[] [] [INDEX] ▼DOWN

総長◆Lh6WfP8CZUの物語

東へ[3]
その日の鬼浜会議は荒れた。過去最高に荒れた。
勇者は引き受けるの一点張りだ。あとのメンバーも勇者に賛同する。そろいもそろってアホ共が。
どうやら勇者はかなり勇者の親父が前に倒したという事を気にしているようだ。
今度は自分がこの国を救うのが使命とでも考えているのだろうか。付き合いきれん。

そんなに行きたいなら勝手にしろ。俺は絶対に行かん。

総長ちゃんのバカ!わからずや!

ついに勇者は泣きながら出て行ってしまった。

総長!あっしは心底見損なったでやんす!

パンツも出て行った。それを機に自然解散となった。


―次の日の朝―

あいつらはヒミコに会いに行ったようだ。置手紙があった。
無性にイライラする。ちっ…こんな時は飲みに行くしかない。俺はフラフラと宿を出た。
外には小雪がチラついている。どうりで寒いと思った。昨日はそんなでもなかったのにな。
ほんとになんだってんだよあいつら…あの甘ちゃん加減にはほとほと愛想を尽かした。
こうなったら全員辞めさしてまた新しくメンバー集めるか。ったく面倒くせーなチクショウが。
しかし初めて来る場所だ。どこで酒が飲めるかさっぱりわからない。その辺のおばさんに聞いてみる。
少し先に酒屋があるらしい。なぜかおばさんの顔が曇る。まあいい。

そこから500メートル程行った先に酒屋はあった。しかし人気がない。朝だから当然か。
中に入る…うおっこれは酷い。中には店の主人とその奥さんと思われる人がいた。
だが凄まじく顔に生気が無い。世の中終わったみたいな顔をしている。客商売だろ大丈夫かここ!?

……すいません…もうこの店は閉めましたんで…よそに行って下さい…

閉めたって店自体を辞めたって事か?おいおいふざけんな俺は酒を飲みにきたんだ。出せ。

そうですか…なら残ってるお酒全部飲んじゃって下さい…お代は結構ですので…

マジか!?まあせっかくの機会なんで有難く頂く事にしよう。


そしてアホかって程酒が運ばれてきた。マジで店の在庫全部持ってきやがった。
一口飲んでみる……………これは!?それは俺の世界で言うところの焼酎のような味だった。
酒ってのはその時のテンションにより味が大きく左右される。
自棄酒の類ってのは大概どんないい酒を飲んでも不味いもんだ。ましてや今の俺の心境はどん底だ。
なのにこれはうまい。文句なしにうまい。ここまでうまい酒を漬ける事ができるのに何故店を閉める必要があるのだろうか。
ほろ酔いも手伝ってお節介にも聞いてみる。

娘が…選ばれたのです…

????わけがわからん。何に選ばれたって????
主人が奥から無言で一通の手紙を持ってきた。内容はつまりあんたの娘をやまたのおろちの生贄にするってもんだった。差出人はジパング…つまり国から直接の指名だ。

うっ……うッ…仕方がないんです…仕方がないんですよ…やっとできた娘なんですが…
国の為に命を差し出せるなら本望です…

俺は無言で手紙を破り捨てた。燃やした。そして主人を殴りつけた。ふっとぶ主人。

な…何をなさるのですか!?

何をなさるのですかじゃねー!!!!!俺はもう一発殴った。てめーはアホか!
そんな大事な娘をなぜ簡単に差し出す!?そんな大事なもんだったらタマ張って守ってみろや!
主人が力なくうな垂れた。

無理です…あの怪物には誰も逆らえないんですよ…人の力ではどうしようもありません…
私は所詮酒を作るしか能の無い人間です…

く…俺はこいつみたいに卑屈な人間が一番嫌いだ。もう一発どついてやろうと近づくと

やめて!お父さんをいじめないで!

小さい女の子が止めに入った。娘だろう。必死に父親にしがみついてこっちを睨む。
その必死な顔を見た瞬間俺の心のモヤモヤはキレイに吹き飛んだ。

うおおおおぉぉぉぉぉおおおおぉぉぉおおお!!!!!!!!!!!!!

もうゴチャゴチャ考えるのは止めよう。俺らしくねえ。俺はやまたのおろちがムカついた。
だからぶっ飛ばす。それでいいじゃないか。誰の為でもない。俺自身の怒りの鉄拳だ。

いいかてめー店閉めやがったらマジでボコボコにするからな!
こんなうまい酒を振舞う店が無くなっていいわけないだろうがアホが!
やまたのおろちは俺を怒らしてしまったため跡形も無く消し飛ばしてやる!
祝勝会はここでするからてめーは準備してまってろ!

主人と奥さんと娘は最初キョトンとしていたがやがてバタバタと駆けずり回ると一本のビンを持ってきた。

これを使って下さい!これは特別な酵素をつかって我が家に伝わる秘伝の方法でつけた神酒です!
オルテガ様もこれを使いやまたのおろちの動きを止めました!もう残りはこれしかありませんが…どうせ蔵にあっても眠っているだけです。
見ず知らずの旅の方に渡すのも変かもしれませんが、あなたに使って欲しいのです!

俺はビンを受け取ると走った。とにかく走った。粉雪舞い散る中無我夢中で走った。
国一つをここまでかき回す化け物だ。きっと恐ろしく強いのだろう。
頭の中にはあいつらの顔がよぎる。もしかしてもう戦ってるのだろうか。
俺がいなくて大丈夫だろうか。あいつら俺に比べるとあんま強くねーからな…
まさか今頃もうやられてたりは…クソッ!そうなったら総長一生の失態だ。
何故あんなつまらん意地を張ってたんだろうか。自分で自分がムカついて仕方がない。
今はただとにかく速く走るのみ!



そして俺は北にある洞窟へついた。おそらくここだろう。周囲の空気が明らかにおかしい。
中から邪気が溢れ出ているように感じる。勇者は!?パンツは!?ねーちゃんは!?
この静けさからおそらくまだ到着してないに違いない。どうやら間に合ったようだ。
もうすぐ来るろう。暫く待つか。







だが俺の予想は外れた。勇者達が来たのは…二日後だった。
[] [] [INDEX] ▲TOP

©2008-AQUA SYSTEM-