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総長◆Lh6WfP8CZUの物語

恐怖の船出[3]
潮風がすげー気持ちいい。天気もいい。船旅も悪くないぜ。これで船長がパンツじゃなけりゃ…。
勇者とパンツは持ち込んだおやつがどうだとか言い合っている。そんなもん持ってきたのかよ。
おそらくこいつらは遠足程度にしか考えてないだろう。しかし勇者は変わったな。
出会った頃の勇者は世界の運命を一身の背負ってますみたいな悲壮感漂うガキだった。
だが今はほんとよく笑う。
ジャリん時から親父に戦闘の英才教育をされ
魔王が復活するなり訳もわからず旅に出され勇者として期待される。
もしかしたら今が一番楽しいのかもしれない。そんな事を考えてるとねーちゃんが話しかけてきた。

父にひと段落ついたらこれを渡すように頼まれたんだけどと手紙を渡された。

………。

内容はおまえは賢者としてはまだまだ呪文のバリエーションも少ないし未熟だから、このねーちゃんに色々教えてもらえって事だった。はっ今更何を。俺が学ぶ事なんてもうねーよ。

キシャーッ!!!

突然海面から硬そうな凶悪な面した魚が群れで飛び出してきた!不意をつかれる俺!

バギッ!!!!

ねーちゃんの手からカマイタチのような線状の空気が飛び出した。悪魚達がひるむ。
この女俺が身構えてる間にもう反撃に移っていた。行動が早い。すげえ。

いい?これが風を操る一番基本の呪文。そして練度が上がるとこういう事もできるようになるわよ!

ねーちゃんは精神統一させ一呼吸置くと叫んだ。

バギッ!!!クロスッ!!!!

轟音と共に巨大な真空の刃が竜巻となり相手を切り刻む!
一瞬で悪魚達はバラバラになった。いやいやほんとすげえ。

さすがイケの娘だけある。強い。何よりも凄いのはその反応速度。
まるで相手が襲ってくるのを知ってたかのような行動だった。
ねーちゃんの説明によると俺達は視力に頼るから感覚が鈍ってるらしい。
心眼というのは超能力でもなんでもなく、極限まで研ぎ澄まされた感覚の事のようだ。

そのくらい感覚が冴えると相手の殺気が読める。
そうなると敵が近づいてくるのも簡単に察知できるとの事だ。わかったようなわからんような…

さっ早速始めるわよ。まずは空気の流れをイメージする事からね。しばらくは私が総長さんの師匠よ。

………へ?

その後ねーちゃんはイケメン並のスパルタ女だった事が発覚した。
俺の安息の日はまだ、来ない。




早くも海に出てから早くも一週間が経った。
そこで重大な問題に直面する。食料が尽きそうだ。
水は海水を蒸発さして造れるため何とかなるのだが食料はそうはいかない。
みんな腹が減ってイライラしてきた。
引き返すべきか。このまま進むべきか。決断を迫られる。

ん?今船が不自然に揺れたような…

パンツ子分Aがランシールまでは確実に飢え死にするので航路を変えて
近くの町で補給しましょうと言う。それもそうだな。船旅も中々難しいもんだ。
特にうちには超絶大飯食のパンツがいるから一般的な貯蔵では追いつかない。

……。

いややっぱこの船変に揺れてねーか?腹減って感覚おかしくなってきたんだろうか。
このままでは非常に危険だ。とにかく世界地図を見ながら現在地と近い町を探して…と

…またまた船が大きく揺れる。

あーもう何事だうぜえええ!!!

と、船の下に巨大な影が見えたと思うやいなやバカでっかいイカの化物が現れた。
こいつが下から船を揺さぶってたようだ。

普段なら間違いなく秒殺してるとこだ。
しかし今回はみんなの眼つきが違う。おそらく考えてる事は一緒だろう。

こいつは…………食える!!!

俺達の異常な殺気にビビッたのかイカは引き腰になっている。やべえこのままじゃ逃げられる…

逃がすかあああああああああ!!!!

一斉に飛び掛る俺達。ここ最近で一番本気の戦闘だ。パンツなんてすでに足に噛み付いている。
イカもでかい図体してるだけあってなかなか強かった。しかし飯の懸かってる俺達の敵ではなかった。
沈んでいくイカから太い足を数本頂戴した。さてどうしたものか。いざ目の前にするとさすがに躊躇する。
食って腹壊したりしないだろな。食中毒死とかマジ勘弁して欲しい。
ねーちゃんが私にまかせてと言うと足を一本持って厨房に入って行った。
パンツは生でイカにかぶりついている。まあコイツは何食っても平気そうだから放っておこう。

暫くしてねーちゃんが大きな皿を持って戻ってきた。
これは…皿の上にはうまそうなイカの炒め物?が乗っている。
有り合わせの調味料を使ってイカのソテーを作ったのよとの事。

味は…………うまい!これはうまい!

イケメンも料理うまかったがねーちゃんもかなりの腕だ。本当にこいつがいてよかった…

そしてさらに一週間後。

俺達はランシールに到着した。とりあえずゼッツーの処女航海は無事に終える事ができた。
二週間程の航海だったが俺達は色んな意味で逞しくなったと思う。
魔物を食うなんて一昔前じゃ考えられなかった。
魔物よりも魔王よりも一番しぶとい生き物は人間なのかも知れない。何はともあれ久しぶりの大地だ。

碇を降ろし船を固定すると早速町へ向かった。
毎度の事ながら住人の視線が痛い。場所が場所だけに滅多に旅人も来ないのだろう。
それに加えてこの面子だ。好奇の目に晒されるのは仕方が無い。

オーブがある「ちきゅうのへそ」の入り口は町の中心にあった。
今日は一晩宿屋で疲れをとってから明日攻める事にしよう。俺達は宿屋へ向かった。

その夜無事航海終えた記念の宴会が開かれる。久しぶりの酒だ。
船にもある程度積んでたんだが初日で飲み干したからな…。
ここの地酒はウイスキー。うまい。が、キツい。調子のってるとすぐ潰れそうだ。
言ってる先からパンツの子分三人組がねーちゃんと飲み比べを始めた。
アホだな。こいつらはまだこの女の殺人的な酒の強さを理解してない。
案の定一人、また一人と倒れて行く。ねーちゃんは涼しい顔してる。

勇者もかなり飲んだらしく相当ヘラヘラしてる。ピーピーうるせえ。
途中料理を運んできたおばちゃんに何の目的で旅してるの?と聞かれて

あのねー私達海賊なの!この町のお宝奪いに来たの!

と言った時のおばちゃんのひきつった顔は笑えた。まあ間違えてはいない。
その日の宴も明け方まで続いた。
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