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総長◆Lh6WfP8CZUの物語

総長[3]
―夜―

ジジイが寝たのを確認して畑に向かう。この糞野郎危ないからと言って教会から出そうとしなかったからだ。

畑は村のはずれにあった。もはや畑と言うよりただの荒地だ。
そこにはいるわいるわこないだの寒天やもぐら、アホでかいミミズは角ウサギなどわんさか畑を荒らし回っている。
なんかあれだな。この光景は公園とかコンビニの駐車場でバカ騒ぎしてた昔の自分とちょっとかぶって見える。
そう思うと微笑ましくもある。いやいやそうじゃなかった俺はこいつらをブチのめしに来たんだった。

相手の数が多い時は先手必勝!奇襲をかけて撹乱しその隙に一気に数を減らす。
族時代は1対100でも勝った俺にとってはこのくらいの人数差なんて屁でもねえ。いくぜ!!!

畑の中心まで突っ込んでくと先制パンチとばかりに寒天を数匹潰した。開き直ってもぐらに蹴りを入れる。
薄ら笑いのコウモリを盾で叩き落したのち踏みつける。順調だ。このペースでいけば楽しょ…おおおッ!!!

角うさぎが猛突進をかけてきた。咄嗟に盾を構えるがその上から体当たりされ吹き飛ばされ岩にぶつかる。
こいつ体は小さいがなかなかのパワー持ってやがる。原付並みの馬力だ。
立ち上がり構える俺に向かって再度突撃してくるウサギ野郎。ギリギリの所を横っ飛びでかわした。

ゴベブッ!!という嫌な衝突音と共に角ウサギは岩に衝突して動かなくなった。

所詮獣か。相手がバカで助かったぜ。
残りの雑魚を蹴散らしてゆく。ははは俺に敵うやつなどいねえ!ああ神様強過ぎてごめんなさい…

ノリのノって大暴れする俺は背後に近づく脅威に気付いていなかった。

???「人間風情が随分とオイタしてくれんのぅ小僧が…」

ドスのきいた声に振り返る。そこにはえらくガタイのいい猪が凄まじい殺気を放ってこっちを睨んでいる。
猪のくせに喋りやがって…なんて迫力だ…

???「魔物に立てついてタダで帰れると思うなよ…グハハハ…」

ヤクザだ。こいつは昔愛人のちょっかい出して追い掛け回されたヤクザにそっくりだ。
ふんヤクザごときに俺が殺れるか!返り討ちにしてやる!

…返り討ち

…返り…う…ち…

太い。
腕が太い。
首が太い。

おまけにヤリなんて構えてやがる。これは相当なバケモノだ。だがしかし引くわけにはいかない。
喧嘩上等タイマン負け無しの俺だ。一度終わった命もう恐れる事など何もねえ!

とにかく自分より強い相手に萎縮したらそこで終わりだ。俺の親父の教えだ。
先手必勝!いくぞコラァ!!!!!特攻あるのみ!!!!!
俺は勢いよくヤクザ猪に向かって走り出すと固く握り締めたひのきバットを振りかぶり…

投げた。

相手の視線は宙を舞うひのきバットに釘付けになる。

ブシューっ!!!

その一瞬の隙をついて隠し持っていたナイフを喉に突き立てた。
このナイフは元の世界から常に携帯している護身用のナイフだ。ナイフの一本くらい常に持っているのが暴走族としての嗜みってもんだろう。

動脈をスッパリやられたヤクザ猪はその場に崩れ落ちた。

勝った。俺は勝った。
意外な強敵の出現で思わぬ苦戦をしたが何とか勝つ事ができた。
緊張が安堵に変わる。全身の力が抜けた。というか力が入らかった。
この程度で腰を抜かすとは俺もまだまだだなっふっ…

体が熱い。返り血に染まった自分の体を眺める…

……え……

一瞬目を疑った。そこにはヤリが深々と突き刺さっている。思わず声をあげる。
が、出ない。代わりに口からはおびただしい量の血が噴出す。
そうか俺はまた死ぬのか。今度目が覚めたらそこにはどんな世界が広がってるのだろうか。
こんな俺の姿を見てジジイはどう思うだろうか。

今まで生死の淵を彷徨った事は二度ある。いやここに来た経緯を入れると三度か。
一度はガキの時に肺炎をこじらせて死に掛けた。あの時は両親そろって心配してくれてたっけ。
二度目は単車で事故った時。すでにその時親父しかいなかったが俺の意識が戻るまで三日間絶食してたらしい。

激しくどうでもいい話だ。なんで俺はこんな事考えてるのだろうか。不思議と安らかな気持ちだ。
段々と意識が遠のいていく。いよいよここまでだな…さよなら俺…
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