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総長◆Lh6WfP8CZUの物語

総長[2]
―次の日―

朝。目が覚めた。一瞬戸惑ったが昨日の出来事を振り返る。
そもそも俺はなんでこんなおそらく日本では無い謎の場所に来てしまったのだろうか。
頭痛も収まった事だし冷静に振り返ってみよう。

記憶を辿る。たしか俺はいつも通り家で朝から酒を飲んでいた。
そして誰かに呼ばれたような気がしてベランダに出た。
ここまではなんとか思い出した。そしてその後に…

……あ……俺、落ちたんだった………

そうだ落ちたんだ。景色が急速に変わってゆく映像が脳裏に再生される。

つまり。

俺は死んだんだ。そしてここは死後の世界って奴だ。
なんともまあ斬新な展開だ。俺のくだらない人生は終わってしまった。
どうせ朝から酒飲んでるような元ヤンのヒッキーなんて死んでも誰も何とも思わないだろう。
そもそも俺自身自分が死んだという事について何の感情も沸かない。

いやちょっと待てよ…ここは死後の世界だとするとだな
もうあの借金取りに嫌がらせされる事もないんだな?昔もめたヤクザや警察に追い掛け回される事もないんだな?
おいおい最高じゃねーか!ヒャッホゥ!!天国だ!例えそうじゃないとしてもあの地獄の日々に比べたら天国だ!!!

言い得て妙だが死んで生きる気力が沸いてきた。

と、ここでジジイが入って来た。あ?よく休めたかだと?
ふざけんなこんな硬いベッドで休めるかボケ!もっといい部屋に泊めろボケ!と思ったのだが、よく考えたら俺の部屋の万年床と対してかわんねえし何よりも非常に気分がよかったので、まあなっと伝えておいた。飯を用意したから来いとの事だ。
まったくどこまでお人よしなんだこのジジイは。

テーブルの上に並ぶのは恐ろしく貧相な朝飯だった。
小さな屑野菜のスープにカチカチのパン。まあ食えるだけマシか。昨日から何も食ってねえしな。
一瞬で平らげた。その様子を見ていたジジイが足りないなら私の分も食えと言ってきた。
遠慮する事は無い、わしは味見しながら作ったのでもう腹一杯じゃとか言ってやがる。
本当か知らねーが老い先短いこんなジジイよりも俺が食った方が有意義だな。頂くか。

食い終わったあとジジイが自分語りを始めた。うん、まったく興味無い。
が、この世界の事が何もわからない以上ちょっと話は聞いとくべきかもしれない。
ここは教会で村の人のお布施や畑で農作物を作って生活しているようだ。
昔はそれで十分事足りたのだが最近になって夜な夜な村の畑に魔物が出て一切作業が出来ず生活が苦しいとの事だ。

魔物…ああ昨日の寒天やもぐらの事か。
何だか物凄く暴れたい。生前のうっとおしい事全部から脱出できたこの清清しさ。
大暴れしたい。急にそんな気分に駆られた。

俺「よし!その畑に案内しろ。俺が全部潰してやる。」

ジジイが危ないからやめろって言ってきた。
こいつ俺を誰だと思ってやがる。天下無双の暴走族、鬼浜爆走愚連隊の元総長だぞ?
あんな寒天やもぐらなんぞに負ける訳がねえ。

俺はジジイに畑の場所を無理矢理聞き出すと準備のために教会を後にした。

喧嘩には準備が大事だ。いかに喧嘩負け無しの俺様とも言えどこの世界では初めてなので準備は大事だ。

何か武器が必要だなと村をうろついていると「武器屋」なる看板を発見した。
なんとまあ直球ストレートな店だ。……この世界では村中で武器を売っているのか。
この世界のアウトローっぷりに愕然とした。子供の教育によくないぞったくよ…

店の中に足を進めるとそこの店長がまた角突き覆面にパンツ一枚そいてマッチョと言うとんでもない奴だった。
俺は…もしかしてとんでもない世界に来てしまったのではないだろうか…

とりあえずメリケンサックと木刀は無いかと聞いてみる。

ねえよそんなもん。と切り返された。く…なんて態度だ客に向かって…
仕方がないので店を物色した結果この「ひのきのぼう」を買って釘バットを自作しようと思う。
ん?買って?……俺金持ってねーじゃん!仕方が無い…こいつぶちのめしてパクるか。しかしこの店長も中々の風貌。
決戦に備えて出来るだけ体力は温存したい。

何となくポケットに手を突っ込むと硬貨が手に当たる。ああそういや確か…
昨日酔っ払いからブン取ったお金らしきものをカウンターの上に並べた。

これで十分足りるらしい。むしろまだまだ買えるとの事なので
「かわのぼうし」「うろこのたて」を買った。完璧だ。負ける気がしねえ。

それもこれも全部あの酔っ払いのおかげだな。感謝せざるを得ない。また会った際には協力願おうと思う。


太陽も高くなり腹も減ったので一旦教会に戻る事にしよう。っとその前にっと。
武器屋の周りの柵から釘を頂戴して釘バットを作成する。黙々と釘を埋め込む俺。
出来た。釘の間隔、絶妙な重量バランス。最高の一振りだ。さて帰るか。

教会に戻ると数人の人が長いすに座っていた。ジジイは一応神父なので悩み事相談みたいな事もしているようだ。
こんな辛気臭い教会に相談に来るなんてほんとにくだらない連中だな。
どこの世界にも負け組みなんているって事だな。あーやだやだマジで関わりたくねえわ。

そうこうしてるとジジイがこっちに来た。昼飯だと言って小さなバスケットを渡された。
これは…肉!肉だ!うめえ!肉うめえ!村の人が持ってきてくれたものらしい。
体中に肉パワーが染み込んでいく。これならどんな相手でも勝てそうだ。

さて大満足の俺は決戦の夜まで寝る事にした。が、寝れない。外がカンカンカンカンうるせえ。
文句言いに外に出るとジジイが薪割りをしていた。明らかに斧の重量にジジイの腕力が負けている。

くそったれそんなんじゃいつまでたっても終わんねーじゃねーか俺は眠みいんだよ!
無言で斧を取り上げると片っ端から叩き割った。まったく無駄な体力を消費しちまったぜ。
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