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◆I15DZS9nBcの物語
[すりりんぐぶれいぶはーと]

第一話(1)
「山に潜んではや一週間、体臭がヤバイを通り越してもう何も感じなくなりました……でも風呂より温かい料理が食べたいです」
テンションガタ落ち、HP満タン、されどもMP空っぽ、薬草も尽きたわけで食えそうなものを図鑑と見比べ吟味、せめて茹でないと青臭くてかないませんよ。
草特有の灰汁っぽさ、お腹の調子は悪いけれどもひとまずステータス異常とまでは至ってませんよと自分を慰め大きくため息。
「魔法に関連する書物を奪取してこないことには始まらんぞおい、Lv上がったっぽいけど一向に覚える気配ないし」
知識は自分で付けなきゃならないっぽいです、もうちょい上手い具合のシステムを築いて下さい偉い人。
ぶっちゃけ二百年ほど前に魔法使いの反乱が起こって以来魔法はほんの一握りの人間だけが学べる免許制の特殊技能なわけで、必然的に学ぶための書は限られてくる。

ルイーダの店みたいに職業斡旋やってるところでも武道家だとか戦士だとかが余るぐらいたくさん登録されて続いて盗賊、商人と言ったネゴシエーター。
まあダンジョン内での鑑定も受け持つこともあるが圧倒的に交渉事に役に立つ。
そして何より引っ張りだこの僧侶と魔法使い、これの数はイーブン、似たようなもんだし……。
あー忘れてた、遊び人なんて言うふざけた職業もあるが……仲間の下の世話もリーダーの責務というもので、街中で性犯罪なんてものを起こされれば最悪打ち首ですからね!
んで賢者、高慢ちきが多いのと何より絶滅危機種かっつーぐらい個体が少なく保護対象となっているため滅多にお目にかかれないらしい。
いやまあ勇者ほどじゃないんだけど。
「あー何話してたんだっけか? あー魔法だ魔法、脱線しまくってるな」
こんだけだらだら話して何が言いたいかって……魔法習得無理ぽいです、てへ。
「洒落になんねー、無理ぺー、つーか、死ねるぜ」
動物性タンパクなんて当分くってねーなーと夜空に嘆く、カラスは復讐が恐ろしいから手を出さないしキノコマンとか中間すぎて食いたくない。
「誰が考えたんだよあんな万博不思議生命展、植物っぽいくせに肉っぽい感じ、毒持ってるし良いとこねえよ。スライムとか噛り付いたら舌に吹き出物がぶつぶつ出やがるし」
あれには本当に参った、元々ある舌のざらざらの上に数の子みたいな感触の密集体ができて、さらに悪いことに高熱にうなされること二日間。
さらにゲエゲエ吐いてせっかく詰め込んだ草が胃の中から消え去り胃液まで出し尽くす始末。

それだけならまだ良かったが悪いことはかさなるもんで下のほうも壊れた蛇口みたいに噴き出し脱水症状一歩手前。
いやぶっちゃければ重度のになってたんだけどな、干物だ干物。
まあそれでも死なないのが勇者の定め、パラメーター異常が長く続いてたせいもあって筋力と体力が衰えたのもご愛敬。
魔法なし武器なし知恵なし、けれども体は頑丈……だと思いたい、わりと元気じゃないけど今日も生きてます、と。
「つーかなんで魔王襲ってこないんだ?今の段階でフルボッコにしたら立ち向かってくる馬鹿は居ないだろうに……」
勇者を放置することは最悪自らを滅ぼすことに繋がる、ならその災厄の目をサクッと摘むに限る。
というか人類掃討を謳いながらなぜ圧倒的物量を誇る魔王軍を動かさない?
軍産複合体が裏で戦争を継続させている陰謀論、なんてものがあるなら分かりやすいがこれは不可解すぎる。
そんなものがあるなら勇者や魔王なんていう不確定要素があってもらった困るはずだ。

「ルビスってどこの祠に居たんだっけか、あれ?あれって四作目か?ちくしょう、なんでここまで覚えてないんだよ……」
自分の知識の何が正しく何が間違っているのか、それすら分からないのだ。
魔法がぽんぽん使えるファンタジーに自分の常識が屈伏している。
「いいや待て、金になりそうなことを思いついたぞ俺、そうだよ、ファンタジーだ、産業革命も起きてないんだ、チャンスは幾らでも転がってるじゃないか!」
え!?金がない!?借りれば良いじゃないの!!
子供じゃねーか!?無理!?d
「……現実味がないな、蒸気機関の仕組みは分かるがあんなもん作れるかよってんだ」
熱効率が半端なく悪くさらに強度がなくボロっちいのならイケそうだけどな、とぼやく。話が平行線だ……つーか誰と話してるんだよ俺。


(2)に続く
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