[] [] [INDEX] ▼DOWN

◆I15DZS9nBcの物語

プロローブ[2]
「ぷにぷにー」
可愛く言ってみたけど凄いグロい、青い半透明ゼリー、通称スライム、俺の初めての敵、きっと食べられない。
取りあえず用意していた拳大の石を二、三個投げつけてみる。
「!!!!!!!!!」
ピギィィィィとかそんな感じの鳴き声?人語じゃちょいと表しにくいけどキレたみたい、まずい。
成人男性を軽く凌駕するポテンシャルとはいえど基本性能はガキ、レベルは底無しに上がるけどレベル1。
魔法の訓練とかやってたみたいだけど俺そんな記憶ないし使えない、マジ宝の持ち腐れ。
「かわいそうだけど俺の糧になってくれ、いや食わないけどな」
獣道にはわりと武器になりそうなものが転がってるんで助かるなーとか思ったり。
岩でぺちゃり、と。
「!!!!!!!!!」
声にならない断末魔、心にチクチクするけどたくさん殺して経験値をたくさん集めないと俺が死ぬ、さらばスライム、そしてこんにちはスライム。
仲間の最期に駆けつけ大軍来たれ、何かカラスの軍勢もやってくる始末……。
「あー焼き鳥食えそうだ、でもアイツら俺の屍突きに来たんだよな、おい」
撤退!撤退!撤退だ!!

/

ライターがなければメラがあるじゃない、俺使えないけどな!
「薬草不味ぃ、ちくしょうメラを覚えないことには死活問題だぜ」
さすがに生肉を食べる習慣はない、それになんだろう、火を通せば何でも食えそうな気分になれるのは。
「ばっちいの殺せるけどこの世界の何が悲しいって毒、毒、毒、毒物多すぎ、でも食える魔物が居るのはラッキー、なんか二足歩行なのも居るけど誰だ試した美食家は」
ロールでプレイングなゲームではこんな悩み無かったんだけどなーと乾いた笑い。
「しっかし恐ろしいのはゲームと大幅に時間軸がずれてるってことだ、知識は役に立たない、緒王連合の助けは借りれそうにないし……ロマリアにカンダタ一味が居ないのは幸いか」
いや、あれが無ければ王の信頼も買うことはできない、ジリ貧だ。

「どこかで仲間を調達できれば最良なんだが金も無ければ王の後ろ盾も無く、ガキは人を雇う資格はない」
ぶっちゃければ世界に搾取されるとはいえ勇者は王を除けば貴族すら凌ぐ特権階級だ、つーか、神授な時点で王より偉い。
発生率が凶悪に少なく、しかも二代続くとなれば運命を感じずに居られないのが世の定め、裏切られちゃかなわんと今まで贅沢していたわけだこの体は。
殆ど絞っていない体、子供とはいえ勇者とは思えない、実を言えばていのいい厄介払いだったのかもしれない。勇者とはそれほどまでに俗物であるらしい。
「塔に登って鍵を回収しその足で魔法の玉を……でも勝手に入るのは王命により禁じられるか、あの高性能爆薬がなければ大陸からの脱出は難しいぞ」
航路は魔物が溢れ、しかも船数が減っているとなるとチケットの値段が昂騰しているし、子供の一人旅は怪しまれる。
「旅の扉以外に選択肢がない、下手をすれば王軍すら敵に回す覚悟か、最低の勇者じゃねえか」
さすがに海路も分からず風も読めず星なんてさっぱりな状態でイカダを浮かべるのは避けたい。それは別の意味で勇者すぎる。
「時間の調整しかないよなあ、その頃にはほとぼりも冷めてるだろうし動きやすいだろう。 現代と違って人外魔境も多いし姿を隠すには……」

ん、今なんて言った?一人言が多い今日この頃だが、自分でなんかありえないことを言った気がする。
「現代? そうだ現代だ、俺の居た場所だ、色々ありすぎて忘れかけてるじゃねえか、どういうことだよ」
魔王?知ったこっちゃねえ、ルビスさえ本気になりゃあなんとかなんだよこんなことは、畜生、そうだよ、帰るんだよ俺は。
「しかしどうすんだよ、最悪神龍まで駒を進めなきゃならんのか?」
それこそ本当に最悪だ、あそこまで到達するのに後何年かかる?俺に思い浮かぶ手段はもっとバッドなことにそれしかない。
畜生、今日何度も呟いた悪態、その度に言葉が軽々しく思えるが逆に深まるのが最悪。
つーか順応してきたのが嫌過ぎる、そうしてもっと最悪があった。
「そういやドラクエ最後にやったのいつだ? 細々としたイベントなんてもう覚えてないな」
原作から脱線しても分からない、そうだ、この時点ですでにゲームと違う、一昼夜で行けるはずの村すら辿り着かない。
マップの密度からしておかしい、市街地戦を想定した入り組んだ迷路のような街だ、さすが城下。
「まあ、何とかなるだろう、多分。 なってほしいなホント」

 すりりんぐぶれいぶはーと 完
[] [] [INDEX] ▲TOP

©2008-AQUA SYSTEM-