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◆I15DZS9nBcの物語
[すりりんぐぶれいぶはーと]

プロローグ[1]
「……What?」
えげれす人でもない生粋の日本人な俺はその唐突な出来事に何かしらの言霊を漏らしていた。
豪奢な造りの天井、一人で寝るにはあまりにも大きすぎるベッド、簡素ながら品のある家財道具。
ぶっちゃければそんな部屋に居た。
「つまりあれか? 昔はやったどっきりか? カメラどこだカメラカメラカメラ……」

――鍵をかける習慣は欠かさないってのにクソッ、大家のクソババァが手を貸しやがったな。

心の中で悪態をつきながら窓を開ける。何ともいえない風が部屋へと吹きそそぐ。
「何この、何? ヨーロッパ村!? ヨーロッパ村ですかここ!?」
違う、ぜってー違う……意識の裏側で俺じゃない俺がツッコミを入れるも唖然として切り返せない。
目前の王城へと放射状に続く道のり、区画を丸ごと保存したとは思えないほどによーろぴあんな人々が歩いているのだ。
これだけの規模を維持しながら観光客が居ないなんて酔狂な話があってたまるかというわけでして……。
「……寝よう、こりゃなんか悪い夢の類だ、いや待てよ……夢なら夢でも良いじゃないの」

「うおっしゃあああああああああああああっっっ!!!!!」
俺は雄叫びを上げながら窓枠からソラへと飛んだ、跳んだじゃなくて飛んだ。
夢の中で夢と気付いたら全力で遊ぶことに決め込んでいるのだ、たまには嫌なリアルを忘れてメルヘンも良いってことなのさ。


「いぎゃああぅぇああああああああいっっ????!!!!」
痛い痛い痛い痛い痛い、何だこれ、何これ痛い痛い痛い、け、ケツの骨が、うぎいいいいいいいいいいい。
夢の中でありえないはず激痛に俺がのた打ち回っているとしばらくして人だかりが出来ていた。

「……ありゃあオルテガんところの子倅じゃねえのか?」
「重圧に押し潰されてついに狂っちまったようだな」
「あらまあ、彼が魔王を倒さないといけないのにどうするのかしら?」

痛ましい目で見る一群、どうやらメルヘンではなく俺がメンヘルだったようだ。
引いてきたとは言えどケツはまだ痛い、というより周りが引いた。
あぶそりゅーとなんたらふぃーるどな距離関係、一定間隔を保ちながら俺を動物園の珍獣の如く眺めている連中をかき分けながら迫る影ひとつ。
初見な人物、いや待て、この夢でまだ知ってる人物に会ってないと、それより聞いてくれ、この背筋をつたう冷たい汗はなんだろう。
心は知らない、体は知ってる、あれ?何かエロくね?一人ツボにはまってケタケタ笑ってると、引っ叩かれた。


「ロンリーロンリー、ここ狭くね?」
三階からダイブした俺を心配もせず引っ叩いたご婦人はなんとまあ俺のママンだったのさ、いや待てそれおかしいとか今無しで。
どうやら俺は俺じゃなくなったようなのだ。幸いにも連中は中身が変わったことに気付いていない、逆に危うい立場に居るらしいんだけどな。
なんつーかまあ、あれですよ、俺っつーか、俺じゃねーっつかー、この肉体の持ち主さんは勇者に成る者らしく国からがっぽがっぽ援助してもらってたらしいのね。
下手な貴族も裸足で逃げ出すような巨大なあぱーとめんとに家族三人で住まうなんて基地外じみたことができるのは俺以外に世界の脅威に対抗し得る勢力がないってことで。
スーパーお説教タイムで数時間ガミガミーなら俺でも耐えるさ、でもね、女の人泣いてるのね、うわー俺でも心を痛めるわさ。
そんでその後、豪邸の地下、魔法の訓練室にマジ監禁、真っ暗闇で時間の感覚なんてもうないです。
そろそろ出してくれないとこのまま発狂コースですね、いや、周りから見たら十分黄色い救急車なわけですが。

/

部屋から引きずりだされた俺は馬車にぶち込まれドナドナ気分、上半身裸でへるめっぽなムキムキマッチョな屈強お兄さん怖。
がたごとがたごと、止まれば死刑執行待ち。

/

人を運んでいるとは思えない扱いで俺は王城の赤い絨毯の上をずりずり、摩擦で何かズボンがすけすけで痛いです。
乱暴に投げ飛ばされ王の目前、洒落にならないオーラを纏ったご老体のつんざくような視線に俺素で土下座。
「勇者サードよ、魔王バラモスを倒す旅に出る時が来たようだ。 ここに50ゴールドを用意した。 それで装備を揃え早々我が前から立ち去れよ」
怒気の孕んだ言葉、悪意としか思えない50ゴールド、あれだけでかい家を用意していながらこの落差。
ビビった俺は文句も言えないままに後方へと向かって思いっきり前進した。決して逃げたわけではない。

たかが50ゴールド、されど50ゴールド、これが全財産であり、他に装備と言えば寝巻きぐらい。
頼る家もない、50ゴールドじゃ冒険者ギルドと言う名の派遣会社で仲間を雇うこともできない。
ぶっちゃけ今さっき気付いたんだけどこれってドラクエVなんだよね、とりあえず服を買って着替えて薬草調達……武器はその辺で拾う。
何でも風の噂じゃ勇者の特権たる屋内突入強制徴発、別名押し込み強盗は取り消されたらしくもしやって見つかったら首チョンパ。
そして国中の魔法使いを掻き集めて魔法付加された羽のように軽いフルプレートアーマーと薙ぎ払えば鋼鉄の壁さえも切り裂く剣は宝物庫の主と化したらしい。
最悪なことに噂がもう街中に流れているらしくさっさとアリアハンを脱出しなければ命が危ないみたいなのだ。
宿に泊まるなんて論外、野生児的な生活を強いられるらしい。
しかし何がモラルの欠如かと言えば俺の体まだ十にようやくとどくかどうか、ってところなんだよね。
こんなガキを外にほっぽり出すなと思うけど連中の怒りはそれほどのことだったらしく、はあむなしい。
「まあ最終兵器の勇者が使い物にならんとなるとぷっつん行くわな」
あー晩飯どうしよと嘆きながらとぼとぼ道を歩く、お情けに貰ったレンジャー図鑑が重い……でもこれガチで生命線。
とりあえずキノコは食べちゃ駄目ってことだな、道具屋で買った水筒に井戸で汲んだ水を入れたし一日は持ちそうだ。
「そういや朝飯も食ってないし昼飯も食ってない……」
勇者は多少じゃ死なないらしく、1ヶ月ぐらいの絶食なら余裕だそうだ、それ以上は精神が持たずに発狂だってさ、ありえねー。
それでもお腹はすくし凄くひもじい、さっきキノコは駄目と言ったが毒ぐらい食らっても最終的に外的なダメージを受けなければどうってことないらしい。
最悪キノコを食べて繋げばいい、道で転んだら即死だけどな!
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