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◆Y0.K8lGEMAの物語

得獣失獣[3]
大きく開かれた洞窟の入口は、全てを受け入れているかのようであり、その内に広がる深みは、全ての侵入者を拒んでいるかのように俺達を威圧する。
内部は鍾乳石が複雑に入り組み、滴る水に侵食されて崩れた岩壁が進路を塞ぐ。
長い時間をかけて造り上げられた自然の迷宮。

「視界が悪いね。皆、周囲には充分気を付けて」
「前衛は私とイサミ殿。スミス殿とブラウン殿は後方の警護をお頼みします」

最近の隊列はこのパターンが多い。
前衛にピエールと俺が立ち、先手必勝で相手に一撃を加える。
怯んだ相手にサトチーが剣と魔法で追い討ち、とどめに後衛の二人が殴りかかる。
前衛がダメージを受ければ俺が相手の足止めを受け持ち、サトチーは回復に専念。
タフな二人が後方を守っているので、背後を取られても被害を最小限に留められ、その場合はサトチーが即座に治療に回れる。

スミスとピエールが提案した隊列だが、なかなか機能的だ。
この隊列なら剣、魔法、回復、指示出しをこなすサトチーが臨機応変に動ける。

神経毒を含んだクチバシを武器に、目を血走らせて飛び掛ってくるデスパロット。
巨体に似合わぬスピードと、体躯に恥じぬ怪力で猛攻を仕掛けるビッグスロース。
パチパチと燐光を散らす体から発する閃光で俺達を焼き殺そうとするデススパーク。
狂気に満ちた眼光をこちらに向け、槍を振りかざて突進してくる突撃兵。
一癖も二癖もあるモンスター達だが、俺達の連携の前では敵ではない。

襲い来るモンスターの群れをあらかた殲滅し、仲間に治療を施すサトチー。
その腕を指差しスミスが問い掛けた。

「…サトチー卿…先刻から気になっていたのだが…その腕輪はどうした?」

スミスが指差すのは、カボチ村の村長から受け取った腕輪。

「うん。この腕輪かい?カボチの村長から貰ったんだ」
「…なるほど………その品…私が貰い受けるわけにはいかないだろうか…」

装飾品には興味なさそうなスミスの頼みに、サトチーも少し驚いていたようだが、すぐににこりと笑いながらスミスに腕輪を手渡した。

「…ありがたく頂戴する…」

ドス黒い肌の上、神秘的に輝く宝石と施された装飾が奇妙なバランスで調和する。
腕輪に飾られた血のように赤い宝石。その隅にチラリと影が映りこんだのを見つけた。

「新手みたいだね。話が通じる相手ではなさそうだ」
「え、よっこいしょ…休憩時間は終わりだな」

周囲を警戒していたブラウンがハンマーを固く握り、鋭い眼光を影に向ける。
俺も重い腰をあげ、剣を正眼に構えて襲撃に備える。

さしたる音も立てず、物陰から姿を現したのは鈍色の騎士。
馬を繰る騎士ではなく、ピエールと同じくスライムに跨る異形の騎士。
―ピエールの同族か?

ヒュッ…ガギン!!

一瞬戦闘に入るのを躊躇した隙に、騎士がブラウン目掛けて突きを繰り出す。
間一髪でブラウンのハンマーが剣を弾き、喉元を狙っていた剣は大きく逸れた。
―いきなり痛恨即死コースで狙ってきやがった。

「お待ち下さい!」

睨み合う俺達の間に、ピエールが割り込む。

「ヤツの相手は私にお任せ願えませんでしょうか…」
「そんな…ありゃ同族じゃねえのか?」
「その通り、ヤツは紛れもなく嘗ての同族…だからこそ私が討つのです。ヤツは誉れ高き騎士の名を汚した種族の裏切り者。メタルライダー一族。騎士の誇りに懸けて、私自身の手で決着をつけねばならないのです」

言いながら剣を抜き放つピエールの気迫に押され、意思とは無関係に道を譲る。
一人、敵前へ赴く騎士の背にサトチーの声が投げ掛けられる。

「ピエール。作戦は『ガンガンいこうぜ』…だ」
「勝手をお許し下さい。そして…『私にまかせろ』であります」

静かな…そして、心強いサトチーの激励に応えて剣を高く掲げるピエール。
対峙するソレは、この薄暗がりの中ではピエールと瓜二つの容姿に見える。

ピエールと違うのはそのスライム。鮮やかな生命を感じさせる若草色に対し、無機質な金属色。それも、メタルスライムのような光沢を持つ銀色ではなく、騎士としての心の輝きを棄てたかのような鉛色。

「私の名はピエール。高貴なる主君、サトチー様にお仕えする騎士。
 下郎にも名乗る名くらいはあるだろう。その下劣な名を名乗るが良い」

構えた剣を頭上高く水平に掲げ、名乗りを上げるピエール。
対するメタルライダーは喉の奥で短く笑い、空っぽの鞘を後方に投げ捨てる。

「…脆弱な騎士め。貴様が大事にしている誇りなど無価値だと証明してやる」
「誇りと一緒にその下劣な名までも捨てたか。誇りを捨てて得た力など無力」

手にした剣をメタルライダーに向けながら、ピエールも同じく鞘を投げ捨てる。
それは―どちらかが果てるまで戦う―という決闘の意思表明。

「「覚悟!!」」
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