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◆Y0.K8lGEMAの物語

得獣失獣[2]
           ◇
           
「冗談じゃねえ!村長。考え直すベ。村の事は村の人間でなんとかするだよ!」
「なぁに言ってるだ。この人達は信用できるだよ!おらの目に狂いはねえだ!」

朝になり、村長の家へ足を運んだ俺達を出迎えたのはあまりにも不愉快な光景。
村長の家に入った俺達一行を見て、一人の農夫が不信を口にしたのが発端。
それにポートセルミで出会った農夫が噛み付き、口論に発展してしまった。

「化け物を連れた連中を雇うだなんて、おめえの目はケムケムベスだべか!?」
「おめえこそ、この人達を疑うだなんて頭にトンネラーでも巣食ったベか!!」

―気分悪りいなぁ。
収拾のつかない口論を見るのも気分悪いが、本人達の前で信用できねえだとか、人様の仲間を化け物だとかよく言えたもんだな。

「私を化生と蔑むのは一向に構わぬ。だが、サトチー様に対する侮辱は許さぬ!!」

サトチーに対する攻撃に関しては短気なピエールが吼えると、部屋は静かになった。

「あなた達にとってモンスターとは畏怖の対象でしかないのかもしれません。ですが、僕達にとって彼等は大事な家族であり、信頼のおける仲間です。仲間を信用して頂けないと仰るのならば、この仕事はお受けできません」

そう言いながらテーブルの上に前金の入った袋を置くサトチー。
その言葉にピエールは感激の涙し、ブラウンはサトチーに強く抱きつく。

「信用する…あんたも、あんたの仲間もだ…だから、金をしまって欲しいだ」
「村長!!」
「なら、おめえが魔物を退治するだか?おめえにも、村の誰にも無理だんべ? 村を救うにはこの人達を信用して全てを任せるしかないだ」

再び静まり返る部屋、数秒の沈黙を破って席を立ったのは最後まで懐疑的だった男。

「勝手にするだよ!そん代わり、おらも好きなようにやらせてもらうだ。よそ者にデカイ顔されて黙ってられねえべ」

男はボロボロの扉を蹴破らんばかりの勢いで乱暴な足音を立てて家を飛び出す。
村の総意を得たとは言い難いが、俺達は改めて依頼を受ける事になった。

「あんたらにはこれを渡すだ。きっと何かの力になってくれるだよ」

村長から手渡されたのは奇妙な装飾が施された腕輪。

「なんでも、不思議な力が込められてるって話だで。ぜひ持ってって欲しいだ。おらぁ、あんたらを信用したべよ」

魔物のすみかはこの村の西にある。距離にして半日かからない程度。
馬車に飛び乗り、白い馬を早足で走らせる。

嘗ては敵だったモンスター達も、今ではサトチーの信頼に応えて力を貸してくれる。
俺達も村長の信頼に応えて力を貸してやることにしましょうかね。



旅人を乗せた馬車は走り去り、村長と農夫の二人だけが残された村長の家。
農夫が震える声で村長に問う。

「村長。なんであの腕輪を渡しただか?」
「あの腕輪さ持ってれば、間違いなく魔物を仕留められるべ」
「んだども、あれで魔物を仕留めるって事は…」
「…なぁんも問題ねえ…これで村は安泰だぁ」

ほぼ白湯に近い出涸らしのお茶をすすり、村長が細く息を吐く。
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