◆Y0.K8lGEMAの物語
東奔西騒[1]
甲板に燦々と降り注ぐお日様の光。波の音を運ぶ潮風。
ビスタ港を発った船は、俺達を乗せて西方大陸へ向かう。
「凄ぇ。魚に混じって犬が泳いでやがる…こっちの世界は何でもありだな」
「シードッグだね。これだけ大きい船なら襲われる事もないから心配ないよ」
へぇ〜…アレもモンスターなのか。
水面に目を凝らすと、なるほど…犬やらオタマジャクシやらの場違いな生き物まで優雅に水中を泳いでやがる。
「ブッ飛んだ生態系だなぁ…こっちの世界なら人魚がいても不思議じゃねえな」
「人魚?マーマンの事かな?」
ママン!?熟女系ktkr!!
「僕はどうも苦手だな。あのピチピチした下半身が生々しくってね」
ピチピチした下半身!?生々しいママン!?
若妻人魚キタ――――(゚∀゚)――――!!!!
「船旅っては良い物だねえ。ママン…アンタに会うのが楽しみだよ…」
まだ見ぬ海の向こうの恋人に想いをはせる俺。
サトチーの痛い人を見るような視線が気になるが、俺の熱い心は冷めない。
「イサミ様。マーマンという種族はですね…」
「…やめておけ…良い夢は少しでも長く見させてやるものだ…」
抱えたブラウンを熱く抱擁する俺に何か言いかけたピエールをスミスが制する。
数時間後、船は西方大陸へ接岸した…愛しのママンには会えなかった…
降り立った町は潮の香りで満ちていた。
西方大陸の玄関 港町ポートセルミのドッグには様々な国の船が並んで停泊し、様々な国の様々な人種の旅人達がせわしなく町を出入りする。
オラクルベリーとは違った賑わいを見せるこの町は、ある種の万国感を感じさせる。
「まずは、装備を整えてから今後の目的地を話し合おうか。
酒場には外国の船員が集まってるだろうから、そこで情報収集と作戦会議だね」
「んじゃ、まずは買い出しだな」
サトチーはヘンリーから譲り受けた鋼の剣を持ち、俺は天空の剣を持っているので、武器に関しては当面の心配はないが、問題は防具だ。
修道院〜ラインハットの連戦で俺の鎖帷子はボロボロになっている。
かと言って、鋼の鎧や鉄の鎧は重過ぎてまともに動けなくなる始末。
「うん、これならイサミにも装備できそうだね」
最終的に選んでもらったのは、鉄の胸当て。
正直これも少し重いのだが、黙っておく。
鉄の胸当てが装備できないとなれば、これより軽い防具として残される選択肢は、スライムの服とかいう奇抜すぎるデザインの服。
男として…いや、人としてアレを装備する事だけは絶対に避けなければ。
店のオヤジ曰く、鉄の胸当ては鎧を装備できない非力な旅人向けの防具らしい。
非力…その言葉に少しカチンと来たが、何も言い返せない。
……サトチーは鋼の鎧を装備して余裕なんだもんなあ。
「じゃあ、装備も整えたし酒場に行ってみようか」
いつの間にか太陽は西に傾き、反対の空に向かって赤いグラデーションを描く。
いそいそと看板をしまう店とは対称的に、ようやく輝かしいネオンを灯した酒場。
静かに暮れ始める町とはこれまた対称的な活気…を通り越した酒場の喧騒。
思わずその方向に目を向ける。
うわぁ…いきなりDQNだよ…
華やかな酒場の雰囲気にそぐわない、ひなびた格好の男。
そして、その男に因縁をつけるのはガラの悪い二人組。
耳が尖って、口がデカくて、毛深くて、山賊ウルフに似てる気がするのは気のせいか?
「性質の悪い酔客が揉めてるみたいだね」
「やれやれ、あいつらにもサトチー様の爪の垢を煎じて飲ませたいものですな」
「これじゃあ情報収集どころじゃねえなぁ」
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