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◆Y0.K8lGEMAの物語

命命之志[2]
北方大陸西方の宿場町アルカパ。 別名―詩人の町――
主無き古城・レヌール城の伝承を求め、世界中の詩人達がこの町へ足を運ぶ。
交通の便に恵まれているわけではないこの町が栄えたのは、その城の影響が大きい。

街角で詩人が歌うのは、悲しい最期を遂げたレヌールの王と王妃への鎮魂歌。
死した後も呪いに縛られ、苦しみ続けた二人の悲哀を奏でる哀歌。
そして、その呪いから二人を解き放った小さな勇者を讃える賛歌。

呪いを解き放った小さな勇者ねぇ。
まぁ、田舎町によくある客寄せのおとぎ話だろうな。
「懐かしいなあ。レヌール城でオバケ退治をしたのは10年前か」

…ナ ナンダッテー!!
 Ω

多少の脚色はあるが、歌に残る『小さな勇者』とはサトチーで間違いないらしい。
なんだ、そのアグレッシブ過ぎる武勇伝…
「その時、一緒にお化け退治をしたのがこの町の宿屋の娘でね…」
なるほど、船出の前にこの町に立ち寄りたかったのはその子に会うためか。
その子…ビアンカの事を話すサトチーの顔はいつになく楽しそうに見える。

深夜の廃城に忍び込んで幽霊とバトった女の子か…
ゴメン…ベリアルとかダンビラムーチョに似た逞しい女の子しか想像できねえ。
顔を合わせた瞬間、防衛本能が働いて斬ってしまいそうだ。
…いや、モンスターだって全部が全部悪い奴じゃあないんだよな。
だからって愛せるかといったら話は別なんだが…

悶々とする俺を連れたサトチーは、晴れやかな顔で魔城…もとい、宿屋の門を開けた。
上品な装飾の施された木製のドアベルが奏でる乾いた音が来客を告げる。
「いらっしゃいませ。お泊りは二名様でしょうか?」
フロントからにこりと笑いかけたのは、人の良さそうな女将さん。
宿帳を閉じ、手にしていたペンを胸元に差して俺達を出迎える。
この人がベリアr…じゃねえ、ビアンカって子の母親か?
あれ? 10年ぶりだってのにサトチーの反応が薄いなぁ。緊張してんのか?

「あの…ここにビアンカという名前の女性は住んでいませんか? 10年前には確かにここに住んでいた筈なのですが…」
サトチーの顔がみるみるうちに…いや、俺の立ち位置からは顔を見る事は出来ない、
恐らく、俺の予想通りの表情をしているのだろう。
「ビアンカさん? もしかして、私達の前にここに住んでいた方に御用かしら? 私達は8年前にこの町に移住してきたんです。お役に立てなくてごめんなさい」
最上階、この宿の最高の部屋に通された後も、サトチーはうなだれたままだった。

    ◇

窓の外では小さな篝(かがり)の下で、詩人が夜想曲を奏でる。
静かな夜の町。その背景のように朧げに青白い輪郭を浮かべる廃城のシルエットがロマンチックな雰囲気を盛り上げる。

「明日も早いし…もう、寝ようか」
窓際で夜風に当たっていたサトチーがカーテンを閉める。
数時間ぶりに聞いたサトチーの声は重々しく、どことなく疲れているように聞こえる。
ロウソクの火が落とされた部屋。カーテンの隙間から入り込む薄赤い篝の光。
その頼りない光の下では、互いの顔すら窺い知る事はできない。

「…明日から…世界中を回るんだろ?」
ふと、無反応の暗がりに向かって話し掛ける。
遠くで聞こえる夜想曲が静寂に無彩色を飾る…サトチーは眠ってしまっただろうか。

「俺…あっちの世界では、日本って狭い国の中の狭い一部しか見た事がなくってさ、今いる国の外に出る…世界中を回るってのが、凄げぇ楽しみなんだ…世界中を回ればさ、何だって見付けられる。何だって見付けられないわけがない。今さ…実感してるんだ…『今日を生きている』って事…」

俺は誰に何を話しているんだろう。自分でもわからない独り言。
ただ、思っている事を口に出した…それだけの事。

「…何だって…見付けられるよね…」
無反応な暗がりが返した小さな反応。それだけの言葉。
それでも、その短い言葉の中に感じ取れた『明日を生きる』意志。

それは、神殿から脱走した時とは違う船出への希望。


イサミ  LV 16
職業:異邦人
HP:77/77
MP:15/15
装備:E天空の剣 E鎖帷子
持ち物:カバン(ガム他)
呪文・特技:岩石落とし(未完成) 安らぎの歌 足払い ―――
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