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◆Y0.K8lGEMAの物語

比翼連理の双星[1]
あのゴタゴタの後、城の中はそれ以上にゴタゴタになっちまった。
当然だよな。国の在り方を変えちまう様な大事件だったんだもんな。

一堂に集められたラインハットの王族や貴族達で緊急対策会議中。
今回の事件を、どのような形で国民に発表するか、誰が発表するか、どこまでの内容を発表するか……会議は揉めに揉めているらしい。

まず人選。強いカリスマを持つ大后は、長い幽閉の影響で床に伏せっている。
大后が無理のきかない体である以上、発表はおのずとデールからになるだろう。
次に内容。『散々国民の皆さんを苦しめていた王は正気じゃありませんでした』
……なぁんて発表したって誰も納得しないのは火を見るより明らか。

長い会議の結果、
『王と大后は偽物だった。長旅から凱旋したヘンリー様とその一行が偽者を成敗し、本物の王と大后を無事に助け出した。めでたしめでたし』
……って内容の声明を国民に発表する事になったんだ。
大后が偽者だったのは事実だけど、王まで偽物だったいう内容にしたのは、国民の反発心を最小限に抑える為……らしい。偉い人ってのは大変だな。

その夜、城の中庭には多数の国民が集められた。
不審そうな……不安そうな表情の国民達は皆ざわざわと落ち着かない様子。
バルコニーから国民の前に姿を現すデール。水を打ったように静まり返る中庭。

「この国を狂わせ、大事な国民を苦しめたのはこのデール。弁解の余地はない」
皆の顔が凍りついた。勿論、俺達の顔も。

「国の混乱は全てこのデールの弱さが招いた事。謝って許される事ではないが……償いはさせて欲しい……兄さん、こちらへ……」
バルコニーのデールに手招かれ、ヘンリーがデールの横に立つ。
「兄さん……この場で僕を斬り捨てて下さい」
デールが悲しい笑みを浮かべながらヘンリーに剣を手渡す。
「僕の命で許されるとは思っていませんが……せめてもの償いです。兄さんなら国を立て直せる……どうか……国をお願いします」

償いって……命を捨ててどうするんだよ!ヘンリーと一緒に国を立て直せば……
間に入ろうとした俺達を制したのはヘンリー。
「そうか……俺も覚悟を決めていた事だ。そこになおれ」
冠を外したデールは、ヘンリーの前に進み出て目を瞑る。
駄目だ……そんなの絶対に……やめろ……

「…………でえぇぇぇい!!」
 ばちぃぃっ!
「痛あぁっ!!!」

ヘンリーの渾身の平手がデールの尻を引っぱたく。
うわぁ……痛そう…………って、アレ?

「覚悟決めてたんだ。国が乱れた原因がデールの弱さによるものだったら、城に戻ってその尻っペた引っぱたいてやる……ってな」
ヘンリーが民衆に向かい合い、大声で叫ぶ。
「国の皆! こいつのしでかした事がこれっぽっちで許されるとは思っちゃいねえ! だから……今日は皆の気が晴れるまでこいつに灸をすえてやる!!」
 ばちぃぃっ!
「痛あぁっ!!!」

「まだまだぁ!!」
 ばちぃぃっ!
「痛あぁっ!!!」

延々と繰り広げられる公開お仕置き尻叩き。
最初は唖然としていた民衆だが、次第にその中から笑い声が漏れ始める。
「おらあっ! 反省しやがれえっ!!」
 ばちぃぃっ!
「痛あぁっ!!!」
笑い声は次第に大きくなり、やがて歓声となって中庭を埋め尽くす。
「子分のクセにでしゃばりやがってぇっ!!」
 ばちぃぃっ!
「痛あぁっ!!!」
「俺が帰ったからには二度と好き勝手はやらせねえぞ!!」
 ばちぃぃっ!
「痛あぁっ!!!」
『いいぞ! もっとやれー!!』
『ヘンリー様が戻られれば国は安泰だー!!』
『デール様ー! 応援しておりますー!!』
『思いっきり引っぱたいてやれー!!』

「これからは……ずっとずっと俺と二人で国を守るぞおっ!!」
 ばちいぃぃっ!!!
「痛あぁぁぁっ!!!」

涙で顔中をグシャグシャにするデールを引き起こすヘンリー。
ヘンリー自身も涙目で荒い息をしているが、息も正さずに民衆に向かって叫ぶ。

「俺は王家に戻って国を建て直す!!この泣き虫な馬鹿王と一緒にだ!! 親分が直々に後見人になるからには、二度と国民に苦しい思いはさせねえ!! 今宵、俺達兄弟の姿を目に焼き付けろ!!俺達の働きを見届けろーーーっ!!!」

わあっ と、一際大きな歓声が中庭に挙がる。
ヘンリーを讃える声……デールの名を呼ぶ声……二人を応援する声。
さながら大物ミュージシャンのライブ会場の如く盛り上がる民衆。
俺も素直に感心した。やっぱり、ヘンリーのカリスマは天才的だ。
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