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◆Y0.K8lGEMAの物語

紫焔一閃[4]
「おやおや…大后を魔界に幽閉したのは失敗でしたか? 呪縛が解けませんね」
「て…てめえ…ふざけてねえでさっさと…」

ようやく搾り出した俺の声は魔女の一睨みで止められる。
情けねえ…

「それは、天空の剣…ですか?」
俺を睨みつける表情を緩め、笑みを浮かべる魔女。
魔女が指差すのは俺の背に納められた剣。

「天空の剣の剣閃は一切の魔を祓うと伝わりますが…果たしてどうですかね? その剣の力をもってすれば、大后を縛り付ける呪縛を解く事も可能でしょうが、ほっほっほ…貴方にその剣の力が引き出せますかね?」

俺の背に背負われた剣。
一切の魔を祓う天空の剣
嘗て、天より舞い降りた伝説の勇者が用いた剣。
この世界と魔界との境界を切り開く伝説の剣。

でも…今、この剣を振るう俺は…

するり と、鞘から剣を引き出し構える。
…が、この後どうすれば良い?

「イサミさん! 母上を助けて!」
目を覚ましたデールの懇願が俺の目を覚ます。

「イサミ…お前は俺の子分だ…俺が見込んだお前なら出来る」
肩を叩くヘンリーの言葉が俺の背を押す。

―!!!―
ブラウンの声援が俺の両腕を持ち上げる。

「…イサミ…君なら…大丈夫だ…」
凍てついた体のまま発せられたサトチーの激励が俺の中に火を点ける。

俺は天空の勇者なんかじゃない…普通の大学生で…今はただの住所不定無職異邦人。
でも、今の状況を何とかしたいと思うのは…親友の声に応えたいと思うのは…
親友を守りたいと思うのは…勇者なんかじゃない俺でも一緒だ。
やってやる!

―オオオォォォ!!―

咆哮と共に振り上げた俺の両腕に力が発現するを感じた。
力が腕から手を伝い、剣に流れ込むのを感じた。

「…ッリャアアアァァァァァ!!!」
真白い光景だけが目の前を支配する…何も見えない…けど、
一心で振り下ろされた剣の先から、全ての力が流れ出すのを感じた。
俺の中の色んな物が流れ出すのを感じた。

立っていられない疲労感…思わず膝をつく。
脱力感…俺の手から力が抜け、剣が音をたてて地に落ちる。
同時に、霧が晴れるように視界が元の色を取り戻す。

支えを失ったかのように落下する大后を、デールがギリギリで受け止めた。

ウシッ!…とか、やってらんねえ…マジしんどい。
いやいや、まだへばってられねえ。あの紫の鬼ババアを…

「ほっほっほ…見事に魔界の呪縛を解きましたか。しかと見届けましたよ」

高笑いを浮かべる魔女に剣を向ける…ハッタリだけどな。
戦う力なんか少しも残ってやいねえ。

「無理はなさらない方が良いでしょう。ここで貴方達を殺す気はありません。残念ながら、そこまでの自由は許されていないようですからね」
「待て!お前だけは絶対に…」
紫色の霧に包まれる魔女にサトチーが追いすがる。
その足はふらふらとしておぼつかず、再び地面に倒れ伏す。

「ほっほっほ…それではごきげんよう。サトチーと…ホコロビ… いずれまたお会いしましょう。それまでその命を大事になさい」
紫色の霧の中、高笑いを残して魔女は消えた。

「ゲマ!…次こそは…必ず…」
サトチーが虚空に向かって吼える。

…あの鬼ババア、何がしたかったんだ?
全然、聞き足りないのに言いたい事だけ言って帰りやがった。
いや…ここでバトらなかったのは助かったけどさ…
次こそは、か…会いたくないな、出来る事なら二度と…

「後味悪りいけど、デールのやつも正気に戻ったみたいだし…これで一段落か」
力が抜けたように座り込むヘンリー。
デールは子供の様な表情で大后に泣きすがっている。

「まあ…一件落着なのかな?」
「本当にありがとうな。これできっとラインハットも立ち直る。サトチーと、イサミと…この剣のお陰だな」
地に落ちた剣を拾い上げ、俺に手渡すヘンリー。
その手から剣を受け取り、背中の鞘に戻す。

少しずつ傾きつつある太陽の光を受け、竜のレリーフがきらりと光った。



イサミ  LV 16
職業:異邦人
HP:4/77
MP:0/15
装備:E天空の剣 E鎖帷子
持ち物:カバン(ガム他)
呪文・特技:岩石落とし(未完成) 安らぎの歌 足払い ―――
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