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◆Y0.K8lGEMAの物語

紫焔一閃[2]
「なあ…念のためもう一度聞くけど…本当に飛び込んで平気なんだな?」
「平気だって。イサミは肝っ玉の小せえ奴だなあ」

正直ビビってます。何にって…目の前で煌々と輝きながら渦を巻く水色の光。
これがトムから教えられた第二の抜け道。
修道院の南に広がる森からラインハット城の一室に繋がる旅の扉。
例えるなら転送装置みたいなものか…俺の世界には存在しないけど…

「…他に抜け道はないんだな?…マジでコレしかないんだな?」

自分でもヘタレだと思うが、デカイ洗濯機のような光景はマジで怖い。
そのデカイ洗濯機に飛び込もうと言うのだから、嫌でも慎重になる。

何度も念を押す俺に痺れを切らしたのか、ヘンリーが後ろから背中を押す。
「ほれ、チャッチャと行った行った」
「…ちょ…ば…押すな!まだ心の準備がああぁぁぁ…」

濃淡のある水色が縞模様となって景色を覆い、次第に視界が水色の帯に侵食される。
どっちが上でどっちが下だかもわからない奇妙な浮遊感。
息は出来るので溺れる心配はないみたいだ…が……気持ち悪りぃ…

グニャグニャと捻じ曲がる視界にじっと耐えていると、靴の裏に固い質感を感じた。
水色の帯が霧散し、数秒前とは違った景色が視界に入る。

「な? 大丈夫だっただろ?」
「…あぁ…大丈夫だ…けど…二度と使いたくねえ…」
「気分が落ち着いたら行くぞ。そろそろ予定の時間だ」

本が散らばっている部屋…城の書庫だろうか? その部屋の扉をそぉっと開ける…
その動作は扉の向こうから聞こえる声によって止められた。

「やはりトムは裏切りましたか…まあ、予想通りですがね…」
「はぁ…この国は凄腕の軍師でも雇ってるのかよ?」

ヘンリーが観念したように扉を開ける。
扉の向こう側。中庭にずらりと並ぶラインハット兵。その後方に控える金髪の王。
いい加減、気が滅入る。こっちの手はお見通しってわけですかい。

「そんなに誉められる事でもないでしょう?僕は万が一を見逃せないだけです」

壁のように立ち塞がる兵士達が俺達に槍を向ける。
冷たい笑みをうかべ、悦に入ったような表情で続けられる王の演説。

「万が一、プロトキラーが敗れたら…次はそちらが反撃に出てくるでしょう。聡明な兄なら、同じ失敗は避ける筈。前回と同じ道を使うとは考えられない。ならば、どこから浸入してくるか…不毛な読み合いは時間と労力の無駄です。経路を一つ残しておけば、相手は勝手にそこから侵入してくるのですからね」
「君は敢えてトムさんに鍵を渡しておいた…って事かい?」
「兄を可愛がっていたトムの事です。彼が本気で兄に剣を向けるとは期待しません。あなた達は僕の期待通りにプロトキラーを撃退し、僕の期待通りに策を巡らせ、期待通りの方法で侵入してくれた。感謝しますよ。期待通りの働きをありがとう」

「そりゃどうも。俺としても、お前が頭の切れる奴で良かったよ」
ニヤリと笑うヘンリーに、怪訝そうな顔を向けるデール。

本当、期待通り…だとしたら悪い事したなあ。

死角で起こった異変…知っていた者はいても、気付く者はいなかった。
王の背後…中庭の一角の地面が跳ね上がり、地面の下から二つの影が飛び出した。

「鏡よ! 力を示せ!!」

作戦成功。見事に釣り針に食いついた。
鏡を持った本隊はサトチー・ブラウンの二人だ。

兵達は突然の事態に反応できない。自分の世界に入っていた王は尚更だ。
中庭に構える隊列の背後を取ったサトチーが、ラーの鏡をデールに向ける。

太陽がもう一つ現れたかのような眩い光の奔流。
鏡から発せられた光の帯がデールを飲み込む。

旅の扉から侵入する俺達とは別に、地下から浸入していたサトチーとブラウン。
聡明で狡猾なデールの事、俺達が前回と同じ道を使うとは考えないだろう。
恐らく、兵を率いて扉の出口で待ち構えている筈だというヘンリーの読み。
なら、俺達が囮となってデール達の視線を集中させ、油断した隙を狙う作戦。

兄より優れた弟など存在しねえ!! …ちょっと違うか。

「う…ああああぁぁぁぁぁぁぁぁアアアァァァァ!!!」

王を包み込んでいた光が収縮し、次第に細くなる。
細く、それでもなお一点に集中する光の帯がデールの胸を突き刺す。
完全にもらった。不毛な読み合いは俺達の勝ちだな。

とさり…と、静かに王が倒れると同時に光は消えた。

「デール!!」
「大丈夫…呼吸はしっかりしているし外傷もない。命に別状はないよ」

倒れたデールに駆け寄り、その身を助け起こすヘンリーと回復を施すサトチー。
兵士達は事態が飲み込めないのか、放心状態で動けない。
俺とブラウンは周囲を取り囲む兵士の動きに集中する。
烏合の衆と化した兵達をかき分け、無言のまま俺達の輪に入る女。
サトチーの手によって地下牢から助け出された大后。

母親だもんな。息子が心配にもなるだろうさ。

「…デール…」
顔に付着した埃を払うでもなく、薄汚いドレスのままゆっくりと近付く大后。
感動の対面ってヤツか…大后の手に握られたナイフの輝きが目にしみるねえ。

…ん?
…何でナイフ??
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