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◆Y0.K8lGEMAの物語

紫焔一閃[1]
太陽は高い位置から俺達を見下ろしている。
清々しい日差しがステンドグラスから差し込み、十字架を七色に照らす。
麗かな昼下がり…なのに、俺達の心はどんよりと淀んでいる。

サトチーの腕の中で一通り暴れ、突然電池が切れたように気を失ったブラウン。
ぐったりと動かなくなったブラウンは、シスター達によって治療を受けている。

「ブラウンちゃんは大丈夫。眠っているだけみたいですよ」
寝室から出てきたマリアの言葉を聞いたサトチーの表情に安堵の色が浮かぶ。
恐らく、俺も同じ表情をしているだろう。

だが、マリアはその青い視線を床に向ける。
「ただ、目が覚めた時に正気に戻っているかどうかは…」
「…その心配はない…だろう…」

気落ちしたようなマリアの言葉を遮るのはスミス。
ブラウンが気になったのか、無理をして日光の中に歩み出たのだろう。
その濁った瞳を眩しそうにこすっている。

「…あの時…ブラウンはプロトキラーの一撃で気を失っていたな……幼いモンスターにはよくある事だが…意識がない状態で強い魔性に触れた時… 一時的にその意識が魔に支配される事がある…ブラウンの異変はそれだろう… 意識が戻れば…魔性の呪縛からも開放されている…筈だ…」

…なるほどねぇ…って、俺にはさっぱり理解できない…

「ちょっと待って。あの場にいたのは僕達三人と、あの機械と兵士だけだよ。どこに強い魔性の発生源があったって言うんだい?」
サトチーの横槍に、スミスがちらりと俺の方を見る…え? 俺?

「知らぬ…」

「……ていっ!」 びしっ!
「……なんのつもりだ?」

ヘンリーのチョップがスミスの頭部に打ち込まれる。
痛みを感じないスミスには全然効いてねえみたいだけど…

「なんのつもり?それはこっちのセリフだろうがよ。スミスの旦那ぁ。大層な講釈を並べておいて知らねえはなしだろうが」
「…ふむ…ならば表現を変えよう…確信はしているが…肝心の確証がない… 半端な考察を論じた所で…混乱を招くだけだろう…」

チンピラのように絡むヘンリーを冷静に受け流す。
スミスの言う事はもっともだが、どうにも釈然としない。

「…教会の空気は私には合わぬ…サトチー卿…私は馬車で待たせてもらう…」

うやうやしくサトチーに礼をし、修道院から出て行こうとするスミス。
開け放たれた修道院の門から差し込む太陽の光に、眩しそうに手をかざす。
貴族のような振る舞い…従者のような気配り…学者のような知性…
生前のスミスはどんな人間だったんだろう。

「…そうだ! スミス!」

俺の呼びかけに振り向いたスミスに駆け寄り、カバンから出した物を手渡す。

「サングラス…っていうんだけどさ、これを使えば眩しくないだろ?」
「…異世界の色眼鏡か…なかなか良いものだ…ありがとう…」

サングラスを装着したスミスに礼を言われ、思わず後ずさりする。

血色の悪い顔色…バサバサの髪の毛…ボロボロの衣服…そしてサングラス…
似合ってる…似合ってるんだけど…似合い過ぎてなんかヤダ。

        ◇
        
「しっかし、あれは説得って言うのかねえ」
小さな鍵をチャラチャラと振り回しながらヘンリーに問い掛ける。

修道院を襲撃した兵士は、ヘンリーの説得で小さな鍵を俺達に手渡した。
『私は先代のラインハット国王に忠誠を誓った身。先代の王亡き今、私の主君はデール様ではなくラインハット王国そのもの。裏切りではなく、私は王国の未来の為にヘンリー様にこれを託します。 …あ…だから…カエルはもう…ひいぃぃ…』

どう見ても拷問です。本当に(ry

「トムの奴もずっと苦しんでたんだろうな…」
真正面を見据えながら、ヘンリーが短く答える。

あの兵士もラインハットの異変には気付いていたに違いない。
異変に気付きながら、一介の兵士の身では何も出来ず…
愛国心と忠誠心の間で苦しんでいた。
―王国の未来の為― あれが彼の本音なのだろう。

「終わらそう。あいつの苦しみも…ラインハット王国の悲しみも全部」
普段とは違う、静かなヘンリーの言葉で一気に気合が入る。

「俺も微力ながらお手伝いさせてもらいますぜ。お・や・ぶ・ん」
「頼りにしてるぞ。なんてったって、ヘンリー様自慢の子分だもんな」

緊張して然るべき状況を笑い合いながら歩く二人。
気が緩んでるわけではない。むしろ、千切れ飛びそうに張り詰めている。
それを隠すかのように、互いに笑ってみせる。

ウシッ! 行くぞ。今度はこっちから仕掛ける番だ。
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