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◆Y0.K8lGEMAの物語

背水の刃[3]
「イサミ!…っ済まない!」
サトチーは俺の行動の意味を理解してくれたらしく、ヘンリーの回復に向かう。
OK サトチーなら絶対にわかってくれると信じてた。
横薙ぎに振り払われる大剣を身を屈めて避け、そのまま水面蹴り。
四本の足で支えられた頑強なボディーが地面に倒れる事はなかったが、
それでも一瞬、鋼鉄の体がぐらりと揺らぎ安定を失う。
その隙に、近くで転がってるブラウンを抱えてダッシュ。
全力で走りながら、薬草をブラウンの口に放り込む…ブラウンはコレで大丈夫。

さて、思った通り、あいつはまだ俺を第一の攻撃目標に捉えている。
後方から飛んでくる矢の的を散らすように、ジグザグに緩急をつけて逃げ回る。
機械の扱いなら、こっちの世界の人間よりも慣れている。
機転や応用力を持ち合わせない、最速の結果だけを求める回路…それが機械の弱点。
今、こいつのセンサーには、派手に逃げ回る俺しか映っていねえ。

真正面から叩いてもこいつの鉄壁のガードに弾かれる。
ならば、サトチーとヘンリーの二人に機械の背後を叩いてもらう。
ホント格好悪りい戦法だな。

とは言え、俺の体も限界っぽい…
意思とは裏腹に、全力疾走していた俺の両足が重くなる。
疲れを知らない機械の攻撃が徐々に生身の俺を捉え始める。
情けねえ…こんな事ならタバコに手を出すんじゃなかったなあ…

脇腹を矢が掠め、大きく体勢を崩す俺の目に映ったのは、
きらきらと星屑の様に飛び散る鎖帷子の破片。
太陽の下で煌く真昼の流星群の中に、小さな影が飛び込んだ。

…ブラウン?

抱かれていた俺の腕の中から飛び出し、幽鬼の様に立ちはだかるブラウンは、
俺など意にも介さない様子で機械に向かい合う。
空虚な黒一色の中に、禍々しいまでの闇色の炎を浮かべた瞳。
普段のブラウンとは違う、怒れる鬼神の瞳。

バグン!…と、爆発音にも似た破壊音が響く。
プロトキラーが矢を放つよりも早く、ボウガンの備えられた腕が弾け飛ぶ。

続けざまに叩きつけられる、魔神の如きブラウンのハンマー。
いつにも増して大振りな動きを察知し、機械が初めて回避動作をとる。
轟音を伴わせ、地面にハンマーを食い込ませた小さな戦士に無慈悲な刃が落とされる。
振り上げたハンマーで大剣を打ち払い、再び最上段から力任せの一撃を振るう。

「おいおい…ブラウンの奴、混乱しちまったんじゃねえか?」
肩の傷を治療し終えたヘンリーが、不思議そうな表情でその光景を眺める。
俺もヘンリーも援護する事すら忘れ、ただその異様な事態を眺める事しか出来ない。

混乱? キレた? …違う…アレはもっと…


「魔物の瞳…」
サトチーが震える声で語る。
「人間とは相成れないモンスターの瞳だ。なんでブラウンが…」

―!!!!!―

プロトキラーが、その千切れた腕でブラウンを殴り飛ばす。
機械に感情があるとは思えないが、それは焦りを感じさせる行動。
プロトキラーの演算回路が、今のブラウンと片手で渡り合う事は、
大きなリスクを背負うと計算したのだろう。

「ぼんやりしてる場合じゃない。二人とも、ブラウンの援護だ!バギマ!!」
サトチーが呪文を紡ぎ、プロトキラーの足元から巨大な旋風が立ち昇る。
視野狭窄に陥っていたプロトキラーは突然の竜巻になす術もなく巻き込まれ、
その手足をあらぬ方向に捻り上げられる。
大気が轟々と渦巻く内部から、機械の発するノイズ音が聞こえる。
「ルカナンッ!!」
青白い光がヘンリーの両手から迸り、鋼鉄の体を包み込む。
「イサミ!ブラウン!強烈なのをぶちかましてやれぇ!!」

ブラウンが高く飛び上がり、上空からハンマーを振り下ろす。
その大振りに対し回避行動をとるプロトキラーだが、俺の行動の方が早い。
低い位置からプロトキラーに駆け寄り、不安定になった足元に水面蹴り。
地を低く這う俺の足が弧を描いて機械の足を刈り取り、鋼鉄のボディーが倒れる。
「無粋な機械はこっちの世界には似合わねえ。大人しく退場しやがれ!」
倒れたプロトキラーの頭上に、ブラウンの放つ魔神の如き一撃が叩き込まれた。
理性による抑制を失ったブラウンの豪腕で振るわれるハンマーと、
ヘンリーのルカナンで強度を失ったプロトキラーの装甲。
力の均衡は容易く崩れ、空気が弾ける様な音を立てて鋼鉄の装甲が砕け散る。
なおも勢いを失わず深くに喰い込むハンマーは、機械の頭部を完全に押し潰した。

―ビュッ!!

一瞬、大きく鳴り響いたノイズ音を最後に殺人機械はその機能を停止した。



試作品…って言ってたな。多分、実戦投入は初めてだったんだろう。
今回は、こいつ自身の実戦データ不足につけ込めたからなんとか勝てたけど、
綿密な実戦データをプログラミングされてたら、俺達に勝ち目はなかったろうな。

さて、残るはあの兵士…え?

―!!!!!―
「うわああぁぁぁぁ!!!」

ブラウンがハンマーを振りかざして、兵士に襲い掛かっている。
その凶声から感じられる明らかな殺意。兵士の頭蓋を砕こうとハンマーを振りかざす。

間一髪でサトチーに取り押さえられたブラウンは、狂犬のような荒んだ目をしている。
ネコの威嚇のように、フー フー と荒い呼吸をする姿は、やはり正気とは思えない。
サトチーの胸に抱きかかえられながら、自分を捕縛する腕を振り解こうと暴れまくり、
既にサトチーの両腕は傷だらけになり、血が滲んでいる。
「ブラウン…ブラウン…一体どうしたんだ?」
今のブラウンの瞳には無邪気さや優しさは感じられない。
本能のままに人間を襲い、その命を奪おうとする狂気が染み出している。
変貌したブラウンを抱くサトチーの両目に困惑の色が広がった。



イサミ  LV 15
職業:異邦人
HP:18/74
MP:12/12
装備:E天空の剣 E鎖帷子
持ち物:カバン(ガム他)
呪文・特技:岩石落とし(未完成) 安らぎの歌 足払い
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