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◆Y0.K8lGEMAの物語

入り旅人に出女[3]
地下通路を抜けた先。ラインハット城の中庭は驚くほど静かだ。
無駄な戦闘は出来るだけ避け、見張りの衛兵を数名ぶっ飛ばして城内へ侵入。
そのような作戦を立てていたのだが、見張りどころか人の話し声すら聞こえない。

「安心しきってるのかもな。王家の有力者以外は地下通路の事を知らない筈だし」

予想外に容易に進入できた事に安堵してはいるが、周囲の警戒は怠らない。
地下牢にモンスターを放つような国家だ、城内だろうが油断は出来ない。

「ヘンリー。アレ…何だい?」
周囲の様子を注意深く探っていたサトチーが指差す方向には、妙な形状の金属塊。
丸みを帯びた鎧のような、人型のような…何かが数体。
無残に焼け焦げている物、痛々しい貫通痕を残す物、バッサリと切断された物。
残された全てが酷く損傷しており、その姿からは本来の姿を想像できないが、胴体(?)の部分から伸びた、弱々しいまでに細い手足は昆虫のそれを連想させ、千切れた手足の内部からは、多数の無機質な繊維状のものが覗く。

「何だコリャ? 人形…にしちゃ変な形だな」
「鎧にも見えるけど、こんな鎧に合う体型の人間なんていないよねえ」

その沈黙すらも不気味ではあるが、動かないソレに対して警戒心が緩んだのか、無防備にペタペタと触りながら正体を模索する。
「…コレが何かはわからないけど、コレをここまで壊すのは普通じゃないね」
硬質の金属で出来たコレを、破壊し尽くした存在…明らかに人間技じゃない。

「なあイサミ、昨日の夜に聞いた音…覚えてるだろ?」

ヘンリーの言葉を聞いた途端、背中を冷たい汗が伝ったのがわかった。
正体不明のオブジェ…正体不明の破壊音…正体不明の破壊者…
自分が恐怖を覚えている対象がわからない…
きっと、何もわからない事が恐怖なのだろう。

暫くの間、触ってみたり、ひっくり返してみたり、ハンマーで殴ったりしていたが、中庭のアレについては、今の段階では何もわからない。
わからない物の正体を探るよりも、今の俺達が優先すべきはデールに会う事。
中庭に繋がる勝手口から城内へ侵入し、デールがいるであろう謁見の間を目指す。

「ストップ」
先頭を走るヘンリーが大きな扉の前で立ち止まり、後に続く俺達の足を止める。

「大広間の中から大勢の人の気配がする」
渡り廊下の突き当たり。謁見の間から階段を下りた真下に位置する大広間。
豪華な装飾が施された巨大な扉は閉じられ、中の様子を窺い知る事は出来ないが、ヘンリーの言う通り、扉の向こう側からざわめきが聞き取れる。

ほんの少しの扉の隙間から中を覗き込むと、多数の兵士の姿が見える。
「なるほどねえ。ここに城の兵士が集まってたから、警備が手薄だったのか」
「城下守衛兵に王家近衛兵…番兵まで集まってるな。一体、何が…」
「静かに。何か始まるみたいだ」

ざわついていた扉の向こうが一瞬で静まり返り、空気が緊迫した物に変わる。
コツ…コツ…と、張り詰めた静寂が支配する広間の中に己の足音を大きく響かせ、大広間と上階とを繋ぐ階段をゆっくりと下りてきた男。
女性の様に艶やかな金髪とはアンバランスな、鋭い眼光が印象的だ。

「…あれは…デール…」

…あの人がヘンリーの弟、現ラインハット王デールか…イメージとは随分違うな。

ヘンリーの口から聞いていたデールは、優しい性格だが気弱で鈍臭い面もある… いわゆる、イイ人なんだけど頼りない彼…って感じのイメージだったのだが、今、姿を現したデールから感じられるのは、猛禽類のような油断のない目と、王…と言うよりも、暴君のような威風堂々とした立ち振る舞い。
事前情報が間違っているのではと錯覚させる、冷たい威圧感を感じさせる。

恰幅の良い貴族風の男―大臣だろうか?―が、最敬礼を持って王を演説台へと導く。

「我がラインハット軍は、近日中に商業都市オラクルベリーを侵攻・制圧する」

女性のような艶やかな金髪とはアンバランスな、鋭い…冷たい目で広間を見渡す。
王の言葉に、若干どよめく兵達…それを一通り眺め、さも満足そうに手を上げる。
ぴたり…と、元の静寂を取り戻す広間。王の演説は続く。

「自治都市であるオラクルベリーを落とし、それを拠点としてポートセルミに侵攻。西方の物資さえ手にすれば、テルパドールやグランバニアの軍も恐るに足らず。北方、西方、南方、東方、全ての大陸を制覇し、我がラインハット王国は未来永劫、世界の頂点に君臨する国になる!諸君等はその輝かしい歴史の目撃者となるのだ!」

熱を帯びたデールの言葉に、広間の中に歓声が挙がる。
城の中、全てが狂ってる…侵攻…侵略…制圧…誰もそれをおかしいとは思わないのか?

「デールの奴、マジで言ってるのか…」
世界の制圧…それを口にしたのは、紛れもないデール本人。
眉間にしわを寄せたまま、ヘンリーの手が鋼の剣に掛けられる。

「待つんだ。今、騒ぎを起こすのはまずい」
今にも扉を蹴り飛ばして広間に乱入しそうなヘンリーを、サトチーが押し留める。

―元凶がデール本人であるのなら…俺がこの手でデールを斬る―
俺の頭の中でリフレインするヘンリーの言葉。

「ところで…」
声量は大きくないが、歓声を突き破って聞こえる王の声。
先ほどの熱が冷めたように、底冷えのする冷たい声。

「扉の外に来客のようだ。丁重にもてなせ」

!!バレてる!?

頭が認知した時には既に広間の扉は開け放たれ、槍を構えた兵達に取り囲まれていた。
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