[] [] [INDEX] ▼DOWN

タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

かみのちから
俺たちはこの町へ滞在することとなり、早速例の樹を植えたりクリーニの指示で薬草を集めたりの日々を送った
不思議な樹は地下室でしか成長することが出来ず、サリイの言うとおり挿し木してすぐに実をつけた
不思議な木の実はどんぐりくらいの大きさでりんごに近い色をしている
香りも味もよく、たった一つで疲れきった俺たちを癒してくれた
この町へくるまでに食べた小さな実よりも腹にこたえ、満腹感も感じさせてくれる

病気で眠っているという二人は一切の口を利かず、それはトルネコのそれと酷似していた
クリーニによれば魔物に襲われ末梢循環不全状態に陥っているという事だが、意味はわからなかった
話を聞いて俺なりの理解をすればショック状態だと思う
薬草で症状をほんの少し和らげる事が出来るとクリーニは言う
完治させるには長い時間をかけるしかないようだ

そしてこの部屋、最初に足を踏み入れたココは、俺がこの世界で目覚めた場所
今は家具は山積みにされすっかり様子が変わってしまったが、そうだと確信できる
俺は、再び戻ってきた
が、元の世界へ戻ることは今は無い

「タカハシ、真っ暗な部屋でなに難しい顔してるんだ」

声で我に返り周りを見回すと、どうやら夜になっていたようだ
うっすらとした外のあかり
声の主フーラルがランプに火をともす
ぼぅとぼんやりした音と同時に、俺たち二人の影が壁に向かって揺れはじめる

「いや… これからどうすればいいのかなって」
「うん それは俺も考えていたんだが… 恐らく魔王がいなくならなきゃあ何も変わらないんじゃないか」
「もう何十日とここにいる 生きるには支障ないけど、このままってわけには…」

どかりとフーラルが床へ腰を下ろす
起こされた風はランプの火を揺らし、影が踊る
俺とフーラルはこの町にきていらいすっかり打ち解けていた

「タカハシ、いいですか?」

ルビスが隣の部屋から顔をのぞかせ、宿屋の外へ出るように促す
何か大事な話でもあるのだろうか
ここのところルビスは何かを探るように精神集中ばかりしていた
俺はルビスの後に続き部屋を出て宿屋の入り口へ二人して立つ

「実は… 私はどうも、もう力を維持できなくなってしまったのです」
「どういう事だ」

ルビスが、透き通るほどに白くしなやかな掌を、俺へと翳す。

「あなたに見えるこの掌は、私には違って見えます
 どう見えているでしょう
 私には、人間のものであると、映るのです」
「だって、今は人間の姿になっているからだろう」
「いいえ……
 本来ならば、私の目にうつるのは幻影であり、光でなくてはならないのです」

俺の手に、触れる。
それはまことの人間であり、僅かな温かみをもつ、肉体である。
尚更に違和感など感じることがない。

「なあ。 俺にそう教えるには、何か意味があっての事なんだろう」
「その通りです。 時間が無いのではっきり言いますが、私にはもう、あなたを保護する力がありません。
 そしてそれは、この世界全体にまで及び、おそらくはこの場所も──」

ざわめき立つ心と同じく俺達二人は身体をこわばらせる。
ルビスの、穢れを嫌い全てを浄化する眼の光の中で、俺は見た。
真っ黒に穢れ、漆黒を纏う、邪悪な存在。
[] [] [INDEX] ▲TOP

©2008-AQUA SYSTEM-