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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

メルキドのサリイとラルフと住人たち
「ふー、まったくちゃんと確認してくれよな」
「すみません すっかり魔物だと思い込んでしまって…」
「まー、なんにもないからいいけどよ」

足に絡みついた縄をほどき、ぶつぶつと文句をたれる
クリーニとルビスも部屋へと入ってきた

「あの、メルキドにはあなたがた二人しか…?」

クリーニが恐る恐る質問する

「…あんたたちはここへ何しにきた?」
「え、ああ ええと……」

サリイは、聞かれたことには答えてくれず、逆に質問を返してきた
対してクリーニがこれまでの事を簡単に説明する

「なるほど…
 さっき遠くのほうででっかい音が聞こえたけど、その塔が落ちてきたんだろうな…」
「そうです」
「で、あんたたちは生き残った人を探すためここへ… けど、残念だね」

少しうつむき、サリイは続けた

「ここには確かにたくさんの人間が逃げてきて、暮らしていたよ
 けど、だめだったんだ 魔物がたくさん攻めてきて…」
「では、他の人たちはどこかへ避難したのですか」
「いや…
 別の、安全な地を探しに離れたヤツもいたけど、ほとんどは魔物に殺されたよ」
「そんな…」

会話はほとんどクリーニが率先して行っている
俺とフーラルは入り口近辺で話を聞いていた
ここに住んでいる人間がこれほどに警戒しているんだ、いつ魔物がやってきてもおかしくない
ルビスは、そっと佇んでいる
地上の現状を憂いている─ ように感じた

「…あ、この男はラルフっていうんだ」
「さきほどはすみませんでした…」

サリイの後ろで小さくなっている男が頭を下げる

「いえ… そういえば私たちは名乗っていませんでしたね」

クリーニにうながされ、それぞれ自己紹介する
ただ、ルビスは話したくない様子なのか無言だったから、俺が代わりに紹介した

「しばらくここにいるといい
 まぁ、そうは言ってもいく場所なんてこの世界どこもないからね
 ずっといてもいいよ」
「ええ、まぁ… 行くあてもないですし、しばらくお世話になります」
「それと、ここにはあまり食料が無い
 喰い物は自分達で用意してくれよ
 ひどいようだけどアタイ達も自分の分は自分でまかなってるんだ」
「そうですね それはそうですよね… ですが、どうやって?」

畑も無い、果実の実る木々も魔物に荒らされている
そんな状態で一体どうやって集めるのか、それは皆の疑問でもあった

「それなら、大丈夫
 ああ、忘れてたけど適当に椅子へ座ってかまわないよ」

サリイは歩き、窓際へ立つ
俺は部屋の片隅へ積まれた椅子をがたがた降ろし、ルビスとクリーニを座らせた

「…ほら、正面に大きな建物があるだろ
 かなりひどく壊されてしまっているけど、実は地下があるんだ」
「地下、ですか」
「うん この町って長い間廃墟だったし放置されてた
 そのせいで地下は壁が崩れて床も朽ちて、その隙間から樹が生えてるんだ
 なんの樹だと思う? たくさんの果物が成る樹だったんだ!
 その樹のおかげで…!」

少し高揚し息を荒げはじめる
それをクリーニが引き気味に見たものだから「はっ」と、サリイは平静を取り戻す

「すまない… コホン…
 で、なんの樹なんだかわからないけど、アタイ達はその樹を挿し木して増やすことができた
 だからあんた達も、自分達の分を育ててほしいんだ」
「挿し木って… だって木を育てるなんて時間掛かってしまいますよ
 それに果実だけっていうのも… たくさん植えなきゃいけないですし…」
「そう思うだろ?」

サリイがニヤリと笑う

「それが不思議でな、その地下だと育つのが早いんだ
 どれくらいかていうと、そうだな… 二日で大人の樹になる」
「えっ」
「驚いただろ? アタイ達も目を疑ってかかったけど、実際そうなんだ
 それに果物だってもぎとっても次の日にはすぐ成ってる
 その実は不思議で、無くした体力を回復してくれる上に気力もよみがえるんだよ」

サリイと、ラルフも一緒になってまるで自慢するかのように、得意げな表情を見せる

「…よくわかりませんが、それなら大丈夫そうですね」

安心した表情のクリーニ
それは俺もフーラルも同じだった
その樹がなんなのかはよくわからないが、食べ物を与えてくれるならそれでいい

「これであんた達の疑問も解決したな
 さ、まだ奥に仲間がいるんだ」

サリイがラルフと目配せし、部屋の隅に積み上げられた家具の隙間へ俺たちを誘う
隙間を進むとそこには別の部屋への入り口があり、どうやら隣の部屋と繋がっているようだ

「この部屋の壁をくりぬいて、隣の部屋と行き来できるようにしたんだ」

サリイは説明しながら隣の部屋へと案内した

「このメルキドにいる人間はここの仲間も合わせて四人なんだ」

隣の部屋へ入る
ベッドが五つほどあり、その二つに誰かが寝ている
話を聞くと病気にかかり動けないそうだ
そのため、サリイとラルフの二人で看病し、動けるようになったら別の安全な地を求めて移動するんだと、
教えてくれた

「…私は医者です
 この方たちを治療する義務があります
 私にもお手伝いさせてください」

厳しい顔で言うクリーニ

「医者? なんだそれは」

この世界ではまだ医者という言葉は知られていない
クリーニがサリイに説明し、治療の手伝いをさせてもらう事になった

「なるほど… 頼りにしてるよ!」
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