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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

残喘の宿
「つい最近まで人がいたみたいですね…」

入ってすぐの広間は、予想より整頓されている
ただ臭いだけは、湿り気とひりひりする痛みを感じさせた

「ここじゃあ、あんまり落ち着けないぜ…」

真ん中よりすこしずれて置かれた長椅子へフーラルが腰掛ける
続き、すぐ隣へクリーニが座った

俺がこの宿から出るとき、この机や椅子は倒されて散っていた
きっとここへ避難してきた人たちが使うために並べたんだろう

「ここじゃなくてどこかの部屋で一休みしねぇか」

ガタンと椅子を立ち、先へと続く廊下を見るフーラル
部屋は六つ並んでいた

「それぞれ別行動にするか? 全員いっしょに動くほうが俺はいいと思うぜ」
「…そうしましょう」

軋む廊下を進み、手前の部屋を確認する
部屋は床のほとんどが抜け、ベッドも椅子も見当たらない
三つ目の扉へ手を掛けたとき、フーラルが違和感に気付く

「なぁ、ここの床だけいやにきれいじゃないか?」
「ほんとですね」
「タカハシ、警戒していくぞ
 気配は感じないから魔物じゃぁないだろうが…」

ズダ、ダ、ダダ!

「おわっわっ!!」

少し間の抜けた叫びと同時に、先陣を切ったフーラルの身体が躓きよろめきながら視界から消える
ドスンと音がし、倒れたのはわかった

「フーラルさん!」

しまった魔物か?!
油断した!

剣を抜き急ぎ部屋へと踏み込む

「縄かっ?! あ! 待て!」

何者かが部屋の中を動き、声を出すフーラルへ武器を振るう

バシィン!

咄嗟に、奇跡の剣でそれを弾き振るう者を見る
武器を拾いに行く姿は、まぎれもなく人間の男─

「ま、待ってくれ!! 落ち着いてくれ!!」
「なにを! 魔王の手先め!」

魔王の手先?
そうか、この人は勘違いしてるんだ!

床へ倒れ、縄に足を取られもがくフーラル
そのすぐそこには威嚇する人間

「いいか!殺されたくなかったら─」
「待ちな!」

女の怒鳴り声が響く
ルビスがそんな声を出すはずも無く、俺とフーラルは一瞬たじろいでしまう

「その人たちはまぎれもなく人間だよ」

十二畳ほどの部屋
奥の扉は家具で出来た複雑な壁に囲まれ、声はその向こう側から聞こえてきた

「しかし…!」
「落ち着け、どう見たって人間じゃないか
 それともお前は、アタイの言うことが聞けないのかい?」

バリケードの合間を縫って一人の女が歩いてくる

「いやっ そんな事は… すいません…」

男が急に小さくなる
どうやらこの女のいう事は絶対らしい

「驚かせてすまなかった
 アタイはサリイ、一応この町で一番強い戦士だよ」
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