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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

廃墟メルキド
塔から幾日
今日も、昼か夜かはわからないが命の取り合いをする
方向はわかっていても、再び現れ始めた魔物に阻まれ思うように進むことが出来ずにいた

塔を出てからまともな物は何も口にしていない
おかしな空気に中てられた背の低い樹に実る、小さくすっぱい種
食べものといえばそれしかなかった
腹の足しにはならないが不思議と体力を持続させてくれるその種は、貴重な食料だった

「もう、俺は肉が喰いてぇ」
「フーラルさん ここはガマンのしどころです
 きっと町へたどりつけば─」
「みんな! ちょっと!」

ふと見た視線の先に何か人工的な構造物を見つけ、俺は思わず叫んだ

「いきなり、どうしたってんだ」
「す、すみません けどあれって」
「んんー? …お! 薄暗くてはっきりしねぇが町だ!」

ルビスを除く三人は沸き立ち、フーラルがクリーニへ確認する

「先生、どうだ? あれはメルキドか」
「ええ… 確かにそう、そのはず」
「はず?」
「暗くてよく、見えないのです
 ですが、この辺りにはメルキド以外の町はないので……」

地上を歩き始めてから徐々に、大地はますます暗いもやに包まれていた
戦いに慣れた視力の良い人間でも辛うじて建物だろうとわかるほどだ
視力の悪いクリーニには断定することが出来なかった

「ようやくか…… だけどよ、もし魔物のワナだったりしたら怖えーよな」

眉間にしわを作り腕を組むフーラル

(あれはメルキドです)
(ん、本当か?)
(はい)

ルビスとの"念話"を打ち切り、切り出す

「とりあえず、行ってみませんか?」
「……そうだな、もし魔物がいたとしても俺とあんたなら大丈夫だろうしな」

四人は揃って頷き、もやもやとする建物へと歩く
町は予想よりもかなり近くにあり、空間自体がおかしくなっているように感じる
まるでイシスを思い出させる体験だったが、空の暗さも影響していた

「ああ… ずいぶん破壊されてしまっていますが、これはまさしくメルキド…!」

この町は俺も知っている
だがはっきりとは覚えていない
あの時は必死だったし、フィッシュベルへ向かうときもここへは近づかなかったんだ

「…魔物が潜んでるかもしれねぇ
 あんたも念のためすぐ戦えるようにしといてくれ…」

俺は剣に手をかけ、フーラルに続いてゆっくりと町の門をくぐる

「あの時…」

初めてこの世界へ来たときの事を思い出し、小さくつぶやいた
確か、この門をまっすぐ走り外へと出た
つまり、この石畳を逆にまっすぐ進めば宿屋へと行ける
…宿屋、か
思えば全部は宿屋から始まった
なんのためにこの世界へきたのかはまだわからないが、始まりは確かにここだ

「…魔物は、いないみたいだな」
「そうですね 気配が全く感じられない」
「それもそうだが、ついでに人間のいる痕跡もないぜ…」

クリーニが不安そうに辺りを見回す
ルビスはいつもと変わらず、深海色の瞳でゆっくりと辺りを伺っていた

「しかしなぁ… まー、こんなんじゃ人間がいないのも仕方ないかもな…」

小さなため息をつき、フーラルは少しガッカリした様子だ

町は、俺の記憶とは違っていた
ほとんどの建物は壁が壊され屋根は吹き飛び、地面は荒らされ木々は薙ぎ倒されている
必死に走った石畳もでたらめに散らかされていた

「ひどい有様です… 私が以前見たときも廃墟でしたがこんなにひどくはない…」

クリーニは言ったが、一つだけ無事な建物を俺は見つけていた
町の外から見えたひと際大きな建物
その、確かに破壊されたであろう壁は、無造作に積まれた石の塊で塞がれている

「でも宿屋は、無事みたいですね」

俺の何気ない一言にフーラルが反応する

「あれは村長の家じゃないか?
 ずいぶんでかいし、権力のある者が住んでたんだろ」
「いえ、確かに宿屋ですよ」
「ふぅん なんだ、あんたここを知ってるのか」
「え?」
「いや、ここメルキドはずいぶん昔から廃墟なんだ
 だから若いのによくあれが宿屋だなんて知ってるな、と」
「え… あ! そこの看板を読んだだけですよ…!」

慌てて、宿屋の前にある板を指差す
あの板が看板かどうかなんてわかってなかった

「…確かに書いてあるな
 丁度いい、宿屋で休みながら今後を話し合わないか」

俺は一人ホッとし、三人が宿屋へと歩き出した
あまり寄りたくはないが仕方が無い

ずっと前に踏んだ土をまたいで歩いた
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